Entrance for Studies in Finance

田淵直也『ファイナンス理論全史』ダイヤモンド社, 2017

著者は1963年生まれ。一橋大学経済学部卒業後 日本長期信用銀行。長銀の英国法人でデリバテブポートフォリオの管理責任者。その後 UFJ投信を経て現在は金融コンサルタントとして著述も多い。まず記述が分かりやすいというのが第一印象。この本の使い方だが、全編を丁寧に読むより、気になるところで著者の説明を参考にする・・・辞書代わりというのがいいかもしれない。

モメンタム効果 モメンタムは相場の勢いを意味する言葉で、モメンタム効果とは、相場がいったん上昇または下落のトレンドに乗ると、それがしばらく続く可能性が高いことを表す。だから、上がった株を買い、下がった株を売ることでリターンを得やすくする。(この説明は明解。)

トレンドフォロー 順張りという手法では モメンタム効果をねらっている。

(真壁氏はモメンタム戦略を「株価が勢いよく上昇している局面で、さらに買いを入れて、その勢いを増すことによって収益機会を探る戦略である。真壁昭夫『最強のファイナンス理論』講談社, 2003年, 171と説明する。そしてこうした現象が生じるのは、株価にとって良い情報にとって当初過少反応した投資家が、事実が明確になると一斉に行動にでるため、急速に上昇すると説明する。当初過少反応であるのは、投資家は既に持っている情報からそれを一時的と判断する傾向がある。アンカーリング効果。)

(ここでトレンド追随型と呼ばれる CTA(商品投資顧問)と呼ばれる海外ヘッジファンドの売買を考える。CTAは、相場が上昇トレンドに入れば買い、下落トレンドに入れば売りに転ずる 売りは3段階にわかれる。

 最初はリスク許容量が減っただけ 持ち高を減らす。つぎは上昇トレンドが終わったとの判断で、買い持ち高をゼロに近いつける。最後は下落トレンドに転換したと判断して、持ち高を売りに傾ける。・・・このような機械的な売りがあることで、個人投資家が下値で拾おうとしても、相場の下落が続き成功しない。下落基調が長引くことにもなる。)

 つぎにモメンタムとは逆のアノマリー。相場は上昇すると次は下がりやすくなり、下落すると次は上がりやすくなる。これはリターンリバーサル効果と呼ばれている。そしてコントラリアン 逆張りは トレンドフォローの逆で リターンリバーサル効果を狙うものである

(真壁氏より 市場でよく使われる投資手法である逆張り投資は、通常の投資戦略に比べて非常に収益性が高いと言われている。逆張り投資とは、・・・相場の流れやモメンタム(勢い)と反対の投資を行う戦略である。・・・この逆張り戦略が成り立つための一つの条件は、株価が売られ過ぎて上昇したりしても、いずれ、あるべき水準に回帰する傾向があることだ。真壁昭夫『最強のファイナンス理論』講談社, 2003年, 163  これは平均回帰のアノマリーと呼ばれる現象 逆張り戦略はコントラリアン あるいは リターンリバーサルともよばれる。真壁氏はこの現象の説明として、同じ傾向が続きやすいと考えるための過剰反応仮説と、リスクに対する過大評価という2つの仮説を説明している。)

マンデルブロは現実の市場価格の変動は必ずしも正規分布になるとは限らず、安定分布になると主張した それはレビィ安定分布と呼ばれることがある 今では べき分布という言い方が使われる パレート分布ともいう・・・その後の研究によると マンデルブロの研究が必ずしも全面的に正しいというわけでもない 肝心なことは 異常な事態が起きる確率が平均から遠さかってもなかなか下がらない という性質

市場では正規分布で想定されるよりも極端な出来事 すなわち急激な価格変動がおきやすい これをファットテールと呼ぶ

問題はどのくらい異常事態が起こり得るかは結局わからない・・・どの程度まで異常事態を考慮すべきかという問題に立ち戻る

実務上は計算できないは解決策にならないので

オプション価格を計算するブラックショールズモデルの場合 正規分布の横の広がりを決めるボラテリティの値を、通常のオプションの値段を計算するときより大きくして つじつまを合わせている

ファットテールを ファイナンス理論やリスク管理にどう取り込むかについて 有力な考え方に ボラテリティ・クラスタリングがある ボラテリティの低い時期と高い時期に分けてみると それぞれの時期には正規分布から決定的に逸脱するわけではない

こうした考え方を使えば従来の理論や計算技法の大枠を大きく変更しないまま ファットテールの要素を取り込むことができる

ではボラテリティがどこまで大きくなるか ここで過去がどうだったかに頼る限界がある。あるいはどうしても将来のこと正確に予想できないという問題に突き当たる。

行動ファイナンスが本当に教えてくれるのは、人は本来投資には向いていないということである。(池上 経済学は実験ができない学問ですが、やはり実験をしてこそ科学ではないかと考える流派が経済学でもあって、それが行動経済学です・・・・池上・佐藤 希望の資本論 朝日新聞出版 2015年 p.20)

リスク管理の担当者や責任者は、正規分布の仮定に安住することが許されない。しかしだからといって正規分布がまったくの無意味であるということにもならない。

理論を絶対視することはナンセンスである。一方で、それを無視することも得策ではない。理論からは多くのことを学ぶことができる。

 

 

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