
■ 秋雨前線に濡れながらの出発
9月、駒ヶ根キャンプ場へ出かけた。正式には「駒ヶ根高原アルプスの丘 家族旅行村」というらしい。
最初に予定したのは、駒ヶ根から決して近いとはいえない松本市奈川の「高ソメキャンプ場」だった。だが、夏休みをとった2日が高ソメの定休日だったため、まずは駒ヶ根で一泊だけして、翌日、高ソメへ移動しようと予定を変更した。
今回のキャンプのテーマは「木曽路再訪」。初日に馬籠宿と妻籠宿を久しぶりに訪ね、翌日、はじめての奈良井宿に出かける算段だった。
まずは2日(水)の午前7時に出発、横浜町田ICから東名道へ乗り、新東名、伊勢湾岸道、東海環状道、中央道で中津川ICへ至って馬籠宿と妻籠宿を訪ね、夕方に駒ヶ根キャンプ場へ入ってテントだけ張って寝るという予定である。
持参するテントはモンベル5型だから10分もかからないで設営できる。
問題は空模様だった。
8月から列島に居座ったままの秋雨前線は、若干の衰えは見せはじめていたが、まだ消える気配はない。甲信越地方の天気予報は、キャンプに絶望的ではないがかろうじてなんとかなりそうな様子だった。
予定は出だしから狂った。まず、小雨の中の積み込みに思いのほか時間がかかってしまった。出発してからも予定どおりにはいかない。ルーフキャリーにめいっぱいキャンプ道具を積み込んだので慎重に走行せざるをえず、何度かSAやPAへ入ってキャリーの状態を確認し、雨除けに荷物を覆ったグランドシートをなおしたりしていたので、最初の目的地の馬籠には2時間遅れの午後2時の到着となってしまった。
それでも途中、静岡へ入ってから、空は久々の太陽が秋の陽射しを暑いくらいに照らしはじめた。一週間前はずっと雨が降っていたのだから幸運というしかない。
予定した「まごめや」はわんこも入れるというのでまずはここを目指していた。しかし、すでに2時を過ぎていたのでもう店じまいをはじめている。情報では15時まで営業のはずだが平日なので一時間早い店じまいなのか。
腹ペコをかかえたわれらが哀れに見えたのか、頼み込むと蕎麦を食べさせてもらうことができた。

■ まずは最初の野営地へ
9月とはいえ、3時になろうとして陽射しはそろそろ夕刻への色を帯びはじめていた。
水曜日という平日のためもあるだろう、この時刻の馬籠宿自体、まるで活気がない。人の姿もまばらである。馬籠のみならず、妻籠への愛惜もすっかりしぼんでしまった。ぼくらはそそくさと中津川ICへ戻り、駒ヶ根を目指した。
駒ヶ根も高ソメのキャンプ場も、昔からガイドブックなどでその存在だけは知っていた。さすがにわが家から距離があるので利用する機会はなかったが、今回は3日間の夏休みに週末の2日を加えた5連休という、ぼくとしては長い休暇がとれたのと、家族三人の夏休みになったので期待を胸にやってきたわけである。
駒ヶ根のキャンプ場はきれいな休暇村のなかにあった。
ギリギリまで出発できるかどうかわからなかったので予約はしていなかった。「希望のサイトは?」と訊かれても、むろんわかるはずがない。まずはひとまわりさせてもらった。
想像していたよりも小ぶりなキャンプ場だが、雰囲気はわるくない。植生にしても、松が多いというのは写真でわかっていた。松以外の木々もあってどうやら気持ちよくひと晩過ごせそうである。
チェックインの手続きを終え、サイトで設営をする段になって翌日以降をどうするか家族三人で相談した。高ソメへ移動するなら
チェックインの手続きを終え、サイトへ移動して設営をする段になって翌日以降をどうするかを協議した。高ソメへ移動するならムーンライト5型テントとシュラフ、マット以外はクルマに積み込んだままで、夕飯は市内のどこかですませればいい。この駒ヶ根へ腰を落ち着けるなら、あらかたの設営を終えてしまったほうがいい。
問題は、天気である。直近の予報だと翌日3日(木)は雨。高ソメへ移動すると、雨の中での設営の可能性もじゅうぶんにあり、これはつらい。この駒ヶ根がけっこういいから、ここに腰を落ち着け、高ソメはやめる――結論は早かった。
この日、ほかには三張りのテントが見えるが、どこも静まり返っている。いつ雨が降り出すかわからないようなこんなときにキャンプをやろうというだけあって、やたら興奮して騒ぐビギナーとは違って風格さえ漂うほどの落ち着きがある。そんな安心感もあっての決断だった。

当初の予定では、初日に馬籠宿と妻籠宿の再訪をすませて2日目に奈良井宿へ寄ってから高ソメへ向かうはずだった。だが、雨の予報を受け、翌日は駒ヶ根から動かないと決めた。
場内には温泉が併設されている。まずは、温泉に入り、そこで昼食をとり、街へ買い出しにいってからのんびりキャンピングライフを楽しもうということにした。
このキャンプ場には、昔からコンクリート製の焚火用の炉(煮炊き用)がサイトごとに設置されている。ほかにベンチが一体になったテーブルも全サイトに置かれている。これらはとても重宝した。
今回も折り畳みテーブルを二卓持ち込んでいたが、組み立てたのは一卓だけで、スクリーンタープに置き、食事はキャンプ場の据え置きを利用した。大きいし、しっかりしているから使い心地は申し分ない。ただ、長雨のせいで座っているとズボンのお尻の部分が湿っぽくなる。翌日、買い物ののついでにキャンプ用の座布団を買ってきて使った。
夕飯を終えて見上げた空には、満月を過ぎて痩せていく月が、まだ丸みを残して浮かんでいる。翌日の雨の予報が信じられないほど穏やかな月の光である。
適度な距離をとって張られたほかの三組のサイトからもランタンの光が漏れている。だが、物音は何も聞こえない。理想的なキャンプの夜である。
(つづく)