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The Siege (1998)

the siege (1998)

海外(1998年秋)での公開から日本での公開(2000春)まで1年半のずれがあり、日本では「マーシャル・ロー」martial law(戒厳令)と題して公開された。
siegeというのは包囲戦という意味。


イラクでのテロが米国のNYに波及して捜査に乗り出すFBI捜査官のAnthony Hubbard(Denzel Wasington)は、NY市に戒厳令が施行される場面に遭遇する。そして陸軍を率いて治安維持にあたるMajor Deveoaux(Bruce Willis)と対峙に至るのだった。

脚本Lawrence Wrightは登場人物のからませかたが巧みである。中近東に在住したことのあるAnnette Bening(Elise Kraft)が、CIA職員としてかつてはアメリカが支援したアラブ人たちが、テロ行為に加わっていることの証人として登場。Hubbardの部下のAgent Frank Haddad(Tnony Shalhaub)はFBI捜査官なのに子供が陸軍により連れ去られてしまう。このほか米国在住アラブ人が、人権保護を十分受けられない状況が描写される。(同じような議論と描写をその後テレビドラマのシリーズ24(since 2001)でも私たちは見させられた。つまりこの矛盾はアメリカ人もよく分かっているわけだ。)

テロ抑止を目的で有無をいわせずテロ集団はせん滅されるし(テロ集団が武装している以上、ここまでは仕方がないだろう)、協力を疑われる人たちは一律連行されてしまう。そして大きな被害を避けるためには個人の傷みは小さいことだとして拷問による尋問が正当化される*。そして時間が優先されるときには相手の死も問題はない。このあたりの論理にはヘドがでるが、勝つか負けるかが死を意味する戦争の局面ではわからなくはない。戦争とはそもそも非倫理的なものなのだ。だからそもそも武力による騒乱などを開始してはいけないのだ。
 *これは功利主義utilitarinismと道徳との対立としてマイケル・サンデルが豊富な例題で私たちに問いかけるところだ。「拷問を支持する議論は功利主義的計算から始まる。」あなたはこう主張するだろう。「一人の人間に激しい苦痛を与えても、それによって大勢の人びとの死や苦しみを防げるなら道徳的に正当化されると」。サンデルは拷問にかけられる男をテロ容疑者とする功利主義とは無関係な推定がそこに加わっていると指摘している。「シナリオを変えれば、この点がさらにはっきりする。テロ容疑者の口を割らせる唯一の方法がその男の幼い娘を拷問することだとしよう。それは道徳的に許されるだろうか?」マイケル・サンデル 鬼澤忍訳『これからの「正義」の話をしよう』早川書房, 2010 年5月, pp.52-55.サンデルは功利主義(=過度な個人主義)あるいは私たちが無意識に陥っている思考様式には人間の尊厳を軽視する問題面があることを明らかにして、正義を語る上では、道徳的判断基準を持ち込む必要があることを明らかにしている。

 ところでこの映画の制作公開は2001年9月11日の同時テロ事件前。もちろん2003年3月20日の米国による対イラク戦争開始前である。そう思ってみると、この映画は先見性にあふれている。米国はイラクに軍隊を送りこんで、イラク全体をそうした状態にしてしまったのではないか。この映画はNYを舞台に、人権よりも治安や規律が優先する軍隊という存在を民衆の前から退かせて、まずは現地の警察による治安維持体制を確立することの意義を明らかにしている。なおイラク戦争の最大の開戦理由とされた大量破壊兵器は、実在しなかったことが米国政府により公式に確認されている。

the Siege trailer
clip 1/3
clip 2/3
clip 3/3

movie review by ramblings
Written by Hiroshi Fukumitsu. You may not copy, reproduce or post without obtaining the prior consent of the author.
 Originally appeared in July 4, 2010.
Corrected and reposted in Aug.4, 2010.(2016-06-04更新)


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