どんぴ帳

チョモランマな内容

疾病王(その2)

2010-06-17 16:26:40 | 長七郎治療日記

 植木等が歌ったように、
「そのうちなんとかなるだろう」
 と思っていた私だったが、症状はさらに悪化して行った。

 こともあろうに全身の筋肉が異常に張り始めたのだ。
「こんなに俺の脚の筋肉ってガチガチだったかなぁ?」
 日課だったストレッチを行うと、自分の身体が驚くほど硬くなっていることに驚愕する。
 特にふくらはぎや太股の筋肉はパンパンに張り、皮膚の表面がハチ切れそうになっている。
「歩くのってこんなに疲れたっけ…」
 脚の筋肉が硬く張り、普通に歩くことが徐々に出来なくなり始めた。
 自分でも何が正常だったのか、それすらも分からない…。

 睡眠時の身体の痺れも相変わらずで、さらに首や肩にも異変が起こり始めていた。
「この枕もダメか…」
 今まで使っていた枕が合わなくなり、どれだけ枕を変えても安眠出来なくなっていた。自分で飛び起きるほどの鼾も掻きだし、頻繁に目が覚めるようになる。
 それによる睡眠不足が原因なのか、何となく頭に霧がかかったような感じになり、ボーっとしていることが増えているみたいだった。もっともこれは自分自身ではハッキリと分からず、周囲の人間の指摘によってようやく認識できるほど判断能力が低下していた。

 佐野から依頼されていた中国での仕事の日程が決定したのは、丁度そんな時だった。
「このままじゃダメだ、俺はきっとたるんでいるんだ!中国で自分に『喝』を入れるてやる!」
 今から思えばとても愚かな根性論、医者から見れば単なる『特攻精神』以外の何物でもなかった。
「ちょっと、中国に行く前にきちんと病院に行きなさいよ!じゃないと死ぬよ!」
 友人の『ゆうり』にしっかりと脅されたが、
「ウハハハ、大丈夫だよ!」
 と笑って誤魔化し、そのまま中国に出発した。
 
 中国で現場作業を始めると、根性では何ともならない事態に、当然だが直面することになった。
「ヤバイ、これは本当にヤバイぞ…」
 安全靴(足の甲に鉄板が入っている作業靴、ついでに今回は鉄板入りの中敷を装備)を履いて立っていること自体が苦痛だった。バールを持って行う開梱作業(大きな輸送用の木箱の解体作業)では、全身の筋肉が悲鳴を上げ、防音パネルを運搬する作業では、本気で泣きを入れたい気持ちだった。
 物事の判断能力や俊敏性は著しく低下し、現場でボーっと突っ立っているだけの役立たず作業員に成り下がっていた。
 何よりも下半身の硬直がさらに進んでいたので、アキレス腱が悲鳴を上げ始め、高所での作業が本気で怖くなっていた。
 次第に短い距離を歩くことすら難しくなり、ホウキで工場の床を掃くだけで腕や背中、腰や脚の筋肉が悲鳴を上げ出す始末だった。

 中国から帰って数日、新たなる異変が発生した。
「い、痛てぇ!」
 寝ている最中にふと目が覚めると、左足の親指がジンジンと痛むのだ。
「布団に引っ掛かるだけでも痛いぞ…」
 非常に嫌な予感がした。
「まさか痛風じゃないだろうな…」

 私はウニとイクラと蟹ミソと白子とアンキモが好きなだけで、それらと一緒にビールと日本酒と酎ハイを飲むのがさらに好きなだけなのだ。
 たったそれだけのことで痛風になるのだとしたら、随分と酷い話だ(笑)



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