Good Life, Good Economy

自己流経済学再入門、その他もろもろ

幸福の経済学

2009-05-02 | Weblog
日経の「やさしい経済学」に連載されていた筒井義郎阪大教授の「幸福の経済学」が昨日付で終了しました。「幸福の経済学って一体何?」という素朴な疑問に対するわかりやすいサマリーとなっています。

ここ数十年の間に多くの国で生活水準は改善したが、その割りに国民の主観的幸福感はあまり変化していない-所謂「幸福のパラドックス」をどのように説明するか。これがこの連載の中心的なテーマです。この「幸福のパラドックス」をもって、「物質的な豊かさは幸福をもたらさないのではないか?」という疑問が生じますが、「いや、必ずしもそうではない」というのがこの連載の結論です。

「幸福のパラドックス」を説明する仮説として、筒井教授は以下の2つの仮説を挙げます。
(1)相対所得仮説-幸福感は他の人の所得との比較で決まってくる。
(2)順応仮説-人は生活水準の上昇にすぐ慣れてしまうので、所得上昇にともなう幸福感も頭打ちになる。
実証分析においても、この2つの仮説は「幸福のパラドックス」をよく説明することが報告されています。

しかし、筒井教授は「物質的豊かさのもたらす幸福感は相対的・一時的なものであるから、精神的な豊かさこそ永続的かつ重要である」と短絡する考え方には与しません。その根拠として、教授は再び阪大のアンケート結果を挙げます。例えば、「あなたが生まれる年を選べるなら」として、1910年、50年、80年を比較させると、最近年ほど選ばれる傾向がある。あるいは、「あなたが生まれる国を選べるとしたら」として、いろいろな2国の比較を尋ねると、所得の高い国が選ばれる傾向がある。これらの結果から、やはり所得や生活水準が人々の選択行動の判断基準として重要であることが見てとれます。また、主観的尺度のみで幸福感を測ることの限界についても指摘されています。

「幸福の経済学」は経済学に縁のない人にも近づきやすいテーマであるだけに、その解釈は慎重に行う必要がありそうです。なお、筒井教授と阪大の大竹文雄教授、池田新介教授との共同論文である「なぜあなたは不幸なのか」というディスカッションペーパーが公表されています(2005年発表)。日本で行った大規模なアンケート調査の結果をまとめたものなのですが、この結論部分がとても面白い。いわく、
(1)男性は平均的には女性より不幸であるが、喫煙習慣をコントロールすると、有意に不幸であるとはいえない。
(2)すべての属性をコントロールすると、20歳代から60歳代まで、年齢が高いほど不幸である。
(3)世帯所得と一人あたり所得が大きいほど幸福であるが、その増加は逓減的である。平均的な幸福度を見ると、高い所得階層では幸福度の飽和が観察される。 .....

と、17の観察結果を列記し、こう続けます。
「このような分析の結果、浮かび上がってきた不幸なあなたの姿は、
鄙びた村に住む年寄りで中学校卒。職業は販売職。年のせいか健康に優れず、結婚はしなかった。所得も資産も少なく来年増える見込みもないので、借家住まいである。.....」
あまり書くとネタばれなので、あとはリンク先へどうぞ。