せかいのうらがわ

君と巡り合えた事を人はキセキと呼ぶのだろう
それでも僕らのこの恋は「運命」と呼ばせてくれよ

1.密室クライ

2009-12-31 15:07:23 | お題
「チープなホラー映画みたいだわ」
夜のネオンが通り過ぎていく窓を手の甲で苛立ったように叩いて、彼女が心底不愉快そうに言った。それにまた多少の苛立ちを感じたおれはアクセルを強く踏み込んで、唾を吐きかけるように彼女の方へ吹いて見せる。咳き込むそいつを見て優越に唇を吊り上げると向けていた唇を噛まれた、動揺からぶれたハンドルを咄嗟に引き戻して舌打ちする。
「ただの高速じゃねえか」
彼女のか細い手で鬱陶しそうに手で払いのけられる煙を一分ほど眺めてから、今更といったふうに口を開いてやった。なんてことはない、高い壁の向こうに見え隠れするネオンは別にゾンビの目やら火の玉やらといったものではなく、ただ電子の通った人工物の灯りだ。そこから化け物が生まれるわけでもなし、鉄の箱が行き来するコンクリの橋の上はいつも通り稼動している。だというのにこの女は一体なんだというのだ。おれに見えず彼女に見える何かが存在しているのだとしたら、おれは今すぐ車のドアを開け放ち彼女を突き落とすに違いない。例えその様を指して"化け物"だと呼ぶにしてもだ。
「そうね。でも暗いわ」
「夜だからな」
鼻先でちらちら揺れる煙草の火が、おれの嘲りで一際赤く笑った。真正面を向いていた彼女は真顔でこちらを振り向くと、さも嬉しそうに満面の笑みを顔中に貼り付ける。ぎょっとして火を落しそうになったおれは咄嗟に灰皿へ押し付けて、まだ苦味の残る紫煙交じりの息を吐いて何かおぞましい物でも見るかのように彼女へ視線をやった。それでもまだ畏怖の対象となっている彼女はにこにこと機嫌よさげにしている。
「窓、開けちゃいけないでしょう。怖い映画なら私達、このまま酸素が無くなって死んじゃうわ」
「そう簡単に死ぬかよ、バカかお前は。一生寝てろ」
浅い息を強く吐いて、説明の付けられないけれど確かであることを堂々と言い放つ。何故息苦しくならないのかなど知ったことじゃないが、それでは彼女は付け上がるだろう。そうされても困るだけなので車を端へ寄せて窓を開けると、排気ガスの独特の臭いが鼻をついた。助手席へ視線をやると彼女はもう寝ている。今更夢だったようなそんな気がして、また酷く気疲れる。一体何故おれはこんなトチ狂った女と付き合っているのだったか。
「…此処でおれたちがイチャついたら、チェーンソー持った男が押し入ってきたりするかもな」
不穏な言葉を残した割にはあまりに安らか過ぎる寝顔に、ささやかな仕返しとして呟いてみた。そんなことよりとにかく窓を開けられては彼女の思うとおりまんまと死ぬ可能性がある。もしも目が覚めたとして絶対に開けられないよう、チャイルドロックをかけてやった。

―――
(密室クライ)
配布元//少年はにびいろをした不可避の幻を見る(閉鎖)


だから大晦日に書く話じゃねえ。

暗いけどcryじゃない。何がcryなのかわかんない。
"堀さんと宮村くん"ってweb漫画に出てくる、なんか
ロッカーの話みたいな雰囲気にしたかったんだけど。
無理だった。なんか昨日の二人になっちった。

二人に特定の名前は無いです。
「おれ」の一人称で変な「彼女」との話ってだけ。
ていうかお腹すいた眠い。辛抱たまらん…。