Entrance for Studies in Finance

黒田日銀による異次元金融緩和政策の評価

日本銀行による異次元金融緩和政策(黒田ショック)
Hiroshi Fukumitsu

2013年3月20日に発足した黒田日銀体制は矢継ぎ早に白川さんのもとで繰り返された伝統的金融政策の修正を図っている。
 白川さんも金融緩和を図ってきたという反論もありそうだが、しかし白川さんの考え方は伝統的であった。つまり
金融をいかに緩和しても、実態経済が活性化しなければ、通貨は銀行の手元で滞留するに過ぎないというもの。黒田さんは
この白川さんの「伝統的」考え方から離れたようにみえる。
 新しい考え方は人々の「期待」に働きかかえることで、消費や設備投資活動に影響を与えることは可能だとするもの。 
 注目されるのはこの黒田体制の下での日銀の異次元金融緩和政策new phase of monetary easingが
市場の支持を受けているように見えることだ。

白川氏は政府と日銀との関係を悪化させた
 白川日銀総裁のもとでも金融緩和政策は取られたがいつも白川さんは自分のやっていることは
役に立たないと説明してきた。つまり金融政策の限界を常に主張してきた。たとえば
2012年12月の総裁記者会見でも
日銀は「物価安定を通じて国民経済の安定に資するという使命をしっかり果たしていかないといけない」
と極めて保守的、後ろ向きであった。その後、白川日銀を批判していた自民党が総選挙で圧勝する。
 白川さんの姿勢は、真面目・誠実・愚直との評価の反面、政策の効果を自ら削いできた面がある。そしていずれにせよ
白川日銀はデフレからの脱却に失敗した。しかしそのこと以上に、政府との関係を悪化させたことが問題で
あるいは政府との信頼関係を欠いたという点で、日銀総裁としてはすでに失格だったのではないか(この評価はもっと
あとから歴史的に検証する必要があるが)。
 白川さんは、白川日銀を批判する自民党圧勝の時点ですぐに辞職するべきであった。しかし辞めなった。そのために
政府と日本銀行の間の緊張が異常なまでに高まった。白川さんには日本銀行を窮地に落とした責任があり、職にとどまったのは
間違っていた。
 日本銀行と政府との緊張関係がこれほど高まったのはめずらしいことではなかったか。
自民党から日銀法改正の発言が繰り返し浴びせられたのは白川さんの言動に対する当然のリアクションだった。
 私は考えるのだが、日本銀行と政府の関係を悪化させることが独立性の証明にはならないのではないか。

黒田さんの異次元金融政策の目的は日銀と政府の信頼関係の修復
 日銀総裁の交代によってなにより期待されたのは、政府と日銀との間の関係の修復であった。 
 2013年4月の異次元金融緩和政策決定直後の黒田さんの発言は「2%の物価上昇をめざす物価安定目標の達成に向けて、
現時点でとりうるあらゆる手段を講じた」とするもの。この発言は政府に対して、日本銀行新総裁として期待された
役割を果たしたと読むと発言の真意がよく分かる。この行為によって黒田さんは、日本銀行を窮地から
救ったといえる。
 総選挙で追い詰められた白川日銀
 
資産買い入れ基金(2010年秋の包括緩和で導入)による国債購入と資金供給のための国債購入 の一本化
5年10年などより長期の国債を買う(残存期間3年以内に限定)
買入額の増大 現状は 基金で月2兆円程度 通常枠で月1.8兆円
期限を決めない無期限無制限緩和
REIT ETFなどリスク資産の買い入れ拡大
お札を発行限度とする 経済成長に見合った通貨供給の見直し
現在のマネタリーベース 金融機関が日銀に預けている当座預金+市中に出回る現金残高 約130兆円
と過去最高水準(2012年末)

