2014年5月10日放送 美の巨人たち(テレビ東京)
ミケランジェロ 「ダヴィデ像」
初期ルネサンスを代表する彫刻家ドナテッロや、レオナルド・ダ・ヴィンチの師ヴェロッキオの彫刻作品に顕著なように、伝統的に〈ダヴィデ像〉はゴリアテを打ち負かした後の〈勝利のポーズ〉をとっていることが多い。
しかしミケランジェロが大理石に彫り込んだのは、そうした伝統とは異なる、戦いに臨む〈前〉のダヴィデの姿であった。
これには当時のフィレンツェの情勢が深く関わっている。
ロレンツォ・デ・メディチの死後、フィレンツェは政治的混乱に陥った。
果敢に戦いに挑むダヴィデの姿は、フィレンツェの市民にとって、まさしく希望の象徴であった。
伝説上の英雄ではなく、当代の英雄として、《ダヴィデ像》は市民に勇気を与えた。
もう一点。
《ラオコーン像》がそうであるように、古代の人物彫刻には〈眼〉は彫り込まれなかった。
一方、ミケランジェロの《ダヴィデ像》の眼には、なんとハートのような形が彫られているようにみえる。
もちろん、ミケランジェロがハートの形を最初から意識して彫っていたわけではない。
人体を徹底的に観察し、肉体表現に誰よりもこだわりをみせた彫刻家ミケランジェロ。
ハート形に彫られた眼は、光の加減で様々な変化をみせ、あたかも生気が宿ったかのよう。
「美しい肉体に美しい精神が宿る」と考えたミケランジェロ。
彼の《ダヴィデ像》の表情には、まさしく息吹が吹き込まれている。
巨人ゴリアテにひとりで勇敢に立ち向かったダヴィデと、空前絶後といっていい巨大な大理石彫刻に果敢に挑戦したミケランジェロ。
この二人、どこか重なるように思われるのは気のせいだろうか。
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