Entrance for Studies in Finance

円高に進まない為替相場 金利平価説と購買力平価説

 為替相場についての古典的学説として、購買力平価説と金利平価説がある。為替相場を通貨の交換レートとして考える。同じ単位の通貨でより多くの相手の通貨と交換できる状態をその通貨価値は高くなった。より少なく交換できる状態をその通貨は安くなったと表現することにしよう。
 為替相場がある期間、安定しているとする。それは為替相場が均衡していることを示す。そこから変動を始めるときに、要因して金利格差に注目するのは金利平価説。物価の上昇格差に注目するのは購買力平価説である。
 たとえば、米国で金利が上がるからドル高になるというのは、金利平価説である。ドルという資産をもつことで稼げる金利の大きさが、通貨間の均衡レートを決めるという考え方だ。
 日本で金融緩和が続き、アメリカの金利は上昇するとなれば、ドル高円安になる。ドルのニーズが増えて、円が売られるからだ。日米長期金利差は2012年頃が1%割れ。2007年には2%後半から縮小して2012年に1%割れ。その後また拡大して2018年に再び2%後半になった。金利差を考えるとドル高になってよい。ところが、ドル相場は必ずしもドル高(円安)に動かない。
 2017年の相場はおちついていた(17年1月トランプ政権発足)が、2018年1-3月105円台へ円高が進んだ。つまり円安が阻まれたがその後は112円程度に戻っている(2018年7月)。こうした為替の動きは何を意味するのか?
 政治的な問題を置いておくと、日本の物価上昇率の低さが影響しているとの主張がある。こうした物価変動が均衡するところで為替の均衡を考える学説を購買力平価説という(物価上昇率の高い国の通貨が安くなる、あるいあは物価上昇率の低い国の通貨が高くなるというもの)。たとえば日本の物価上昇率が相対的に低いと為替は本来、円高ドル安に調整されるべき。円高への動きはこの物価上昇率格差がもたらしているのでないか。これは米国の景気の回復により、米国の物価が上昇する局面での円高ドル安を説明するのにも使える。
 株式に注目して米国株が上昇するときドル高になる、日本株が上がるとき円高になるという言い方もある。
 通貨の安全性の違いが、ときによっては通貨の選好を決めることもある。他の国の通貨より、ドルが選ばれる(ドル高)になる。円が選ばれる(円高)になるという言い方もある。
 経常収支や貿易収支に注目して、通貨への実需から通貨の強い弱いを議論することもある。一般に短期には金利に注目。中長期には購買力平価が妥当するともいう。またその時々に市場が注目しているものが違うともいえる。あるときには金利、あるときには物価水準。あるときには株価。あるときには貿易収支というように。また米国の政権が、どのような為替水準を望んでいるかも無関係ではない。現在のトランプ政権は、自国の貿易収支を立て直すためにドル安(円高)志向があるとされる。これに対して安倍政権は、景気・株価を維持するために円安を望んでいる。

注意されるのは円高・円安がそれぞれ、反転の要因を抱える構造になっており、為替相場とは本来、一方向に展開するものではないということだ。
ドル安(円高要因)
 米国内の物価上昇(原油高あるいは景気回復)
 円高局面での損失限定のための円買戻し。
 金利上昇による世界経済の減速懸念
 金利上昇により米株価崩れる懸念
 ドル安のなかで中央銀行の保有資産としてのドルの位置の低下。
 リスク回避資産としての円ニーズ。
 日本の金利低下局面では日本の債券へのニーズ。
 トランプ政権による安倍政権の為替政策(円安誘導政策)への批判。対米貿易黒字が多い日本の露骨な円安誘導策を批判。
 米中摩擦などの懸念 
 日本は金利は低い(円安要因)が日本の物価上昇率も低い(米国は2%台 日本は1%台)→ 為替レートは円高に振れる
ドル短期金利上昇。→ドル調達コスト上昇・ドル買い減少。投機的な短期投資筋の動きを抑える。あるいは外債投資が抑えられる(ヘッジコストの上昇から外債投資抑えられる 円高要因)。
 金利差は外債投資の要因(ドル高円安要因)。半面では海外金利の上昇で保有海外債券に含み損が出る。→米国債を売却 損失限定あるいは確定 ドルニーズ減少 資金は国内へ(円高ドル安要因) 国内金利には押し下げ圧力
ドル高(円安要因)
 海外投資家が日本株を買った資金をドルの戻すとときにも円売り(ドル買い)が生ずる。
 円高局面での相場の逆転を読んだ円売りドル買い(逆張り)。
 トランプ政権のドル資金還流政策=リパトリ減税。米企業が海外で稼いだ利益を本国に戻す際の税負担を軽減するもの。現在の35%を流動性の高い資産を14%、固定資産を7%に軽減。
 リスク回避資産としてのドルニーズ。
あるいは相対的に金利が高い米国債ニーズ。
 為替ヘッジ(金利上昇局面ではヘッジコストの上昇が外債投資を抑えることに)をかけない外債投資。こうした投資は円高局面で行われるが、それは半面、円高を抑える面がある(外債投資拡大)。
 また日本企業の円高局面での海外へのM&A投資の大きさ(武田によるシャイアー ソフトバンクのアームなど)は、円売り(ドル買い)の実需を生んでいる。これらの円売りも、円高の進行を抑える。

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