彷徨者のネット小説レビュー

ネット小説サイト「Arcadia」や「ハーメルン」をメインに、あちこちで見かけたネット小説をレビューするブログです。

ようこそ

 このブログの管理人、彷徨人です。名前の通り、あちこちのサイトをさ迷っています。ネット小説に限れば『Arcadia』と『小説家になろう』がメインになります。
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 これまでレビューした作品のリストです。→五十音順リスト

竜娘の異世界旅行記

2013-09-30 18:00:00 | オリジナル作品
原作名:オリジナル作品
作者:ガビアル
最終更新日:2013年9月20日
評価:B
サイト:ハーメルン
    http://novel.syosetu.org/7243/

[あらすじ]
 ふと気が付けば、自分がいるのはどことも知れない洞窟の中。しかも全裸。男のはずなのに股間にその象徴はなく、胸が膨らんでいた。ダメ押しとばかりに、背中には翡翠色をした翼。加えて同色の尻尾があり、角まである。
 一体全体何が起きた? 記憶を探るにも、どうにも思考力が低下していて考えがまとまらない。
 このままここに居座っていても仕方あるまいと、洞窟の外に出、空を飛ぶことしばし。
 見つけたのは、男達の斬った張ったの血生臭い場面。
 そこに介入し助けた形になったのは、商人を自称する怪しげな男。
 とうのいった男と、見るからに人外の娘では、ボーイ・ミーツ・ガールと洒落こむにはちょっと無理があるか? でもそれが二人の出会い。
 こうして始まる、ちょっとおかしな二人の道中記。

[文章]
 主人公視点の一人称。誤字脱字の類は少な目。地の文で、ですます調や慇懃無礼な話し方をしていないので、この点だけでも十分に詠み易い。各話の文量も平均一万文字を超えており、読みでがあって好感が持てる。

[総評]
 異世界漂着のTS物……の分類で良いのかな? TS物なのは間違いないけれど、漂着物か転生物か憑依物なのかは、後に明かされていくのでここでの明言はせずにおく。
 何と言っても、異国情緒に溢れる描写が丁寧なのが特長。ありがちな中世ヨーロッパ風なんちゃってファンタジー世界ではなく、読み進むうちに中近東かその辺、イスラム文明圏を想像させてくれる。当方はその方面に足を延ばしたことはないので、あくまでそういうイメージを元から持っているため、という意味でイスラム圏としている。
 主人公と主人公を拾った自称・商人との漫才めいた軽快な会話と、主人公の地の文の中で語られる情景や社会情勢の説明の長さも程良い。作者の自己満足な設定語りで終わらせない計算が働いているのだろう、設定語りで物語が動かないという事がなく、必ず何かしらの進展があるのも、読んでいて飽きが来ない。
 戦闘シーンはどちらかと言えば淡泊。ごり押しで通せる最強系の主人公だけれど、知略計略を用いた戦い方がメイン。
 久し振りに当たりを引いたと思えた作品。

週末冒険者

2013-08-06 18:00:00 | オリジナル作品
原作名:オリジナル
作者:るうせん
最終更新日:2013年7月23日
評価:C
サイト:小説家になろう
    http://ncode.syosetu.com/n9544br/

[あらすじ]
 ギルドの経営する食堂の一角。味よりは値段と量を取った安飯に、不味い不味いと言いながらお代わりを注文する魔術師サート。迷宮の中層に単身潜り、それなりの成果を持って帰ってくる実力者。
 してその正体は、異世界――地球人。元はこちらの世界の住人だったのが、なぜか地球に転生。魔術も使える。
 しかし地球では薄給に喘ぎ、貯まらない貯金に老後が心配のしがない会社員。週末にできる副業として、前世の世界に移動し、迷宮で荒稼ぎを思いついた次第。
 実入りと安全を秤にかけ、無難に収益の取れる中層で、一人ひっそり蓄財に勤しむ魔術師会社員の、まったりとした週末ライフの物語。

[文章]
 三人称。目に付いた誤字脱字の類はなし。こなれた文章で読み易く、つい引きずり込まれてしまった。一話平均三千四百字前後と少な目なので、もう少しボリュームがほしい。