4月4日 金融政策決定会合で新たな金融緩和策を決定
通貨供給量の増加を宣言 人々がインフレを予想(インフレ予想)
マネタリーベース(流通している貨幣+日銀当座預金)2年で2倍増やす
国債をどんどん買う
過去2年で2割増えたが
 2012年末 138兆円
 2013年末 200兆円(当座預金107兆円)見通し
 2014年末 270兆円(当座預金175兆円)見通し 
 量的・質的緩和を導入 黒田ショック レジームチェンジ
 白河総裁時点で導入した 資産買い入れ基金による緩和方式を廃止して1本化
 日銀のバランスシートに明示
 国債の買い入れの歯止めとなる「日銀券ルール」を政府による財政規律確保を踏まえて一時停止。
 2年程度を念頭に2%の物価上昇目標を達成する
 2年程度の期間を念頭に、できるだけ早期に2%の物価上昇率を達成する(白川さんのもとで2013年1月に掲げる)
 (物価が上がる前に資産価格が急騰するリスク)
 資金供給量を年60-70兆円ずつ増やす
 月7.5兆円 銀行のもつ長期国債を買い上げ
 買い入れ金額を増やす
 買い入れ対象の年限を1-3年から40年の超長期まで広げる
 買い入れ長期国債の残存期間を3年程度から7年程度にする
 長期金利引き下げ効果大きい
 株高 円安効果
 札割れ(応札額<供給予定額)になっても予定額を減らさない
今後継続的に毎月国債を7兆円 新規発行額の7割を買い上げ
 マネーサプライベースを2年間で倍にする
 国内機関投資家は国債市場から締め出され株式や外債にシフトする。
 株式や外債市場へ国内機関投資家が本格的に参入する
 850兆円の個人預金
 200兆円の民間非金融法人の預金 がどう動くか
 長期国債は月3.8兆円から7.5兆円に 発行額月10兆円の7割強
  → 売買できる国債量の減少
    5年以下の国債についての方針の不明 2年債 5年債で利回り上昇
    10年債は乱高下
    30年債日銀購入すると運用資金は外債にながれる観測 円売り観測 結果30年債に日銀は慎重 
 ETF(日経平均あるいはTOPIX連動タイプ)の購入も2倍に増やす年6000億円を1兆円に 1.7倍 年間売買代金4.4兆円(2012年)の23%
 REIT(ダブルA格相当以上)は年200億円を300億円に1.5倍 REITは0.9%
4月5日
 10年債利回り 一時0.315% 昨年後半スイスでついて0.39%下回る史上最低金利 
 (1619年 ジェノバで1.125%)
株価は一時1万3000円台回復
為替は午前に一時1ドル97円 3年8毛月ぶりの円安
 午後は債券価格急落(利益確定売り出る 金利急騰一時0.62%)
 午後は一時95円台後半までの円高

4月18日19日 ワシントンG20 財務相中央銀行総裁会議

4月26日(金) 金融政策決定会合
 物価見通し 情報修正
 1月時点の見通し 
 13年度平均 0.4%
14年度 0.9%(消費税引き上げの影響除く)
 4月の改訂では
 13年度 0%台後半
 14年度 1.5%前後 

鉱工業生産指数 4月91.9 前月比1.7%上がる 4月31日経産省発表
 求人倍率 4月0.89倍 前月比0.03上昇 4月31日厚生労働省発表 4月の失業率は前月と同じ4.1%
消費者物価指数 4月99.8(生鮮食品除く 2010年=100) 前年同月比0.4%下落
 GDP 2013年1-3月 速報値実質で前期比0.9%増 年率換算3.5%増 5月16日内閣府発表
  設備投資は 実質で前期比0.7%減
 法人企業統計 前年同期比 2012年10-12月 マイナス8.7%
2013年1-3月 マイナス3.9% 減少幅縮小 6月3日財務省発表 

2013年7月発表 7月に月例報告「デフレ状況緩和しつつある」

2013年8月15日発表 8月の月例報告「デフレなくなりつつある」

2013年10月25日発表 9月の消費者物価指数 前年同月比で4ケ月連続上昇。紙数は100.5.2010=100
4年9ケ月ぶりにマイナス脱却

2013年12月24日発表 12月の月例経済報告 4年2ケ月ぶりにデフレの表現削除 物価は「底硬く推移」
している 景気の基調「緩やかに回復しつつある」 なおデフレ表現の最初は2009年11月「緩やかなデフレ情況にある」
前回のデフレ表現は2001年3月から2006年7月の表現削除まで。今回は戦後2回目。

