レンキン

外国の写真と
それとは関係ないぼそぼそ

ぶどうのジュース(2)

2019年03月03日 | 父の話
それからまたしばらく経って、
母と話をしていた時
あの公園にお父さんとドライブで行ってきたんだよ、
桜が散り際だったけどきれいでね、と話していたら
母が

「お父さんがね、


愛にジュース買ってやろうとしたんだけど
愛はいらないって言ったんだ
昔だったらジュース買ってやるなんて言ったら
喜んでたのになあ
愛も大きくなっちゃったんだなあ、って
寂しそうにしてたよ。」


そう話す母の言葉を聞きながら
私もなんだか少し寂しくなった。
あの時喉乾いてたら良かったのにな、とか
当時はそういう方向の残念さだったけど。



そこから年月が経って、母が病気になり
母と父は別居して、私は父が嫌いになって
不摂生がたたった父は病気になり
本当にあっという間に死んでしまった。


大人になった私は色々な事が出来る。
煩雑な事務手続きも計算も手配も出来る。
だから父が死んだ時も、家の整理も入院の後片付けも
アパートの引き払いも葬式の手配も死亡届提出も
携帯電話の解約も出来た。


だけど本当はいつまでも
何も出来ないけど、父のことが大好きな
小さい私でありたかった。
ジュースを買ってもらって喜んでいる
父の思い描く私でありたかった。



今でも辛くて寂しくなると
私は自動販売機でぶどうのジュースを買う。
小さな頃、私はいつも父に
ぶどうのジュースをねだっていた。
…父に買ってもらった事にして、
取り出し口に落ちたジュースを手に取ると
なんだか少しだけ元気が出るのだ。