[総評]
 異世界トリップ物。異世界と言っても、前世で生涯を過ごした世界。地球間との往復が自由自在な辺りでノリは『日帰りクエスト』。物語のノリも軽く、迷宮の中層で日がな一日採掘して、時折現れる魔物を仕留め、夕方にギルドに持ち運んで換金。食堂の不味い食事に愚痴を吐きながら舌鼓?
 七日に一日しか働かず(平日は地球で仕事)、ほとんどを人通りのない迷宮で過ごしているため、これといった人付き合いはない。それでも目敏い人には興味を持たれるようで。ふとしたきっかけで知り合ったマズメシ仲間から、少しずつこちらの世界でも人脈が広がり、物語も広がっていく。世界観を広げていく書き方が上手い。
 前世で関わりのある人物らも少しずつ現れ始め、一波乱二波瀾起きそうな気配に、次の更新が待ち遠しい。



フレイム王国興亡記

2013-05-31 18:00:00 | オリジナル作品

原作名:オリジナル
作者:疎陀 陽
最終更新日:2013年5月19日
評価:C
サイト:小説家になろう
    http://ncode.syosetu.com/n5870bn/

[あらすじ]
 自称『普通の人』な主人公。取り立てて目立つ能力がある訳でなく、全てが平均。人と違うところがあるとすれば、早々に自分の才能の限界に気づき、ひたすら努力の人であり続けたくらい?
 そんな平平凡凡な人生が狂ったのは、異世界のとある王国が起動した『勇者召喚の魔法陣』。そのせいで見知らぬ異世界に召喚され、しかも知的好奇心を満たすための実験だったため、帰る手立てもない。
 召喚した王国が当面の生活を保障してくれるけれど、いつまでも食客でいるのも気が引ける。自分で生計を立てる術はないかと思案し、出た答えは……。
 召喚された元銀行員vs.異世界な経済戦争。

[文章]
 基本は三人称。ただし主人公以外の視点での一人称で語る場面や、三人称と一人称が入り乱れる場面があるのと、会話文が始まると冗長する感がある。そのため、少し読みにくいと感じた。誤字はたまに見かける程度。

[総評]
 【興亡】「おこることとほろびること」(goo辞書より)。
 この意味から、異世界に召喚された主人公が、その世界で国を興し、滅亡するまでの物語。……を期待すると肩透かしを食らうので注意。
 フレイム王国と言われると、つい某呪われた島の砂漠の王国を連想してしまう人は、それなりにいると思いたい。勿論無関係。
 主な舞台となるのは砂漠ではなく、王都から馬車で三日の海沿いの街。塩害が酷く、塩害に強い作物を育てても収益が上がらず、借金の利息返済のために借金を重ねる赤字経営。
 主人公のもたらす起死回生の一発は、地球の知識をもって地場産業の強化か、新資源の開発か、はたまたトンデモ理論なトンデモ技術の開発か。
 いやいや、この主人公は一味違う。自力で新事業の開発ができないなら、よそから持って来れば良いじゃないか。……と、いきなりの税制変更に商業誘致。大規模な取引に、硬貨を何万枚も持ち運ぶのは不便でしょ? この証券で換金できますよ、と紙幣経済を持ち込み。
 剣劇の音も派手な魔法も炸裂しない。商談と言う言葉の刃を交わし、砲弾や魔法の代わりに虚実混ぜ合わせた資金が飛び交う。世界に経済戦争を仕掛けた元銀行員の奮闘劇。


詰みかけ転生領主の改革

2013-03-31 18:00:00 | オリジナル作品

原作名:オリジナル
作者:氷純
最終更新日:2013年3月28日 完結済
評価:B
サイト:小説家になろう
     http://ncode.syosetu.com/n5966bh/

[あらすじ]
 21世紀日本の前世の記憶を持つ主人公。現世はとある領主の嫡男で、肖像画から見る両親は絶世の美男美女。品行方位で慈愛に溢れ、領民に慕われ、理想を体現したかのような領主。
 ……と言うのは真っ赤な嘘。領主を批判すれば一族郎党命がないと、使用人から下々の領民まで戦々恐々。
 土地柄から領地は貧しく、両親は領地運営を腐敗役人共に丸投げし、王都での派閥争いに汲々。領民からの受けが悪いだけでなく、国内の貴族達から嫌われ、王家からも嫌われ、所属する派閥からも蔑視され、という有様。家名だけで敬遠されるとか……将来継げる領地があるのか、疑問になるほどに詰みかけ状態。その前に暗殺かも?
 自身の未来の安寧は領地の復興にあり。正に崖っぷちな未来の領主の奮闘の物語。

