せかいのうらがわ

君と巡り合えた事を人はキセキと呼ぶのだろう
それでも僕らのこの恋は「運命」と呼ばせてくれよ

触れた指先、疑心の道化

2009-07-21 23:10:26 | テイルズ
結んで開いて、近づいては離れてく。そんな関係。

「あたしが好きだって言ってるのよ。いい歳してビビッてないで、黙って傍に居ればいいの!わかった?!余計なことは何にも、考えないでいいのよ!」ずっとしり込みしていた俺に決意をさせたのは、とても18の少女とは思えない強気で、でも彼女らしい台詞だった。こんなプロポーズをされたら、年頃の女の子ならば多少はぐらっと来るのかもしれない。けれど生憎俺は男で、結構に歳を取っていたから、心を持っていかれるところまでは行かなかった。ただ、漠然と好きだと自覚しただけ。ただ、それだけ。それがどんなに大きな分岐点かなんて、彼女は知らないんだろう。

「なに、かんがえてるの」

数歩離れて歩いていたその距離を振り向いて、手を引きちぎろうとしているかのように思い切り掴み青い瞳が覗き込んでくる。不満を露にした表情で、不器用な思いをぶつけて来るところが愛おしいと思う。今も昔も、真っ直ぐ視線を捕らえて離さない。逸らせば不機嫌にすることはずっと前に学んだから、もう二度としない。一方的に握られていた手を握り返して、へらりと馬鹿みたいに笑って見せた。

「リタっちのこと考えてたわよ。情熱的な告白だったわよねえ」

見る間に目を見開いて動揺していく彼女にまだ幼げな印象を覚えて、ついけらけらと笑った。はっと口を押さえたがもう聞こえてしまったのだ、振り上げられた手に身構える。

「…そうね、自分でもそう思う。もうしない」

ひやりとした手が頬に触れた。てっきり罵倒と暴力が待っていると思っていたので、拍子抜けして目を瞬いてしまう。しばらくそうしていると、「何よ、その顔」と彼女は馬鹿にしたように、少しばかり可笑しそうに笑った。
こういう笑みを見ると、本当にたった数年で見違えるほどに大人しく、大人っぽくなったと実感する。置いていかれている気がして怖い。前に進めないまま、まだ立ち止まっている気がして、いつか少女の背が見えなくなるのかと思うと、底知れない恐怖が湧き上る。握った手が、自分自身を嘲笑うように、微かに震えた。やっぱり少し、怖い。

「あんた、ホントに馬鹿ね。どうしようもない」

ふと、彼女がぴしゃりと打ち捨てるように言った。考えを見透かされたように思えて、空いた手で心臓魔導器を押さえてみる。大丈夫まだ生きられる、まだ死ななくていい。当たり前の事を実感して安堵する感覚が、どこか現実離れしていた。
一瞬の沈黙を守りながら彼女の方を見やると、不適な笑みを浮かべている。疑問を持つ前に胸倉を掴み上げられて、もう成長することの無い俺は、成長真っ盛りの彼女に易々と眼前を許した。以前は飛び跳ねても届かなかった目線が、今は僅かな背伸びだけで、絡んでしまう。挑戦的で、悪戯っぽい、年頃の少女の目がこちらをのぞきこむ。

「余計なことは考えなくていいって言ったじゃない。好きじゃないから言わないんじゃないわ、好きだから言わないの。あたし、おっさ…レイヴンを手放す気はないし、他の人に移り気するような女じゃないから」

だから、そんな顔しなくても平気なの。わかった?
有無を言わさない発言に、ぱちくりと数度現実を確かめてから、思考との齟齬を考えた。ちがう、彼女の言っていることは、どう考えても自分の考えを見透かされたのではない。不安を打ち消してくれたわけでも、希望を与えてくれたわけでもない。なのに、なのにどうしようもなく。

「なにあんた、真っ赤。緩みすぎ」

なのにどうしてこうも、頬が緩んでしまうのだろうか。さすがに真っ赤とまでは自覚できない、言われてから気恥ずかしくなって、長い袖で顔を覆って見えなくした。いい年してこんな少女の言葉に惑わされるなんて全く、どうかしてる。けれど彼女の言葉にどうしようもなく高揚したのは紛いようの無い事実で、だからこそひたかくしにするしか方法が考え付かなかった。考えれば考えるほど、穴があったら飛び込んで、二度と出て行きたくない気持ちになる。

「ちょ、ちょお、見ないで見ないで。おっさん照れちゃうよ」
「…ばかっぽい」

冷たい台詞だったけれど、それでもやはり頬が緩む。胸倉から手を離すと、鼻に掛かった笑いを零し、満足したように彼女はコートを翻して先へ行ってしまった。袖のせいで表情は見えなかったものの、クリティアの少女に似た余裕の笑みで笑っているだろうことが容易に想像できる。
置いて行かれないように、華奢なままで確実に成長していく背中を追いかけた。いつか、本当にこの背に置いて行かれる日が来るのだろうか。繋がれたままの手に、そっと力を込める。せめて、こちらから手を離したりはしない。

―――
(触れた指先、疑心の道化)


最初は忘れない傷跡だったのが甘くなってきたので没。
リタはすぐ大人になるよ!だってあの子の妹だもんね!
つるぺたなのだって今のうちだけry(強制終了)



追記:結んで開いて=おててにぎにぎ。にげにげ。
後から読んでみるとおっさんが乙女で地味にイラッとくる。
あと口調が私が書いたせいで若干といわず完全なまでに
レイヴンじゃなくてシュヴァーンじゃねーか(問題発言)

関係なくなってるけど「忘れない傷跡」は
「忘れられない」んじゃなくて故意に「忘れない」という。
いや、それが言いたかっただけでry