12月10日、引き続き、曙出版より三冊目の単行本『嵐の波止場』を発行する。
不採用を覚悟で執筆したという少女アクション物で、『嵐をこえて』と同じくミドリを主人公とした物語が、三部作として、オムニバス形式で描かれた。
密輸団とのデッドヒートを縦横無尽に切り替わる感度の高いアングルで捉え、スピード感溢れるカット割りで切り紡いだ第一話、日常で起きた些細な盗難事件の謎解きをユーモラスに描いた第二話、そして、表題作となった『嵐の波止場』の第三話からなる構成だ。
『嵐の波止場』は、主人公のミドリが、宇宙観測用のロケット設計図を写したフィルムを巡り、スパイと攻防を繰り広げるアクション路線で、戦慄と鮮やかな躍動が交差した、高揚感溢れる痛快無比のエンターテイメントに仕上がっている。
クライマックスに、波止場で嵐が吹き荒れるシーンが連続するのは、締め切りに間に合わず、背景に細かいものを描き込む時間的余裕がなかったため、下絵のいらない嵐を描いたという苦肉の策から生まれたアイデアだったが、逆に眩暈を覚えるような荒れ狂った波止場の臨場感を煽り立てる異化効果が作用しており、疾風怒涛のストーリー展開も相俟って、漫画としての完成度は極めて高い。
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