Entrance for Studies in Finance

Case Study on Fuji Fuilm(1) 富士フィルムの業務転換

明らかに衰退に入った産業から企業はどのように再生への道をたどるのか。その成功事例として有名な企業に富士フィルムがある。その再生のプロセスは、2005-2006年と2008-2009年の2度にわたる5000人規模の人員削減(固定費削減)を抜きに考えることはできない。人員削減を始めとする資産圧縮そして絶え間ない投資の継続こそ、復活のカギだったのではないか。

利益の3分の2を稼いでいた写真フィルム事業が減る 本業喪失の危機ことにどう対応するか(小森重隆氏 2000 社長 2012HD会長兼CEO)。2001年富士ゼロックスの連結子会社化(1600億円)。2003年頃から構造改革に取り組む。2008年富山化学工業買収(1360億円)・・・・肺炎向け治療薬「ゾシン」 新型インフルエンザ治療薬「アビガン」:2014夏 エボラ熱に有効ではないかと注目され話題に。2014夏にはインフル薬「ファビピラビル」が有効という説も流れる。2013夏ー2014春 医療用画像処理システムや消火器内視鏡等 医薬品・医療機器などヘルスケア部門好調。円安による採算改善。事務機は国内でカラー複写機、アジア太平洋ではモノクロ機 ドキュメント部門伸びる デジカメなどイメージンング部門は高級機に特化(低価格タイプ縮小)で利益率改善 2015-16 インスタントカメラ「チェキ」が好調(1998年11月に発売 2007年に韓国ドラマで使われ国際的ブームに。リアルなものが残ることに新鮮さ)、デジカメは高級機伸びる。他方2016年頭 事務機の輸出は新興国使安で採算悪化

 2012 超音波診断装置の米ソノサイト買収 760億円

 2015  再生治療の米セルラーダイナミックス買収 330億円

 2016 東芝メデイカルシステムズ 買収でキャノンと争うが敗れる(2016/03/04 最終入札で優先交渉権はキャノンが獲得 7000億円強いを提示 富士は6000億円規模を示す)

写真フィルムの会社 → 事務機を中心に(富士ゼロックスが利益の半分稼ぐ)素材で幅広く稼ぐ企業に変身

2014-17 中期経営計画 M&Aに5000億円 自社株買いなど株主配分に2000億円 自己資本利益率7%を目標(2014年11月11日発表) 手厚い手元資金をどういかすか 配当性向25%(2013末) 医療を1兆円事業に育成

  写真フィルムの需要の急減(デジタル化)は早くから予測されていたが、2000年代に入ってから急激に進んだ。レントゲンフィルム、印刷用製版フィルムという収益の柱の需要急減もほぼ同時に生じた。その後10年間で写真フィルムの売上高は10分の1にまで減少した。そして2008年秋の世界同時不況が追い打ちをかけたのである。 液晶用フィルム(TACフィルム)のほか医療医薬品事業が、現在の収益の柱になっている。写真用フィルムの将来に早くから危機感をもって、新規分野を育成したことが再生につながった。なお従来のカメラ事業は、とくにコンパクト機でスマホに顧客を奪われる問題が深刻化している。直近ではエボラ出血熱で インフル薬アビガン(ファビビラビル:インフルウイルスの増殖をふせぐもの 20143月厚生労働省から条件付き製造販売承認)が効果があるのではと社会的に注目された。薬品事業(13年度売上高3800億円)は2008年に富山化学工業子会社化が契機 アルツハイマー治療薬 インフルエンザ治療薬が軸 医療機器としてマンモグラフィ装置(乳房エックス線撮影装置)

 次の成長分野であり景気に左右されにくい医療分野へのシフトが明確に(2013年春)
2013年3月期営業利益見通し1100億円(2013年1月)
 2014年3月期純利益見通し700億円(2013年5月)
 配当性向目標25% 総資産利益率5%以上目標 期中平均総資産で税引き後営業利益を割る。各分野でグローバル化も進めている(新興国向け カメラでは低価格帯) 写真用フィルムから構造転換 2012年に経営破たんした コダックとは対照的に生き残りに成功  写真用フィルムは売上の2000年の19%から2010年の1%まで低下(2010年3月 赤字を出して海外現像所統廃合 構造改革費用計上 生産設備の償却前倒し 減損処理 人員削減(間接部門のスリム化 業務地域の重複する子会社の統廃合 海外で正社員削減 国内で希望退職・配置転換実施)に踏み切る 写真フィルム関連事業など対象に資産圧縮を実施)。傘下に富士ゼロックス(75%) 富山化学(66%)などを抱える

