レンキン

外国の写真と
それとは関係ないぼそぼそ

海に捨てて

2006年02月27日 | ぼそぼそ
 私が死んだら 海に沈めてほしい。


出だしが痛いが痛い話ではない。
もし埋葬されるとしたらどこがいいか、
という話を友人達としていたのだ。
昔から日本古来の、あのお墓があまり好きではなかった。
冷たくて重そうな墓石、土台の部分に穴があって
陶器あるいはホーローの入れ物に入るあれ。
もちろんお墓大好きという人も
そうそう居ないとは思うが
どこに埋葬されたいか、という話になった時
まずお墓に入る事が前提になっていて
ちょっと驚いたのだ。
どこに、というのは嫁ぎ先の墓か
実家の墓か、それとも自分の墓かという選択肢だった。


私は断然海に沈めてほしい。(選択肢無視)
仰向けに沈んで水面を見ると
晴れた日はとてもきれいだし、雨の日でも水の中は静かだ。
黒潮真っ只中とかはちょっと困るが
あまり流れの早くない海底に、そうっと沈んでいたいなあと思う。
でもそうっと沈んでいて、罪の無いダイバーを
いたずらに脅かしてもあれなので
それが無理なら山に埋まりたい。
濡れ落ち葉を顔に貼り付かせて、腐葉土の中に
そっと埋もれていたい。
ただそれも散歩中の犬に掘り出されたりして
罪の無い犬の飼い主を驚かすことになるだろうか。


土に染み込む雨の一滴のように
地球に染み込んで生涯を終えたいと思うのだが
お墓かあ。
嫁ぎ先のか、実家のか、
それとも自分のか……



…私は断然海に(エンドレス)


漫画のような彼 4

2006年02月25日 | ぼそぼそ
 若いころ、服のサイズは体重に比例して
どれだけでも小さくなるものだと思っていた。
しかし残念ながらそれは違っている。
同じ体重でも7号サイズの人もいれば
9号サイズの人もいる。持って生まれた体格、骨格で
どうにもならないものなのだ。


Eさんがなぜ7号のスーツにこだわったのかは
よく分からないが、多分11号~の服を着ていたEさんにとって
7号の服は夢のように華奢で小さくて、
美しい人が着るように思えたのだろうと思う。
Eさんの体重はかなり減った。が、
元々がっしりした体格の彼女が
体重が減ったことでめでたく華奢に、という訳には
いかなかった。
Eさんは焦った。痩せたというのに7号のスーツに
身体が入らないばかりか、
…容姿もただ痩せただけで、これといった変化がない。
筋肉や骨まで痩せるには病気になるしかない。
しかしEさんは更に体重を落とそうとした。
痩せた段階でもがりがり、というほどではないが
やはり最初からの変化が劇的すぎる。
これ以上は止めさせた方が良いんじゃないかと
私、私の友人、Eさんの同僚とで相談していたら
偶然のタイミングで
Eさんの恋は唐突に終わる事となる。


Mが結婚することになったのだ。
相手は同じ会社の事務の女性で
五千人くらいいる社員の中で
ダントツの美人と評判だった人だ。
私も初めて食堂で見かけた時、同性にも関わらず
あまりに美しくて思わず振り返った。
髪が長く、色が白く、背の高さの割には
腰の位置が異様に高い。足がとんでもなく細い。
彼女がMと結婚すると聞いたとき、あまりに出来すぎた話で
思わず笑った。彼女の服のサイズは6号だそうだ。
努力の及ぶところではない。ああ、やれやれと思った。


Eさんは「仕事が合わないから」という理由で
会社を辞めて地方に帰った。
Eさんが早く新しい恋を見つけ、
幸せになるといいなと思ったが

********

食堂で友人とうどんを食べていて、Eさんの事を思い出した。
新入社員歓迎会の席で
彼女はうどんに大量の一味唐辛子を
それこそ小山のようにかけて食べていた。
まわりの皆が驚き、「かけすぎだろ」とか突っ込む中
Eさんは「えー、おいしいですよ」と
平気な顔で食べていたのだ。
「そういえばEちゃんは辛いものが好きだったね」
と話していたら、同席していたMが笑った。



「あれは話題作りだって」
そん時俺が隣に座ってたからね。

**********



Eさんが次に恋するのも
同じような男なんじゃないだろうかと思う。
恋は病のようなもので
この男に恋したって事はさ

重体だ。



(終)

漫画のような彼 3

2006年02月23日 | ぼそぼそ
その小さなスーツを買って以来、
Eさんは会社の食堂にも、寮の食堂にも来なくなった。
口にするのはわずかにコントレックスだけ、
さすがに心配になった友人は
ある日寮のEさんの部屋を訪ねた。
いつものように「Eちゃん いる?」と
部屋の戸を開けたところ
Eさんは食事の最中だった。


