まさに、「平和を噛みしめる」である。
杜の都の宮町の端っこで、上杉近くにある、こぢんまりとした店。
地球瓶やガラス棚が並び、その中には煎餅がいっぱいだ。
「小萩堂」である。
震災前から知る店で、震災後に大丈夫かと寄ってみた。
店は以前のままでほっとした。
連れ合いは、ここの「いか煎餅」が気に入っていた。
私にとっては「いか煎餅」というと、岩手の宮古が思い浮かぶが、確かに、小萩堂の「いか煎餅」も美味いのだ。
だが、小萩堂の煎餅と言えば、焼き印も売りである。
仙台城に味噌樽や、七夕に萩といった、歴史や風物の絵柄が素敵だ。
風流な焼き印のせんべいが並ぶ中、一風変わった文字を刻むものがあった。
「九条せんべい」である。
仙台も、空襲で焼け野原になった。
堂々たる大手門も、軒を並べた店も住まいも、そして逃げ惑う人々をも火焔は襲い、痛ましい有様が広がった。
これを目の当たりにし、乗り越えた人々は、移り変わる時代の波にも、決して再びこの惨禍を繰り返さぬようにと願うのだ。
そして、戦禍を潜り抜けた店主の気骨が、せんべいに刻まれた。
世界へ、平和憲法を広めようと。
今日は文化の日。
自由と平和を愛し、文化をすすめる日である。(内閣府記載 「国民の祝日に関する法律」)
杜の都の九条せんべいを思い出して、関東の地でも東北に続く青空を仰いだ。
二十三夜堂から、北へ向かって通りを行くと、琴や三味線の「熊谷楽器店」が見える。
その隣で、店頭に明かりの灯る看板と、暖簾を掛けているのが、その明治創業のお店。
2009年、店頭にこんな貼り紙があった。「132周年記念 132円の商品を132円で販売」
このお店は、村上屋餅店。
名物は、もちろん美味しい「づんだ餅」だが、伝統の餅菓子だけでなく、新たな味の菓子も工夫して作っている。
春の兆しが見え、宮城イチゴが出始める時季には、村上屋さんでも「いちごミルク」の張り紙が出る。
それは、イチゴを使った餅菓子だ。
真ん中に、みずみずしいイチゴが入っていて、香り豊かで爽やかな餅菓子。白あんやお餅など和菓子の素材と、いちごとミルクの洋菓子の味わいが調和していた。
この時季、いちごチョコレートの大福も作られている。イチゴの香りが、チョコレートで引き立ち、洋菓子を餅で包んだような、新しい味わいであった。
どちらも、イチゴ大福とは、また一味違う。
お餅の中に、時代に応じた長年の店の意気込みも包まれているように思った。
※追記:今も同じ場所で営業。伝統も新たな一工夫も共に、長年親しまれている店の味は続いています。
その道を歩いてみれば、地下鉄河原町駅を過ぎて仙台堀を渡った辺りで上り坂になる。
先は、左に駐車場や変電所、右側にマンションが見えて横断歩道がある。そこの横断歩道を、右のマンションのほうへ渡って、直ぐ脇の路地に入れば、弓の町へとつながる。
この路地は、「石名坂」という。
さて、その「石名坂」を進んで、行き当たる十字路を左に入ると、そこは昔、その辺りに閻魔堂があったので付いたという「閻魔堂横丁」という通りだ。
「閻魔堂横丁」を行くと、円福寺があり、そのちょっと先にお気に入りの店がある。
たまに立ち寄るのだが、店の雰囲気も商品も、お店の方の笑顔も、ぬくもりがあって良い店なのだ。(2009年撮影)
お店の名前は、「かま志ん 蒲鉾店」という。
ここの笹かまぼこは、炭火で焼いており、焼いた魚の芳ばしい香りがする。味も歯ごたえも、しっかりしていて、魚の旨みがたっぷり味わえる蒲鉾だ。
おでん種によい、揚げた蒲鉾類もたくさんあるが、この日は、黄色くて焼き目も美味そうな「玉子」を買った。
噛むと、甘味の奥から、魚の旨みがにじみ出てきて、わさび醤油などをつければ、おつまみにもおかずにもなる、玉子焼きのような蒲鉾だ。
甘さと卵の風味が、お茶請けにもいい。旨い具合に個性を活かす、いい役者みたいだ。
※追記:現在は、店舗が新しくなっています。
実は、震災当時も建替えのためにプレハブの仮店舗で営業していたとのこと。案外丈夫で、被害がなかったと言っていました。
まだ仮店舗の頃に寄った時は、せっせと作る姿が目の前にあり、笹かまぼこを買ったおまけに、出来たてのあったかいのを食べさせてくれました。
杜の都の北東に、江戸の御威光と共に仙台藩の繁栄を示すような、飴色の透塗(すきうるし)や精巧な細工を施した美しい神社がある。二代藩主の伊達忠宗公が造営した、徳川家康公を祀る「東照宮」だ。
この東照宮から、南方向へ長く長く伸びる道があり、そこを「宮町通り」と言う。
実は、この仙台宮町に、美味しい煎餅と「人形焼」があるのだ。
宮町通りを東照宮から進んでいくと、2つ目の交差点で「宮町3丁目」となり、この交差点を少し過ぎた所の十字路を左(東方面)に入る。
その路地を少し進むと、瓦のひさしの下に扇形の看板が付いた、趣のある店にたどり着く。
このお店は、「味道楽せんべい 味楽(みらく)」さんだ。
穏やかな甘さの、歯ごたえが軽くて小気味よい、美味しいお煎餅を売っている。
この味楽さんでは、お煎餅だけでなく、東京の下町で有名な「人形焼」が売られている。
人形焼は、明治頃の発祥だろうか。人形町から、型で生地を焼いた菓子が作られたのが「人形焼」の始まりだと言われている。
もともと、江戸時代に流行った歌舞伎と共に、浄瑠璃の人形遣いや芝居小屋が多く集まったので、そこが「人形町」となり、それにちなんで人形焼が作られたようで、人形町で芝居を楽しむ人々にも親しまれた菓子だったらしい。
さて、仙台の宮町にある「味楽」さんの人形焼は、中に餡が入った、生地が芳ばしく、しっとりとして程よい甘さの人形焼きであった。
その形は、人形焼の伝統の型といわれている、「七福神」である。
東京では6個で、「お客さんの笑顔を入れて七福神」などと言うが、仙台のはちょっと違う。
「あれ?七福神だけど、8個だ。」どうやら、大黒様が2つあったかなと、顔を見比べた。
末広がりの8つにしたのだろうか、豊かで円満な人形焼だった。
町をゆったり歩いて、笑顔を誘う人形焼を楽しむのもいいものだ。
※追記:今も同じ場所で、美味しい煎餅と人形焼が売られています。仙台で作る、伝統の七福神人形焼は、この味楽さんでしか見たことがありません。
瓦せんべいの材料はカステラと同じなので、菓子作りの技法を活かして人形焼きも作られているのでしょう。
ちなみに、上杉や二の森にも、同じく瓦せんべいを主としたお店があるので、聞いてみたら親戚だと分りました。でも、各々が独立しており、それぞれに持ち味があります。