目の前にある擬似鋼管の中で、ロボットの計器に赤色の光りが点った。
前山は、台の上に設置されている擬似鋼管の中に入ると、ロボットの中心下部を指差した。
「ここにエアシリンダー用の高圧タンクがあります」
管内ロボットの下部には、銀色の小型エアータンクが装着されていた。
「中の圧縮空気をシリンダーに送り込むのが、このレバーです」
前山はサクションホースの接続部の下にある、グレーの握りが付いたレバーを右に倒した。
「シュコシュコシュコシュコ」
高圧エアーがシリンダーに注入される音がして、エアシリンダーが伸び始めた。
「シュコシュコシュコシュコ」
二本の脚のエアシリンダーが伸びると、ハイドロキャットが装着されている最上部の脚が、ゆっくりと上がっていく。
「お、キャットが天井に押し付けられたね」
ハイドロキャットが完全に天井部に押し付けられる。
「シュコ、シュッコ、シュッコ、シュー…」
エアシリンダーに送り込まれるエアーが減少し、ベンツマークの三方の脚が綺麗に突っ張った所で、管内ロボットは停止した。
「この状態から、剥離を開始して下さい。管内ロボットの制御は、このキャット用のコントローラーで、今までと同じ使い方で結構です」
前山はキャット用のコントローラーを首から下げると、走行レバーを前進の位置に倒した。
「クゥイイイイイイン」
聞き慣れたモーター音が鳴り、巨大なベンツマークがゆっくりと回転を始めた。
「おおっ!」
「動くね!」
私と大澤は、またしても声を出した。
「クゥイイイイイン」
最上部にあったハイドロキャットは、管の内面に沿って右回りに下がって行く。
「いいね、追従性が高いね」
バキューム装置が無いにも関わらず、キャットは綺麗に管の内面をトレースしている。
「エアシリンダーがきちんと機能してるね」
大澤が目を見開いて、エアシリンダーの制御をしているであろう装置を覗き込む。
「この赤色のデジタル計は?エアシリンダーのエアー配分のコントロールなの?」
「そうです。このデジタル計の間にある、ステンレスの箱の中にある振り子が、シリンダーのエアー配分を決定しています」
前山は私の質問に、やや得意げに答えた。
キャットは最下部を通り過ぎ、今度は左内面を上に向かって行く。
「スピードの制御も今までと同じで、周波数を変更して下さい。それからステアリングも多少なら効きます。軌道の微妙な修正は、これで可能だと思います」
前山がコントローラーのステアリングを右に倒すと、管内ロボット自体の回転が一時的に停止し、ハイドロキャットが戦車と同じ駆動方式で、僅かに軌道を右に反らし、前山がステアリングレバーを戻すと、再び回転を始めた。
「うーん、なるほどね。ただ、あんまり有効な感じはしないね」
「そうですね、どうしても本体の回転が一時停止するのと、他の脚はステアリングを切れませんので、どうしてもこの程度ですね」
管内ロボットが最上部に達し、一回転を終えると、前山は管内ロボットに近寄った。
「ここでジェットを停止させたら、必ずこのバルブを開いて下さい」
前山はそう言うと、バキュームホースが接続されたエルボーに付いている、φ75のボールバルブ(球状の弁)を開いた。
「それは?」
「これはキャット内の負圧をブレークさせる為の、逃がし弁だと思って下さい。負圧が有効なままエアシリンダーを縮めると、ハイドロキャットが天井に張り付いたままになって、台車本体が降りない場合があります。これはそれを防ぐためのバルブです」
「なるほど、さすがに『ハイドロキャット-J』を実用化した会社だけあって、良く考えてあるね」
前山がエアシリンダーを縮めると、ベンツマークの下二箇所に付いている、管内を前後方向に動く車輪が接地する。
「この補助輪で、キャットの塗装剥離幅だけ、管内ロボットを動かします」
前山は擬似鋼管内で、約30センチロボットを手前に出した。
「これで再びエアシリンダーを伸張し、ボールバルブを閉鎖、ジェットを出して、今度は左回転でロボットを回して下さい」
「んん?スイベルがあるのに?ああ、そっか」
「そうですね、各ホース自体はスイベルで回転しますけど、ホース同士がどんどん絡んじゃいますからね。左右交互に回転させて下さい」
「いやぁ、前山さん、これは中々凄いよ」
私は素直に、この管内ロボットを賞賛した。
「木田さん、これは凄いよね、多分世界初なんじゃないの?こんなロボットを造ってる業者は、多分居ないよ!」
大澤は興奮気味に声を出す。
「ま、後は現場で実際使えるかどうかだよね。で、もちろん間に合うんだよね?」
私の問い掛けに、前山は渋い顔をした。
「あと少し微調整をさせて下さい、明日出荷します」
「うわぁ、運搬日数を考えると、もしかしてギリギリ?」
私は苦笑いをした。大澤がじっと前山を見る。
「あと少しなんですよ、明日必ずチャーター車で出します!」
前山の言葉を聞いて、私は大澤に頷いた。
「ま、仕方ないよね。どの道、今回の現場はどの要素を取っても、一発勝負だからね。協成と前山さんを信じるしかないね」
二時間後、私と大澤は、K空港で紫イモのスイートポテトをお土産に購入して、帰りの飛行機に乗り込んだのだった。