2014年3月12日発表 2月企業物価指数1.8%上昇で8ケ月ぶりに2%割りこむ 円ベースでの輸入物価上昇率 2月上昇率ダウン6.3% 1月は12.7% 円安効果弱まる

2014年3月28日発表 2月の消費者物価指数 100.5 前年同月比1.3%上昇 上昇は9ケ月連続 伸び率は1月と同じ

2014年4月25日発表 4月の東京都区部の消費者物価指数 2010=100 101.7 前年同月比2.7%増 消費税による押し上げ効果は1.7ポイント
と予測されていた。3月に比して1.7ポイント上昇で消費税転嫁を示す

2014年4月30日発表(昨年度比)経済物価情勢の見通し(展望レポート) 
14年度実質経済成長率 1.1(1.4)  CPI 消費税除く 1.3(1.3) 消費税込み3.3(3.3)
15年度実質経済成長率 1.5(1.5) 1.9(1.9) 2.6(2.6)
16年度        1.3            2.1         2.8  

2014年5月14日発表 4月の企業物価指数 前年同月比4.1%上昇 増税の影響を除くと1.4%(3月は1.7%)

アベノミクスの3本の矢:大胆な金融緩和+機動的な財政政策+民間投資を喚起する成長戦略
なお物価上昇について市場は懐疑的。
金利上昇の懸念残る。金利上がれば機動的財政政策は困難に。
円安は経営努力をする意欲をそぐという意味ではマイナス面もある。
財政政策:災害に強いインフラ整備など 公共事業を増やす政策など
成長戦略:規制緩和で新産業創出、女性が働きやすい環境整備、農業の再生策など

黒田異次元金融政策への批判
長期金利の低下で資産インフレ効果は一時的(契機刺激効果は一時的)
量的緩和の長期化 → 出口(自律的成長への移行)はあるのか
円安によるインフレ懸念 あるいは円安による物価上昇に過ぎない
期待インフレ率 名目長期金利は金融政策だけで自由にコントロールできるか
インフレが始まると金利反転リスクは高い など
デフレが終わったあと、大量に買った国債をどうするのか

なお黒田さん支持派による反批判としては以下のような論点がある
長期金利は短期金利の見通しを反映 したがって 長期金利は急騰しない
マネタイゼーション(銀行から買うにしても日銀が国の借金の穴埋めをしていると受け止められること)への懸念 
 → デフレのもとでは過度な心配


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メモ

物価上昇率 2013年1月に導入された目標の2%には及ばないが1%台は達成(2014年6月)。
輸入物価の上昇と波及 今後は円安効果が剥げてゆく 円安による成長率引き上げ効果は低い 
企業物価紙数 為替の影響を反映して消費者物価指数より早い伸びを示した。 2013年度1.9%の伸び
賃上げ 最終消費財への価格転嫁進むかどうか
それでも上がるとする日銀(需給ギャップ縮小 人手不足などからモノ、サービスが引き締まり 予想インフレ率の上昇)
6月―7月 全国消費者物価指数前年同月比で3.3%上昇(増税の影響2%を除くと1.3%)
日銀 経済物価情勢の展望 2014年4月 2015年度 生鮮食品を除いたCPI上昇率(消費税増税の影響ものぞく)で
1.9% 2016年度2.1%と予想

反論 成長率見通し下がっている 物価見通しも下げるべき
   人手不足は主婦層の労働力化を誘う側面もある 人手不足は成長率下げる側面もある 人件費上昇で企業利潤下げる側面も
   物価上昇で消費者の消費は冷え込む+ 

物価メド1%導入201202/14 物価目標2%導入2013/01/22
メガで5分の1 地銀で銀行によっては4分の1超 総資産に占める国債比率
金利が1.1%上回ると銀行など国債売りに回る可能性

2013年度の赤字はGDP比率6.9% 2013年2月28日政府提出の試算 国と地方合わせた赤字額33.9兆円
国際公約は2015年度までに3.2%まで縮小させるというもの 金額で17兆円以上の収支改善必要
13年度末の国債残高(国の借金から政府短期証券を除いたもの)は732兆円
2022年度末に1014兆円に膨らむ 2013年3月6日財務省提出の試算

original in May 3, 2013
revised in Aug.8, 2014


Area Studies 
   

            
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