せかいのうらがわ

君と巡り合えた事を人はキセキと呼ぶのだろう
それでも僕らのこの恋は「運命」と呼ばせてくれよ

名もなき恋物語

2009-08-13 02:01:59 | テイルズ
綺麗だと、あの人は顔を赤くして言ったのだ。

皺だらけになった指を伸ばすと、あの人は振り向いて変わらない笑みを向けてくれた。包まれる手は暖かくて、まるで全てが元に戻ったあの日のようで、世界は素晴らしく色付いて見えた。
何十年も経っているのにあの人だけは変わらないままで、見た目が三十をすぎた頃から少しだけ羨ましくなった。けれど決して伝えないまま、最期までいようと思う。それが人間にとって最高の夢だったとしても、かつての私のように、苦痛でしかないこともある。大事な人の死を何度も目の当たりにしなければいけない、恐怖がある。誰よりもそれを理解ってあげられるのは、私なのだから。

「変わらないよ」

私の心を見透かしたように、銀髪を揺らしてあの人が口ずさむ。昔と変わらない、青年にしては少し高めの綺麗なアルト。少年から大人びた状態のままで時を止めたあの人は、春の風のようにふわりと笑って私の髪を梳いた。乾いた髪がぱらぱらと落ちる音が、どうしてかあの人が触れるだけで、心地のいい風のそよぎにすら聞こえてくる。
あの人は、魔術師だ。あの人が一言何かを言えば、それだけで私の世界は色付いて、綺麗に変わってしまうのだ。どんな絶望の淵に居たとしても、それはロイドよりも強い力で、私の世界を変えてしまう。とても偉い、私だけの魔術師。

「変わらないよ、ずっと。昔とおんなじ」
「……ありがとう」

何度言われても慣れない魔法の言葉。そう言われるだけで、ずっと変わらず居られる気がした。過去に戻って、色を失いでもしない限り無理だとわかっている。曲げられない事実だと知っている。それでも言葉は不思議なもので、たった一言のために馬鹿な妄想にとりつかれて、幸せに生きていけるのだ。
それで構わないと思う。現実が何であろうと、問題はないように思えた。例え明日世界が滅ぶのだとしても、二人だけで何の心配事も無く生きていけるような気がする、そんな時間だった。きっとそれは、かけがえの無い感情なのだろう。

「私、幸せだったわ。ありがとうジーニアス」
「僕も幸せだったよ。…ありがとう、プレセア」

充分、幸せを貰った。なのに私が返せるものは少なくて、あげられる時間だってそう長くはない。此処に残せるものは白く細い残骸と、そこに居たという言いようのない喪失感だけで、本当に何一つ返せやしないのに。
きっと、傍に居てあげることはできたのだろう。エクスフェィアの力を使って時間を止めてしまえば、死ぬこともなく、かといって生きることもなく、人形のように連れ添う事だけならできる。でもあの人はきっと、私が昔のようになってまで傍に居ることを望まないだろう。その状態を"生きている"と呼ぶのは、到底無理な話だ。
何も返せない。与えてあげられない。私は何も持っていないから。だというのに、何故なのだろう。私が心から幸せだと感じた事を口にして、不器用な感謝を告げるだけで、あの人は幸福の果てかのように微笑んでくれる。いつだって笑顔で、泣き顔なんてほとんど見せてくれはしない。いつだってそう、今だってしきりに笑って、私に微笑んでくれる。

「綺麗だよ」

そう言って顔を赤くするものだから、私は二度と生きてたまるものかと、思うのだ。

―――
(名もなき恋物語)
ある春の昼下がり、一人の老女と青年の物語



ごめんなさい(土下座)
とあるサイトで「プレセアはエクスフィアの影響で精神年齢だけ跳ね上がっている。ジーニアスはハーフエルフのため、じきに成長が止まってしまう。結ばれたとしても厳しいのでは」という感じの文章を見て、ふぃーりんぐっ☆(落ち着けない早瀬さん)

なんか違うですが、もうよいです。\(^O^)/