前山は、台の上に設置されている擬似鋼管の中に入ると、ロボットの中心下部を指差した。
「ここにエアシリンダー用の高圧タンクがあります」
管内ロボットの下部には、銀色の小型エアータンクが装着されていた。
「中の圧縮空気をシリンダーに送り込むのが、このレバーです」
前山はサクションホースの接続部の下にある、グレーの握りが付いたレバーを右に倒した。
「シュコシュコシュコシュコ」
高圧エアーがシリンダーに注入される音がして、エアシリンダーが伸び始めた。
「シュコシュコシュコシュコ」
二本の脚のエアシリンダーが伸びると、ハイドロキャットが装着されている最上部の脚が、ゆっくりと上がっていく。
「お、キャットが天井に押し付けられたね」
ハイドロキャットが完全に天井部に押し付けられる。
「シュコ、シュッコ、シュッコ、シュー…」
エアシリンダーに送り込まれるエアーが減少し、ベンツマークの三方の脚が綺麗に突っ張った所で、管内ロボットは停止した。
「この状態から、剥離を開始して下さい。管内ロボットの制御は、このキャット用のコントローラーで、今までと同じ使い方で結構です」
前山はキャット用のコントローラーを首から下げると、走行レバーを前進の位置に倒した。
「クゥイイイイイイン」
聞き慣れたモーター音が鳴り、巨大なベンツマークがゆっくりと回転を始めた。
「おおっ!」
「動くね!」
私と大澤は、またしても声を出した。
「クゥイイイイイン」
最上部にあったハイドロキャットは、管の内面に沿って右回りに下がって行く。
「いいね、追従性が高いね」
バキューム装置が無いにも関わらず、キャットは綺麗に管の内面をトレースしている。
「エアシリンダーがきちんと機能してるね」
大澤が目を見開いて、エアシリンダーの制御をしているであろう装置を覗き込む。
「この赤色のデジタル計は?エアシリンダーのエアー配分のコントロールなの?」
「そうです。このデジタル計の間にある、ステンレスの箱の中にある振り子が、シリンダーのエアー配分を決定しています」
前山は私の質問に、やや得意げに答えた。
キャットは最下部を通り過ぎ、今度は左内面を上に向かって行く。
「スピードの制御も今までと同じで、周波数を変更して下さい。それからステアリングも多少なら効きます。軌道の微妙な修正は、これで可能だと思います」
前山がコントローラーのステアリングを右に倒すと、管内ロボット自体の回転が一時的に停止し、ハイドロキャットが戦車と同じ駆動方式で、僅かに軌道を右に反らし、前山がステアリングレバーを戻すと、再び回転を始めた。
「うーん、なるほどね。ただ、あんまり有効な感じはしないね」
「そうですね、どうしても本体の回転が一時停止するのと、他の脚はステアリングを切れませんので、どうしてもこの程度ですね」
管内ロボットが最上部に達し、一回転を終えると、前山は管内ロボットに近寄った。
「ここでジェットを停止させたら、必ずこのバルブを開いて下さい」
前山はそう言うと、バキュームホースが接続されたエルボーに付いている、φ75のボールバルブ(球状の弁)を開いた。
「それは?」
「これはキャット内の負圧をブレークさせる為の、逃がし弁だと思って下さい。負圧が有効なままエアシリンダーを縮めると、ハイドロキャットが天井に張り付いたままになって、台車本体が降りない場合があります。これはそれを防ぐためのバルブです」
「なるほど、さすがに『ハイドロキャット-J』を実用化した会社だけあって、良く考えてあるね」
前山がエアシリンダーを縮めると、ベンツマークの下二箇所に付いている、管内を前後方向に動く車輪が接地する。
「この補助輪で、キャットの塗装剥離幅だけ、管内ロボットを動かします」
前山は擬似鋼管内で、約30センチロボットを手前に出した。
「これで再びエアシリンダーを伸張し、ボールバルブを閉鎖、ジェットを出して、今度は左回転でロボットを回して下さい」
「んん?スイベルがあるのに?ああ、そっか」
「そうですね、各ホース自体はスイベルで回転しますけど、ホース同士がどんどん絡んじゃいますからね。左右交互に回転させて下さい」
「いやぁ、前山さん、これは中々凄いよ」
私は素直に、この管内ロボットを賞賛した。
「木田さん、これは凄いよね、多分世界初なんじゃないの?こんなロボットを造ってる業者は、多分居ないよ!」
大澤は興奮気味に声を出す。
「ま、後は現場で実際使えるかどうかだよね。で、もちろん間に合うんだよね?」
私の問い掛けに、前山は渋い顔をした。
「あと少し微調整をさせて下さい、明日出荷します」
「うわぁ、運搬日数を考えると、もしかしてギリギリ?」
私は苦笑いをした。大澤がじっと前山を見る。
「あと少しなんですよ、明日必ずチャーター車で出します!」
前山の言葉を聞いて、私は大澤に頷いた。
「ま、仕方ないよね。どの道、今回の現場はどの要素を取っても、一発勝負だからね。協成と前山さんを信じるしかないね」
二時間後、私と大澤は、K空港で紫イモのスイートポテトをお土産に購入して、帰りの飛行機に乗り込んだのだった。
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