Humdrum++

ツリオヤジのキドニーケアな日々 ~ 知れぬ事は知れぬまゝに、たやすく知れるのは浅い事 (葉隠 聞書第一0202)

ハンチバック - 市川沙央 (文藝春秋2023年9月号)

2023-08-21 05:26:33 | 読書メモ

2023年上期の芥川賞受賞作。

ハンチバック。

hunchback は「せむし」という意味です。先天性ミオパシーの一種である「ミオチュブラー・ミオパチー」である作者および本作品の主人公、井沢釈華が患わっている疾患から、このタイトルがつけられています。

html文書から始まる書き出しは、私にとっては初めてみるスタイル。これはなんだろう?と思いながら読み進めると、釈華が書いているコタツ記事なんですね。重度障害を持つ釈迦の生活、思索が赤裸々に描かれています。健常者が知らないこと、気にしていないことが闊達な文章で表現されていて、一気に読み進めました。

twiterに投稿する前に、evernoteをバッファに使って熟成させるなど、SNSとの知的な関り方をしていますが、ツイートする内容は「ハプバで天井からコンドームを降らすバイトをしたい」「生まれ変わったら高級娼婦になりたい」のようにたわいのなく思える内容ですが、読み進めていくとその背景と重度障害との関連が見えてきます。

紙の本を読むのに苦労する重度障害について触れ、健常であることが要求される「読書文化のマチヅモ」についての表現は痛烈で、紙好きの私などは、無知な傲慢さと言われると返す言葉がありません。1975年の「愛のテープは違法」事件についても、初めて知りました。

一気に読み終えたとはいえ、知らない言葉も多く、google先生に聞いた回数も多いです。医学用語はもちろん、寡聞にしてインセル、ヴィラン、リプロライツの言葉は知らなかったし、ネット用語では、スパダリ、ナーロッパ、風俗用語ではセベ、即即、NN、ホスの担、など、未知の単語が並んでいました。わしと同世代のじじい達に、これらの言葉がわかるだろうかと問うてみたい。

そんなわけで、普段読んでいる小説よりも得る知識が多かったように思います。いかなることについても言えると思いますが、当事者意識がないと知らない、知ろうとしないことが、世の中には溢れています。そのことを再確認させてくれる小説でした。

文藝春夏は受賞者インタビューが読めるのが良いです。今回のインタビューは本編並みに面白かった。

芥川賞を意識して書いた、芥川賞をとって読書バリアフリーを訴えたかった、直近のノミネート作を研究したとありますが、それを結果に結びつけたところは非凡な才能を感じます。

本作を読んで、破廉恥な!と激怒したお父様の下りでは、なんか面白いお父様と言うことが想像できました。

作者プロファイル。

これが最初の純文学作品とのことですが、他の作品が読んでみたくなる作者です。次作の構想はヴァイニンガーに関連しているとのことで、完成が待たれます。

話はころりと変わりますが、同号には三島由紀夫「未完の遺作」と題する記事もありました。
その遺作は赤字のついた文楽の脚本とのことですが、記事の内容は三島と作者との思い出話で、三島ファンとしては興味深く読めました。

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p.s. 南蛮漬けが美味なり。


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