佐野の説明を受けても、渡はどことなく納得がいかない様子だった。
「ほかに手段はありまへんか?」
佐野はニッコリと笑うと、渡にも分かるように、ゆっくりと説明をした。
「ウォータージェットは、鉄板の素地表面にあるアンカーパターン(塗装を食い込ませる為の細かい凹凸)を破壊することなく、塗膜のみを除去できるのが特徴ですよね」
「そうですな」
本当に分かっているのかは不明だが、渡が頷く。
「このタンクの鉄板素地には、すでにアンカーパターンなんて一切残っていません。それどころか孔食によって、鉄板がかなり薄くなっています。場所によっては6、7ミリ、いや、ここなんか下手すりゃ5ミリ以下か?」
「5ミリ以下って本当ですか?そうだとしたらサンドブラストなんかで撃ったら、穴が空いちゃうじゃないですか」
私は5ミリ以下という数字を聞いて、少し佐野を疑った。
「うん、気をつけないと、あんまり撃ち込むと穴が空くと思うよ」
「え?このタンクそんな状態なんですか?」
「うん、そんな状態だねぇ」
佐野は若干困惑した表情で笑っている。
「あの、ここが貧乏な会社ならともかく、曲がりなりにも電力会社なんだから、そんなになるまで放って置くもんですかねぇ?」
「普通は放って置かないね」
「ん?確かタンクには定期検査があったはずじゃあ…」
渡がどんなタンクにも必ず、法定の定期検査があることを思い出した。
「いえ、開放型のタンクで、しかもこれは内容物が『灰』なので、おそらく法定の検査が無いのかもしれないですね」
「でなきゃ、こんな状態になるまで放っておかないですよね」
私が佐野に同意すると、渡は少しだけ考え込んでしまった。
「この仕事、獲らない方が良かったかも知れませんな…」
渡はついに降参した。
「ええ、獲ってはいけない仕事でしたね」
佐野は辛口に答えたが、渡は苦笑いをした。
「サンドブラストですか…、佐野さん、どこか心当たりの業者はありませんか?」
渡が言い出した。
「え?ウチでやるんですか?」
私は思わず言ってしまった。
「お前、そりゃそうやろ!今さら『ウチでは出来ません』なんて言えるか!」
ウチの大将は、敗戦処理も『行け行けドンドン』だ。
「SS工業という、私が昔から知っている塗装屋がありますので、今から連絡を取りますね」
佐野はそう言うと、携帯電話で何処かに連絡を取り始めた。
「撤収ですか?ウォータージェットは…」
「そうなるな」
渡は腕組みをして口をすぼめる。
「分かりました、じゃあ明日にでも…」
先日来たと思ったら、早くも明日は帰りの準備だ。私は嫌な予感が的中して、すっかりへこんでしまった。
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