Good Life, Good Economy

自己流経済学再入門、その他もろもろ

夏の読書日記

2009-09-01 | Weblog
8月に読んだ本から幾つか、徒然に感想など書いてみます。

夏といえば、近現代史もの、戦争ものがいっせいに書店に並ぶ季節、その中でもリーダブルな1冊が加藤陽子著「それでも、日本人は『戦争』を選んだ」(朝日出版社 2009)です。高校生を相手に、日清戦争から太平洋戦争までの日本の選択を講義するというスタイルをとっているため読みやすいのですが、何せ講義の相手が栄光学園歴史研究部の生徒だけに、並みの社会人よりはるかに歴史を知ってます。質疑のレベルは高いです(と思います)。講義のスタイルも、外交や軍事の当事者が、どのようなことを頭に思い描きながら行動したのかが明快に伝わってきて、単なる客観的歴史叙述とは一線を画しています。各戦争において中国サイドからの視点が強調されている点も注目されます。

続いて「チェーザレ」(惣領冬実著)の7巻。モーニング連載中の漫画ですが、単行本は一応発売のたびにチェックしております。この巻では主人公のチェーザレ・ボルジアらの活躍は後景に退き、逆に歴史薀蓄ものとしてのおもしろさが際立っています。カノッサの屈辱(おぉ、何と懐かしい響き)は「その時代においては皇帝の勝利。だが後世においては教皇の勝利」であったとの解釈に、うーむ、そうでしたか、と唸ることしきり。教皇派と皇帝派の闘争にダンテの「神曲」まで飛び出し、重厚な展開になってます。

もう少し軽い歴史ものでは木村雄一著「LSE物語-現代イギリス経済学者たちの熱き戦い」(NTT出版 2009)も楽しく読めます。London School of Economics and Political Scienceの創立以来の歴史を、その中興の祖ともいうべきライオネル・ロビンスを軸に描き出した作品です。フェビアン社会主義、オックスフォード流の歴史主義経済学、ベヴァリッジの福祉国家論、ハイエクの自由主義経済学などが共存しえた自由な学風と個性的なファカルティ、それらが簡潔な筆致で語られます。今でこそLSEは英国における経済学の主流派中の主流ですが、かつてはケンブリッジの後塵を拝する存在でした。この本を読んでいて、逆にケインズの時代には世界のトップを走っていたケンブリッジの経済学が、なぜ現在のような、どちらかというと異端派的存在になっていしまったのか不思議に感じました。森嶋通夫著「終わりよければすべてよし」にあるように、英国の経済学者は戦争により、ハロッド、ヒックス、J.ロビンソン、ミードらの下の世代がすっぽりといなくなってしまい、世代間の継承がうまくいかなかったという事情はあるでしょう。しかし、LSEやオックスフォードに比べ、ケンブリッジがその後辿った道は、いささか特殊だったようにも思えます(マルクシアンやスラッフィアンの影響が強かったという事情はあるのかもしれません)。