かつてのライバル コダックが破産(20121)したことと対照的。
 コダック イーストマン・コダックが1880年に創業した 名門企業の一つ。本社 ニューヨーク州ロチェスター → ロチェスター大学 イーストマン音楽学校
      2006年9月末 デジカメの製造をEMSに全面委託へ
      2007年1月 医療画像部門を売却 
      2009年6月 コダクロームの製造中止を発表
      2009年 有機EL事業を韓国LGグループに売却
      2011年2月 コニカミノルタがデジタル印刷機分野で提携
      2011年12月 資金繰り懸念 株価が1ドル割れ 
      2012年1月 フィルム事業部門の廃止 傘下事業を法人向けと消費者むけに2分割
      20121月 米連邦破産法11条(日本の民事再生法)申請 NYSEで上場廃止
      2012年2月 デジカメ事業からの撤退を発表 プリンター事業に進出 早期再建目指すとのこと。ロサンゼルス コダックシアター(アカデミー賞の会場)の命名権契約を打ち切る 
 2012年4月 オンライン写真共有サイト事業の売却を発表
 2013年5月 コダックは債務と株式の交換を内容とする事業再建計画を裁判所に提出したとのこと。 

コダック破綻では米国式経営のもろさと弱さが明らかに
 コダックは豊富な内部留保を株主還元に回さざるをえなかった。日本の企業である富士フィルムはそれを事業再編に使えた。株主還元が企業の回復力を弱めた。研究開発でも長期的観点からの技術開発(①現在の主力商品の改良・改善につながる技術②次の主力商品につながる技術③可能性を秘めた技術)はむつかしかった。背景:デジタルカメラ普及による銀塩フィルムの消滅。1980年代に多角化を進めたものの 1990年代に選択と集中により、本業以外の事業をつぎつぎに売却して、将来の成長の種まで失う選択をした(化学部門のイーストマンケミカルのスピンオフ)。デジタルカメラへの転換の遅れ。次の事業としたプリター事業(商業用デジタル印刷を重視)での苦戦。これに対して日本のカメラメーカーはデジタル化を異分野への進出で乗り切ったとされ米国流の選択と集中戦略について企業生命を伸ばすという点では疑問があるという指摘がある。   

 キャノン:複写機・複合機、プリンター事業へ。
 ニコン:半導体や液晶パネル 露光装置へ。オリンパス:内視鏡など医療用機器へなど。 

 また内部留保について米国では株主還元の圧力が強いことが業態転換の制約になる。富士の場合、まずは蓄積された技術の周辺で複写機、デジタルカメラ、電子部品電子材料など。さらにそこから医療や化粧品など異分野であるが、蓄積した技術が役立つ分野に進出した。コダックの場合は、内部留保を株主還元に用いることを求める外部の圧力の高さに加えて、企業が多角化してでも生き残ることに、アメリカ社会そのものが寛容でなかった(コダックの破たんは、投資家優先の米国社会では、企業の存続を優先させて多角化で生き残るよりは内部留保のペイアウトを経営者は迫られたことを示すという理解がある。他方 投資家がポートフォリオの段階で多角投資してリスクを下げることは投資理論で容認している)。

富士フィルムはなぜ生き残れたか 震災以降も成長投資を中断することなく健闘
 2011年3月に大震災では6拠点が被災 幸い直前の構造改革効果で収益体質スリム化 2011年には災害対策として生産拠点の分散も進める
 豊富な自己資金 10年間でM&A7000億円近く投じる(2011-12 携帯型超音波診断装置の米ソノサイト2011-12決定約9.95億ドル 携帯型では世界2位 米製薬大手メルクからバイオ医薬品(医薬品メーカーの間で技術取り込みを狙ったM&Aが活発)の受託製造会社2社を約400億円で買収 協和発酵キリンと共同でバイオ医薬品会社設立2011-11など)
 2011年以降のM&A 積極化策に高い国際的評価
 現在の主力は事務機 液晶用フィルム(事務機6割 医療2割 液晶用フィルム1割) → 景気減速で落ち込む 単なる販売から顧客のコスト削減や利便性向上につながる
 液晶用フィルム(主力のPC用落ちるが テレビ スマホ用伸びる)で世界首位 世界の8割弱 液晶パネル用 偏光板保護フィルム=TACフィルム VA(垂直配向)方式用フィルム 堅調な需要 サムソンG シャープ などに納品
 X線画像診断装置(医療用画像診断装置)で世界シェア4割超 デジタルエックス線画像診断装置CRが新興国向けで拡販  2011年12月米ソノサイト買収も寄与 なお画像診断装置は世界最大手なGE(GEヘルスケア)だともされる。日本では富士フィルムのほか 東芝メデイカル 日立メデイコなど。今後新興国市場の拡大が期待されている。X線フィルムでも有名。映画フィルムでも大手。提案型サービス強化
 医療事業の改善が評価(2008年参入 医薬品分野 赤字脱却か 収益貢献へ 肺炎向け注射薬が好調 開発体制を整備 需要の高い抗癌剤に参入準備を進めている) 医療品で1兆円の売上高が目標(2011年7月 インドの後発薬メーカー大手DRL doctor Ladies Laboratoriesと日本での合弁会社設立で合意)。景気に左右されにくい医療機器 医薬品など医療事業の実績向上が課題。2012年夏には医療用画像のクラウド保存サービス開始
 2006年化粧品に参入(2011年秋 化粧品で国際展開へ)
 事務機は米ゼロックス向けが主力(傘下に富士ゼロックス)
 2012年にはオリンパスへの出資・提携を模索(2012年4月―8月)

