どんぴ帳

チョモランマな内容

はくりんちゅ352

2008-12-10 05:09:00 | 剥離人
 新型ノズルでコンクリートをハツり始めて三日目、最初沈殿池(汚水が最初に流れ込む池)の中に、銃声のような音が響いた。

「パァアアアアアン!」
 コンクリートの池の中から、空に向かって音が広がる
「!?」
 ハスキー(超高圧ポンプ)の前にいた私は、銃声のような音を聞いたのと同時に、ポンプの圧力ゲージが一気に40,000psi(2,800kgf/cm2)から、15,000psi(1,050kgf/cm2)付近にまで、急激に低下するのを目にした。
「なんだ、なんだぁ?」
 急激に低下した圧力ゲージは、瞬時にECV(流量と圧力を調整する調整弁システム)が作動し、その数値を元に戻す。
「うひゃひゃひゃ、木田さん、あれは抜けたねぇ」
 ポンプの側で、カッパを綺麗に洗剤で洗っていたハルは、爆笑している。
「抜けたって、何がですか?」
「ホーネット(サファイヤを内蔵するケース)の中身、あのサファイヤが吹き飛んだ音だよ、あれは」
「オリフィス(孔空きサファイヤの正式名称)が?」
「うん、コンクリートとか、空母のフライトデッキ(飛行甲板)の塗装を剥がすと、ああなるよ」
「でも、いきなりオリフィスが吹き飛んだら、孔径約0.4mmから、一気に1.5mm位に孔が拡がっちゃうでしょ。すごいんじゃないの?反動が…」
「そぉりゃ凄いさ、正子とヨシコの、どっちのサファイヤが吹き飛んだのかは知らないけど、下手すりゃひっくり返ってるかもね」
 ハルがそう言って一頻り笑い終わったその時、最初沈殿池の階段を須藤が下りて来た。
「うはははは!ハルさん、来たよ来たよ!正男ちゃんだよ!」
「うひゃひゃひゃひゃ!なんか変な顔してるよ?」
 私とハルは、かなりへこんだ表情で、首を何度も捻りながら歩いて来る須藤を見て、手を叩いて爆笑する。
「な、なんで笑ってるんですか?」
 須藤は、私とハルに近寄りながら、また首を捻る。
「正男ちゃん、もしかして抜けた!?オリフィスが!」
「あれ?ええ?なんで分かるんですか?」
 須藤は不思議そうな顔をする。
「うひゃひゃひゃ、ちゃーんとここまで抜けた音が聞こえたしね」
「ハスキーの圧力ゲージでも分かったよ。しかし、よく怪我をしなかったね。後ろに吹き飛ばなかったの?」
「いや、後ろに二、三歩下がりましたよぉ、だって、肩にガンを担いで壁の上の方を撃っていたら、物凄い音が『パーン』ってして、物凄い量のジェットが噴き出したんですよ」
 須藤はやや興奮しながら話し出す。
「そうしたら、右肩がガンに押されて、後ろに二、三歩よろけて、仰向けに倒れそうになりましたよ」
「うひゃひゃひゃひゃ!」
 ハルは須藤のその姿を想像して、顔をクシャクシャにして笑っている。
「ウヒひひひ、わ、笑い事じゃないでしょ、ハルさん!」
 そう言いながら、私も笑いが止まらない。
「本当に正子はよ、四つん這いになった後は、今度はガンを持ったまま仰向けに倒れちゃうんだから、本当にねぇ」
 ハルはヒクヒクしている。
「い、いや、倒れてはいませんって…」
 須藤は否定をしながらも、ほとんど倒れる寸前だったのだろう、バツが悪そうな顔をしている。
「まぁ、正男ちゃん、それはともかく、まずはノズルを見せてくれる?」

 私は須藤からガンを受け取ると、コンテナの作業台の上に置き、ノズルを外し始めた。




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