[文章]
 三人称。誤字脱字の類は見当たらず、読み易い。人によっては『固い文章』と感じるかもしれない。

[総評]
 異世界転生による内政チート物。
 連載開始数話目でランキング入りした時は、似たテーマの作品の多くに辟易していたところで、またかという気持ちで読まずにいた。実に迂闊。
 この作品が他と違う大きな点は、何と言っても『最悪の敵は身内』という、ある種の王道を貫いているところだろう。
「領民の誰一人飢えずに済む領地を作りたい」
 ありきたりと言えばありきたりかもしれないけれど、そんな願いが主人公の根幹になる程に劣悪な領地と、領地をさらに悪化させていく両親。主人公への理解や寛容さなど当然あるはずもなく、金儲けのアイデアを出せば掠め取り、少しばかり金を稼げば奪おうとする。そういう間柄。
 脇を固める人物たちも、それなりに曲者。ある者は主人公に付き、ある者は主人公を裏切って両親側に付き、ある者はどちらが己の得になるかを見極め、またある者は……。
 領民どころか国王や同じ派閥の貴族達からも嫌われる鼻つまみ者一族の嫡男が、じわじわと地盤を固めつつ、領地を盛り返していく様は、スポ根物やバトル物とは違った熱さを感じさせてくれる。思わず主人公を応援したくなる作品。


[2013年7月31日追記]
 書籍化です。おめでとうございます。

   



ラミアの森

2013-02-27 18:00:00 | オリジナル作品

原作名:オリジナル
作者:林育造
終更新日:2013年2月27日  完結済
評価:C
サイト:小説家になろう
    http://ncode.syosetu.com/n1966bn/

[あらすじ]
 人とは似ていても異なる知性種族――亜人・獣人――と人が、食ったり食われたりしながら、取り敢えず均衡を保って生活している世界。
 ママサの街に住むゲルツルード(愛称ルッツ)は、住人たちから重宝されている薬師。六年前に流行した壊血病の治療に始まり、最近では狂犬病のワクチン開発を手掛け、ある程度の成功にまで至っている。
 蒸留した消毒用アルコールを、いつの間にか飲み干されたりするアクシデントはあるものの、比較的穏やかに時の流れているママサに、ある日のことラミア――半人半蛇――族の少女が空から落ちてくる。
 かつてラミア族の一人に救われた経緯のあるルッツは、負傷した彼女の身柄を引き取り、店兼自宅に運び、治療を始める。
 ルッツとラミア族との交流が、こうして始まる。

[文章]
 一人称。誤字少々。気になるような脱字はない。漢字で良いと思える単語が平仮名表記の場合があり、それが時々違和感となっている。

[総評]
 異知性種族との交流物。それもエルフやドワーフのようなファンタジーでありがちな種族ではなく、ラミアやハイピュイア(ハーピー?)と言う『モンスター』の側が、それぞれの文化や風習、生理を持って人族と交流しているのが面白い。また、それら種族の作者独自の設定も楽しい。
 プロローグと第一話のつながりに意味が感じられないのと、第一話から三話までが設定語りになっているのが残念。第四話以降のように、所々に説明を入れていけば、話の流れがスムーズになったように思える。第四話からは後の展開が早く、読み易くなっている。
 この物語の見どころは、前述した通り、登場種族の作者なりの解釈と独自設定。半人半蛇のラミア族の簡単な生理学や生殖方法、社会構成などがしっかり練られており、一度登場して終わりとはならないのが良い。上半身はヒトで下半身がヘビのラミア族が産むのは、果たして子供か卵か。この基本的な疑問に答えているのは、この作品ぐらいだろう。
 助けたラミア族の少女に懐かれ、狂犬病ワクチンの技術を狙われ、安穏とした生活から離れざるを得なくなりそうな薬師の、今後の活躍に期待。