日曜日、私はN県にあるN大学のキャンパスに居た。
ここが『一級土木施工管理技士』試験の試験会場だ。
去年は試験を完全に舐め切っていたので、失敗してしまったが、今年は何としても合格しなければならなかった。
なぜなら、会社は私がこの資格を取ることに多大な期待を抱き、N建学院という資格取得学校にまで行かせてくれたからだ。これで落ちたら、私はまさに馬鹿全開を証明することになる。
さすがに馬鹿全開を証明するのは嫌だったので、今年は真面目に勉強をし、N建学院の授業内小テストでは、常に上位をキープしていた。もちろん上位であることよりも、問題と回答をきちんと理解している事が重要である。
私は指定された教室に入ると、試験に備えてトイレに小用を足しに行った。
「すみませーん、誰かいますか?」
小用を足していると、何故かトイレの大用ブースから声を掛けられる。
「はぁ、何か?」
ブース内の彼が何を望んでいるのかは九割九分想像出来るが、念の為に彼の要望を聞いてみる。万が一、カンニング用小型発信機の所持を頼まれたら、丁重に断らなければならない。
「あのぉ、紙が無くなってしまいまして、トイレットペーパーを取って頂けないでしょうか?」
彼は、完全に予想通りの要望を、私に要求した。
「ああ、ちょっと待って下さいね…」
私は別のブースを覗き込むが、どのブースにも予備のトイレットペーパーが置かれていない。少しだけ考えたが、目下困っている人を助けるのが最優先である。私は迷わず隣のブースから、一つしかないトイレットペーパーを取り外した。
「いいですか、ここから落としますよ」
「はい、お願いします」
私はブースの上にトイレットペーパーをかざすと、真下に落下させた。
「あ、ありがとうございます!助かりました!」
ブース内の彼は、心からの謝礼を私に述べた。
「いえいえ、気にしないで下さい」
私はそう答えると洗面台に近寄り、手早く手を洗った。このまま長居をすると、尻を拭き終わった彼がブースから飛び出して来て、
「いやぁ、本当に助かりました!なんとお礼を言ったら良い物か!」
などと言いながら、選挙期間中の市会議員が如く、洗っていない手で握手を求めて来るかも知れない。もしそうなったら、気の弱い私は、彼のワイルドな握手を断れないかもしれないからだ。
足早にトイレを出ようとした時、隣のブースの、一つしかないトイレットペーパーを私が外してしまった事が、ふと気になった。
だが、すぐに私は思い直した。もしもまた誰かがそのブースに入ってしまったら、きっと他の人に、
「すみませんが、トイレットペーパーを取って頂けないでしょうか?」
と声を掛ける筈である。
「そうだよな、そこから人と人との温かいコミュニケーションが産まれるんだよな…」
私は一人で納得をすると、爽やかな気持ちでトイレを後にした。
自分の受験番号の席に戻ると、ふと大切な事に気付いた。
「その前に、トイレットペーパーがあるかどうか位、自分で確認しろよな…」
そうなのだ、それこそが『一級土木施工管理技士』に求められる資質なのだ。
「むっ!?私がこの工程で作業を行った場合、排便後の工程ではトイレットペーパーが必要になる。つまりトイレットペーパーの残量確認を行う必要がある!」
これこそが現場で求められる『真の管理能力』なのだと、私は気付いたのだった。
※ 本気にしないで下さい。
間違っても(財)全国建設研修センターに問い合わせたりしないよーに。
ここが『一級土木施工管理技士』試験の試験会場だ。
去年は試験を完全に舐め切っていたので、失敗してしまったが、今年は何としても合格しなければならなかった。
なぜなら、会社は私がこの資格を取ることに多大な期待を抱き、N建学院という資格取得学校にまで行かせてくれたからだ。これで落ちたら、私はまさに馬鹿全開を証明することになる。
さすがに馬鹿全開を証明するのは嫌だったので、今年は真面目に勉強をし、N建学院の授業内小テストでは、常に上位をキープしていた。もちろん上位であることよりも、問題と回答をきちんと理解している事が重要である。
私は指定された教室に入ると、試験に備えてトイレに小用を足しに行った。
「すみませーん、誰かいますか?」
小用を足していると、何故かトイレの大用ブースから声を掛けられる。
「はぁ、何か?」
ブース内の彼が何を望んでいるのかは九割九分想像出来るが、念の為に彼の要望を聞いてみる。万が一、カンニング用小型発信機の所持を頼まれたら、丁重に断らなければならない。
「あのぉ、紙が無くなってしまいまして、トイレットペーパーを取って頂けないでしょうか?」
彼は、完全に予想通りの要望を、私に要求した。
「ああ、ちょっと待って下さいね…」
私は別のブースを覗き込むが、どのブースにも予備のトイレットペーパーが置かれていない。少しだけ考えたが、目下困っている人を助けるのが最優先である。私は迷わず隣のブースから、一つしかないトイレットペーパーを取り外した。
「いいですか、ここから落としますよ」
「はい、お願いします」
私はブースの上にトイレットペーパーをかざすと、真下に落下させた。
「あ、ありがとうございます!助かりました!」
ブース内の彼は、心からの謝礼を私に述べた。
「いえいえ、気にしないで下さい」
私はそう答えると洗面台に近寄り、手早く手を洗った。このまま長居をすると、尻を拭き終わった彼がブースから飛び出して来て、
「いやぁ、本当に助かりました!なんとお礼を言ったら良い物か!」
などと言いながら、選挙期間中の市会議員が如く、洗っていない手で握手を求めて来るかも知れない。もしそうなったら、気の弱い私は、彼のワイルドな握手を断れないかもしれないからだ。
足早にトイレを出ようとした時、隣のブースの、一つしかないトイレットペーパーを私が外してしまった事が、ふと気になった。
だが、すぐに私は思い直した。もしもまた誰かがそのブースに入ってしまったら、きっと他の人に、
「すみませんが、トイレットペーパーを取って頂けないでしょうか?」
と声を掛ける筈である。
「そうだよな、そこから人と人との温かいコミュニケーションが産まれるんだよな…」
私は一人で納得をすると、爽やかな気持ちでトイレを後にした。
自分の受験番号の席に戻ると、ふと大切な事に気付いた。
「その前に、トイレットペーパーがあるかどうか位、自分で確認しろよな…」
そうなのだ、それこそが『一級土木施工管理技士』に求められる資質なのだ。
「むっ!?私がこの工程で作業を行った場合、排便後の工程ではトイレットペーパーが必要になる。つまりトイレットペーパーの残量確認を行う必要がある!」
これこそが現場で求められる『真の管理能力』なのだと、私は気付いたのだった。
※ 本気にしないで下さい。
間違っても(財)全国建設研修センターに問い合わせたりしないよーに。
私もあまりの偶然に驚きました(笑)