ハンガーにかけたシャネルのスーツを見ながら
彼女は部屋の隅に体操座りして
ゴミ箱を抱え、カロリーメイトの一切れを
舐めるようにして食べていた。
カロリーメイト一本が
その頃の彼女の一日分の食事だった。
「私、絶対痩せたいんですよぉ。」
ニコニコしながらEさんは言った。
決意を語るその目は、
狙った獲物を追い詰める目だった。
あまりの迫力に何も言えなかったと
遠い目をして友人は呟いた。


それからしばらく後
更衣室でEさんと一緒になったとき、
彼女は数え切れない数のフックのついた
補正下着を着けていた。
腰痛対策と言い張る彼女が
何だか見ていられなかった。
エステに通い、美顔器を買い、高級な化粧品を買って
彼女は自分自身を追い詰めていた。
漫画のようにもてる男に惚れてしまったために。


努力の甲斐あって彼女は劇的に痩せた。
一ヶ月の間に十数キロ体重を落とした彼女は
皆に、何よりMに痩せたねと言われ、有頂天だった。
しかしEさんはまだ若くて知らなかったのだ。
痩せれば誰でも
7号の服が着られる訳では無いということを。



(続)

漫画のような彼 2

2006年02月21日 | ぼそぼそ
 漫画みたいにもてる男 M君とは
同じ会社に就職したために
結構長い付き合いになった。
就職してからもM君の切れ味は変わらず
職場の後輩の女の子、三人のうち二人がM君に惚れるなど
そのモテ率はかなり高かった。


エピソード2

M君に惚れた一人、後輩のEさんの恋は
とてつもなく情熱的だった。
就職の為に地方から出てきたEさんは
背が低くて色が黒く、ぽっちゃりした女の子だった。
職場の説明会の時にMに一目惚れ、
即告白こそしなかったが、傍目にも
Mに恋している事が丸分かりだった。
ある日Eさんは何気ない風を装って
…まあばればれなのだが、Mに異性の好みを聞いた。

Mは性格的にそつのない男だが、
強者にありがちな残酷な面も持っていた。
そういう飴と鞭の使い分けが
女心をくすぐるのだろうと思う。
異性の好みを聞かれたMは、Eさんの顔をじっと見ると
「痩せてて色が白い人かな」
と答えた。




へえそうなんだ、とニコニコしながら頷いたEさんを
周囲は緊張して見守っていた。
特にダメージを受けた様子は無かったのだが、
数日後、Eさんと同じ寮に入っている友人が
昼飯時にぽつっと話し出した。

「Eちゃん、最近ダイエットしてるんだけどさあ…」


友人によると、Mの言葉にやはりショックを受けていたEさんは
休日にデパートへ行き、サイズ7号の
シャネルのスーツを買って帰ってきた。
値段はウン十万円。
これが着られるようになるまで頑張る、と目標を打ち立て
彼女は過激な絶食ダイエットに励んでいるそうなのだ。


(続)

漫画のような彼 1

2006年02月19日 | ぼそぼそ
 高校の同級生で漫画みたいにもてる男がいた。
バレンタインデーにちなみ(遅いだろう)
思い出話をひとつ。


●年前の2月14日、高校二年生だった私は
部活の朝練のため早くに登校した。
教室の戸を開けると、小さな包みを持った
見知らぬ下級生女子が
教室の真ん中であからさまにおろおろしている。
おはようと挨拶したら彼女は
おはようございますとお辞儀し、返す手で
「あの、…Mさんの席ってどこでしょうか?」と聞いてきた。


漫画みたいにもてる男の名前がMであるが
M君の席のはっきりした位置を私は知らなかった。
えーどこかなあ、とか言いながら
机を覗いてまわったら、教室の後ろの方に
彼女が持っているようなカラフルな包みで
みっちりの机が一つあった。
多分ここだと差して教えてあげたら
彼女は机を覗き込み、一瞬ひるんだ顔をした。
しかしその後、朝練の支度をする私を尻目に
彼女はテトリスばりの技を駆使して
自分の包みを何とか彼の机に押し込んでいた。
ありがとうございましたと言って
教室を出て行く背中は
ちょっと質の違う達成感に満ちていた。


昔からたいそうもてていたMは
そういう事に関して、一挙手一投足にそつがなかった。
私はその後、Mが自分の机から
あのみちみちに詰まった
大量のチョコレートをどうやって取り出したか
全く覚えていない。覚えていないという事は
教科書でも出すように自然に取り出し、
何でもない物のように持って帰ったのであろう。
一日二日で習得できる技ではない。
私はプロの技を見た。
いや見なかったのか。


クラスメートの男子全員に
手作りの義理チョコを配るタイプの女の子からも
笑顔でチョコを受け取るM。
もてるはずだ、と言ったら彼は笑ってまあねと答えた。



とあるバレンタインの思い出です。