Entrance for Studies in Finance

商工中金の不正融資事件(2017) 

2017年10月25日に中小企業庁に対して商工中金から、危機対応業務をめぐる不正融資問題調査結果が提出された。2017年4月の独立第三者委員会による調査報告書を不十分とみた経済産業省が全件調査を指示した結果、商工中金から提出されたもの。

不正に関与したのは全100営業店中97店(営業店全体の9割超)。関与した職員は444人(全職員の1割強 営業関連職員の3分の1)。4609口座で不正があった(うち危機対応融資対象外が3255。調査対象は22万口座)。不正は組織ぐるみとされる。経済産業省などでは5月に続き業務改善命令を出す方針。この結果から、商工中金は組織を挙げて不正融資をしていたと判断される。背景には商工中金では、危機対応業務で融資を伸ばそうとのノルマがあり、各営業店で経営実態が悪化していない企業の財務書類を改ざんして融資条件を満たすことが横行していたとされる。しかしこのことは危機対応融資の趣旨をゆがめ、民間金融と競合する行為。ではなぜそこまでして融資を拡大しようとしたのか(2017年3月末の融資残高は9兆3568億円 職員数3886人 国内100店舗 国外4店舗)。どうもノルマが各支店責任者のコンプライアンスをゆるめ、現場レベルでは財務書類の改ざんが日常化していた疑いがある(日経経済教室2017年10月25日鹿野嘉昭氏)。少なくともノルマ設定は商工中金本部が絡み、商工中金という組織そのものが民業補完という立場を忘れ規模拡大に走った構図は明らかだ。虚偽文書を提出させる意図が本部になくても、現場ではノルマに押されて虚偽の報告で融資を拡大することが常態化していたと思われる。このような組織を放置した経営topの責任は重いのではないか? 現経営陣の総退陣(現在の社長の足達健祐氏は2016年6月就任で経済産業省出身 元経産次官 副社長は2人で一人は財務省出身 2013年6月から社長であった杉山秀二社長も元経産次官だった・・・歴代社長がこのような官僚出身者のポストだったことも問題)、コンプラの立て直しは不可欠。しかし今後、民間の経営者が入って、組織の拡大を図るとすれば、それも求められる改革とは違う。商工中金の立場は民業補完のはず。これから必要なのは、アグレッシブな経営ではなく、コンプラを重視し、規模をむしろ思い切って縮小することだろう。なお、中小企業庁には危機対応融資予算を立案し、商工中金に予算消化を求め、問題の原因を作った責任が指摘されている。中小企業庁の担当者の言動を精査し、不当な圧力をかけている場合は摘発される必要があるだろう。

取引先の財務書類を書き替え業績の悪化を装わせて危機対応融資(災害などで一時的に業績が悪化した企業が対象 2008年の2016年9月末残高3兆700億円 全体の融資に占める比率32%について不正を確認。2017年4月25日 対象口座の1割(12.6% 2万8000件)についての第三者委員会調査結果を公表:35支店 816件 業績悪化を装うために 企業の売上高を引き下げる純利益 粗利益などを下げるなどの不正があった 関与者99人 現在の不正かかわる融資残高は約200億円(2017年3月末段階) 

なおサンプル全体に対する不正比率は2.9%であるので不正は一部ともいえる。

経済産業大臣による業務改善命令・・・2017年5月9日 

主務官庁である経済産業省に代わり金融庁の立ち入り検査が2017年5月24日午前着手された(検査チーム14人 今回の不正は多くの人員が関与 オープンに不正をしていた異例のケース 組織的不正と判断される可能性)。

2017年6月6日明らかになったところでは日本政策金融公庫は2016年11月分より商工中金への利子補給停止(利払費用を国が支援してきた 調査後再発防止策策定を待って利子補給再開の予定 商工中金は利子優遇継続)

  その後、残り(未調査)の19万件2000件を調査について 弁護士・公認会計士など700人超の体制で9月末までに調査を完了する工程表作成 この工程表と再発防止策(ノルマの廃止、社内メール保存期間延長など)を2017年6月9日に経済産業省・財務省・金融庁に提出 

営業店のノルマ営業 意図的に危機対応融資を膨らませることで組織の存在意義をアピールしたとの指摘がある。長年不正を繰り返してきた組織的犯罪を指摘する声がある。なお6月9日の記者会見で社長の足立健佑社長は辞任しないとした。今後 危機対応融資制度の見直しへ進む模様(危機時に限る制度に変える。民間金融機関の関与促す)。このほかトップが経済産業省からくることで、内部統制や企業風土に問題があったとの指摘もある。不正により国費が無駄になったとの指摘、公的金融そのものの見直しの必要性を指摘する議論もある。問題がどこまで拡大するか、関係者の処分がどのように厳格におこなれるか(歴代トップへの責任追及など追及が過去にさかのぼるか)も注目される。内部の運営では、生え抜きの役員が重要な意思決定を行い、経営トップがいる取締役会が形式的な報告の場になっていた疑いがある。トップが業務に精通していないのか、あるいは現場がトップを無視しているのか。ガバナンスに重大な問題があることは明らかだ。

次に主務官庁の中小企業庁は、危機対応融資の事業規模を商工中金の言いなりに予算審査していた可能性がある。そして商工中金は自らの存在意義を確保するため、数字を作ることに走ったとみられる。他方、地銀は商工中金の危機対応融資で結果として、地銀のビジネスチャンスを奪った。ただ本来の危機対応融資について、果たして地銀にやる気があるかはなお疑わしいとされる。つまり商工中金の不正融資は、批判されるべきだが、危機対応融資そのものをすべては否定できないし、商工中金がおこなっているミドルリスク業務に対して、地銀は十分取り組んでいるとはいえない。地銀は優良企業向けの単純融資からなかなか抜け出ていないので、なお商工中金に存在意義があるとされる。

2018年1月11日にまとめられた経済産業省の有識者会議報告(座長川村雄介氏)は、今後4年の改革期間を置いて、民営化につき4年後に改めて判断する内容(会議では完全民営化論が強かったが)になった。民営化まで独立した第三者委員会が改革の進捗を点検する。危機対応融資は大幅に縮小。今後は担保や保証に頼った融資から、事業再生や事業承継など中小企業の支援に注力する。再発防止のため取締役の過半を社外とするなど、経営監視を強める。経済産業省ー中小企業庁は、危機の時に民間や国の信用保証制度だけでは不十分と訴えた。しかし本当のポイントはアベノミクスでは、日銀の金融緩和と並んで、公的マネーを膨らませる政策(官民ファンド 産業革新機構 海外交通都市開発事業推進機構JOIN 海外需要開拓支援機構:クールジャパン機構 大学直営ベンチャーキャピタル 地域経済活性化支援機構 民間資金等活用事業推進機構 海外通信放送郵便事業支援機構JICT など17機関)がとられている。そのなかで生じた商工中金(政府系金融機関の一つ 政府系金融機関にはほかに日本政策金融公庫 日本政策投資銀行 国際協力銀行 沖縄振興開発金融公庫)の不正融資は、この公的マネー拡大政策のほころびの露呈と思われることである。

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