pride and vainglory -澪標のpostmortem(ブリッジ用語です)-

初歩の文書分析と論理学モドキ(メモ)

風の景色 第八章 出会い⓬

2022-05-28 08:46:43 | 風の景色
 俊明は、少し間を取った上で、言葉を選びながら話始めた。
 「多分吹雪野の実験自体が時期尚早であったでしょうし、実験失敗後の軌道修正の手段としての鳥の技術提供も拙速であったと思います。この評価の違いは、古のユーラシア東部の思想家に例えれば、墨家である貴方方と道家である私達の思想の根源に立ち戻るものであり、合意点などないのでしょう。
 しかしながら過去に遡って論う事は不毛でしかありません。現状を前提としての私の考えを述べましょう。(私と言ったのは、翳修士の大半は沈黙こそが最も雄弁な答えと考えそうだからです。)
 最後の「独楽」の技術供与だけはおやめ下さい。
 貴方達が行わなければ、紫苑が技術供与を行う可能性がある事は承知しています。そちらについては私が杜の守りの司政士と恒鱗殿を説得します。

 私には華崗・珠光の暴発を別の形で収めるアイデアがあります。龍眼にも介入させません。その為には星妃殿の指導と御両者の協力が不可欠です。三人が揃った所でご説明いたします。
 あなた方の協力が得られれば、龍眼公、恒鱗殿、司政士殿には翳修士が介入を辞さない考えである事を、私の一存で伝えます。
 私どもについてはご懸念不要です。例え大半の者が内心は反対であったとしても翳修士の結束は破れる事はございません。托鉢修道会に喩えられたのはその意味で妥当でした。翳修士団において首長である私の決定は絶対です。」

 明妃は俊明の言葉を受けとめて、すこし考えてから答えた。
 「取りあえず承っておこう、近日中に司政士殿とお会いするが、技術供与については曖昧にしておく事とする。貴方の申し出については星妃に確かに届く事となろう。その上で貴方が龍眼公。恒鱗殿とお会いした後、星妃同道で最終決断の為お会いする事としたい。」

 「有難う。遠い兄弟。本日は夜も深けました。近い将来の再開をお待ちしております。」
 俊明は深く礼をした。

 「では春が来る前に。希望と願いを。お互いそれが必要であろう。」
 明妃はそう言い残すとドアを開け、静かに立ち去っていった。

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