事例:デジタルカメラをめぐる争い 
 デジタルカメラ(コンパクト機はスマホの普及で苦戦:市場縮小 他社は海外生産 生産委託図るが国産品質の良さをアピールする 欧米で景気低迷 高級価格帯にシフト Xシリーズは2011年春から店頭価格10万以上で展開 ミラーレスと呼ばれる高級機型 高級機は競争激化 ミラーレスは2011/10ニコン 2012/01ソニー 2012/02富士フィルム 2012/09キャノンが参入 小型軽量のミラーレスが人気 デジカメの世界シェア2011は キャノン ソニー ニコン サムソン電子 富士フィルムの順 高級機にはブランド力高めるねらいもある)
 デジタルカメラ commodity化による価格低下 半年で3割下がるとも(2012年1月) もう一つはスマホの普及によるカメラ離れ。一つの対策は外部委託生産 もう一つは小型軽量による高級化による差別化。値崩れの回避。
 コンパクトカメラについては 低価格帯を外部委託という ソニー 富士フィルム
 全量を自社生産というキャノン 全量を外部委託というHOYA パナソニックというように各社で戦略が違う(2010年春段階)。 背景には値下がりがあった。
 しかし ミラーレス(富士フィルム参入前の2011-12のシェアはオリンパス ソニー パナソニック ニコン ペンタックス) など 高級機人気で お話しは少し変化してきた。
なぜ再生できたか デジカメの台頭による脱フィルムを早くから意識(フィルムのピークは2000)
 第二の創業を模索 成功した企業として富士写真フィルムがある(2006年10月から富士フィルムHD)。デジタルカメラ台頭のなかで写真フィルム需要(国内市場シェア7割)の急減というトレンドに対し、写真フィルム事業の構造改革で20061月公表された内容は、工場再編・現像所集約(写真印画紙で富士フィルムは世界シェアの5割を占めるトップ企業。2位はイーストマンコダックで3割)、固定資産の加速償却、人員削減などリストラで固定費削減)する一方、医療(医療画像診断システムや内視鏡など。今後はナノ技術をいかして医薬品・化粧品にも進出)・印刷(印刷機の原版であるデジタル刷版)・液晶(偏光板の保護フィルム TACフィルムで世界シェア8)・携帯電話向けレンズユニット(世界シェア6割)・複合機(カラー機)などの分野へのシフトを進めるというもの。
 2006年1月末に富士写真フィルムが写真フィルム事業の構造改革を発表する直前に、コニカミノルタはカメラ、写真フィルム事業からの撤退を発表している。コニカミノルタの一眼レフの開発生産事業の一部はソニーに買い取られ、ソニーのデジル一眼カメラへの進出を支えることになった。 富士フィルムは 2000年 古森重隆氏の社長就任以来構造転換進めてきた。すでに2004年 第二の創業 中期経営計画を公表。そこで写真フィルム事業の縮小 医療 液晶 事務機器部門を育成するとしていた。背景には写真フィルム市場の縮小が急速に進展するなか 企業の生き残りを図るという強烈な危機感があったと思われる。写真フィルムは2000年を境に年率25%の勢いで需要が減っていた
医療・医薬品事業進出の起点は富山化学工業買収(082)
 06年10月に第一三共から放射線検査薬メーカー買収 に続き08年2月 赤字の富山化学工業(医薬品 売上320億円 鳥インフルエンザ治療薬など有望新薬候補あるものの新薬開発で赤字抱えていた 07/03 87億円の最終赤字)をTOBと第三者割当増資で1300億円を投じて買収。しかし赤字企業買収に当時の市場は懐疑的だった。筆頭株主の大正製薬は富山化学の筆頭株主の立場を譲る一方、第三者割当を引き受けた。この買収はキリンHDによる協和発酵子会社化(2008年4月)とともに異業種による国内医薬再編の動きと当時話題になった。2010年2月 三菱商事 東邦HDと共同で後発医薬品の開発販売会社フジフィルムファーマ設立 この医薬品事業の黒字化が視野に入ってきたことが報道されるようになった。

 異形種に発展することで企業寿命を伸ばしたブラザー工業

 なお異業種に進出することで企業生命を伸ばすことは日本ではよくみられる。たとえば家庭用ミシン(大手としてほかにジャノメ、JUKI JUKIは工業用ミシンで世界トップ)のブラザー工業の場合。家庭用ミシンの飽和を見越して、タイプライター、ファックス付の複写機(いわゆる複合機)、通信カラオケ(ジョイサウンド)などに業務内容を拡大することで、企業寿命を伸ばした。

 Written by Hiroshi FUKUMITSU©2014 Original in Aug.8, 2008

Final correction in Mar.4, 2016

 

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