Good Life, Good Economy

自己流経済学再入門、その他もろもろ

犬は勘定に入れません

2009-05-09 | Weblog
コニー・ウィリス著「犬は勘定に入れません」が先月文庫化されました(ハヤカワ文庫より上下2巻で発売)。翻訳の単行本は2004年発売、おもしろそうなので以前から気になってはいたのですが、文庫化を機に、ようやく購入に至りました。内容については今さら言うまでもありませんが、解説にもある通りSF、ミステリ、コメディ、恋愛小説、歴史小説など様々な要素がないまぜになった傑作です。本格派のSFファン、ミステリファンならではの楽しみ方もできる作品のようですが、その辺の分野には疎い私のような読者も十分に堪能できる第一級のエンタテインメント小説です(何より笑えます)。

ヴィクトリア朝イングランドの文化や生活様式がコミカルに描かれているのもこの小説の魅力のひとつです。執事と召使、降霊術、女性の地位、マナーとタブーなどなど。また個性的な登場人物のなかにあって、ひときわ異彩を放つぺディック教授の奇矯なキャラクターも印象的です。当時のオックスフォードの教授陣は相当変わり者が多かったようですが、この愛すべき歴史学教授も恐るべき探究心と自分勝手さで周りを振り回します。論敵であるオーバーフォース教授が「歴史は個体群に働く(確率論のような)自然力に支配される」と主張するのに対し、ぺディック教授は「歴史を動かすのは人間の力であって自然の力ではない」、「グランドデザインは実在する」(歴史には人知を超えた目的・計画・意思の力が働いている)と言って譲らず、高尚な議論に基づく低次元の喧嘩を繰り広げるのですが、実はそれすらもが謎解きの伏線となっています(なお、オーバーフォース教授の立場はダーウィンの進化論を歴史に適用したものらしい)。

上下2巻本ですが、あっという間に読み終えることができます。リラックスして楽しめる作品でございます。