どんぴ帳

チョモランマな内容

はくりんちゅ91

2008-02-01 21:30:59 | 剥離人
 生温い『灰汁』を前にして、私は途方に暮れていた。

「どうしますか?こんな灰汁を入れたら、ハスキーにダメージがあると思いますけど…」
 電話の向こうの渡も悩んでいる。
「そうは言ってもお前、ここで引けやんやろ」
「じゃあ、とりあえずやっちゃいます?」
「そうしたってや」
「分かりました…」
 私はキャットの前で遊んでいる小磯とハルに告げた。
「やりますよ!」
「がははは、ハスキーにこんな汚い水を入れちゃうの?」
「突撃指令が出ましたからね、ワタちゃんから」
「がははは、渡さんも勝負師だねぇ」
 私はそれは違うと思った。大将はただ単に『行け行けドンドン』なだけだ。
「こんな水を入れたら、あっという間にフィルターが詰まるんじゃないの?」
 小磯がハスキーのフィルターを心配する。
「大丈夫かどうかは分かりませんけど、今回からプレフィルターを装備しましたから」
「ああ、俺がスタンドを造らされたやつね」
 以前から、現場で使う工業用水の水質には、かなりの不満があった。普段使われていない工業用水のラインは配管内の錆が凄く、すぐにフィルターがまっ茶色になり、インレットウォーターの供給圧が低下するということになる。つまり、一本15,000円の10μアブソリュート(絶対に異物を通さない)フィルターを、四本(合計60,000円分)も交換しなければならないと言う事だ。
 あまりに高いランニングコストに、私は供給水にプレフィルターを使用することにした。50μと10μの大型中空糸フィルターだ。この一本3,000円の安価なフィルターで大きな異物を除去し、ハスキー本体の高価なアブソリュートフィルターの耐久時間を延ばすのが狙いだった。

「じゃあ、行きますよ!」
 私は、アイドリングを終えたハスキーのエンジン回転数を上昇させた。
「うわっ!」
 余剰水と冷却水の排出ホースを見て、絶望的な気持ちになる。排水は微妙に濁った色をしていて、良く観察すると灰の微粒子が混じっている様だった。
「木田君、これはまずいんじゃないの?」
 小磯もそう思うらしい。
「ええ、それに…」
 プランジャー部(ピストンの外側)を手で触って見ると、通常よりも遥かに温度が高い。やはり供給水の温度が高すぎるのだ。プランジャーへの影響も心配だ。
 だがここまで来たら、やるしかなかった。
「小磯さん、キャットの操作、お願いしますよ!」
「はいよー」
 小磯は階段を上ると、タンクの中に入って行った。

 ここはまだ地獄の入口だ。


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2 コメント

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壊れちゃうんですか? (カミヤミ)
2008-02-02 00:58:15
いや、ハスキーじゃなくて周囲の人間同士の信頼とか… そーゆーものが…。
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いや、プロとして… (どんぴ)
2008-02-02 12:09:42
 仕事人として、とてもむなしい事になります(笑)
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