こうして、見上げていると、夕映えの空がとても懐かしく思える。具体的な思い出は見えてはこない。ただ、懐かしいという思いだけが、心筋を圧迫して息が辛い。
背中に敷いた砂利が、重い体をやけに刺してきた。とはいえ、もう、痛みも感じなくなっていたが。
ここはどこだろうか? ――ここは、どこでもいいのだ。世界のどこかだろうから。
春から、ある場所を求めて、旅をしてきた私だった。
だが、きっとそこはどこにもない。どこでもない場所なのだ。
だから、私はついに地べたに寝転んでしまった。
「おじいさん。こんなところでなにをしているの?」
転んでいると、耳元でささやくよな声が聞こえた。
それは、昔なじみだったりっちゃんの声に似ていた。少し鼻に掛かった幼げな声。幼げな声のまま、最後の時を迎え、旅だった。
臨終の際、りっちゃんは「家に行きたかった」と語ったという。
娘夫婦と暮らしていた家ではなく、子供時代の思い出が宿る、ぼろっちい一戸建て。りっちゃんはそこへ行きたかったというのだ。何をしに? もしかしたら、遊びたかったのかも知れない。今までの人生を振り返って、それをはにかんでみたかったのかも知れない。
「君は? …………ふふっ、その尻尾は狐か狸の類か? 獣のくせに人語を操るなんて」
「僕は野良犬だよ。森の中で育った野良犬。おじいさんは?」
「ただのじいさんだ。名前なんて無いよ」
「じゃあ、おじいさん。ここへは何をしに来たの?」
「何をしに、か? さぁ、私にもわからないな。ただ」
「ただ?」
「ちょっとした散歩のつもりじゃったんだ」
「散歩をしに来たの?」
「違う、違う。もっと長い散歩だ。終わりは最初から見えていたはずなのに、ここへ来るまでに色々とありすぎて、見失ってしまったんだ。あるいは、散歩をしていることを忘れてしまったのかも知れない」
「おじいさんの散歩は終わってしまうの?」
ああ、悲しそうな声だ。
りっちゃん、そんな顔をしないでくれ。
「終わる……のかもしれない。でも、私は道になる。こうして道になるのだ。散歩をしている人の足に踏まれる。――景色になる。誰かが誰かを思う風景の一部になれるのだ。――生まれ変わることではない。私の散歩は、こうして終わってしまうのだから。生まれ変わるなんてあり得ないよ。これから戻る場所もない。どこかへ行くわけではない。散歩の終着点は、みな、どこかの道なんだ」
「おじいさんは、それで幸せなの?」
「いいや。幸せなんてことはないさ。学生時代に愛の告白をしておけば良かったと思っているし、妻子を持てば良かったとも思っている。犬のラピュタには、タマネギを食わせてすまなかったと思っている。異世界を旅してみたかった。飛行機のパイロットになりたかった。北京ダックを食べてみたかった。ああ、後悔は止めどない。じじいになっても、未練たらしいものさ。――なぁ、野良犬くん、君は私の言葉を聞いて、まだ散歩を続けようと思うかい?」
「散歩はしないよ。家に帰らなくちゃいけない。そんな暇はないさ」
「あはは、違いない。さ、家に帰るんだ、そろそろ雨が降る」
「そう? わかった。おじいさんも早く帰らないと」
「そうだな…………」
冷たくもない、温かくもない雨が頬に落ちる。
少し苦笑してみたくなるくらい、不器用な稲光が森のどこかに落ちたのだった。
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その昔、僕は詩人になりたかったんです。
僕が小説家を目指しているそもそものきっかけです。
ですから、僕は小説を書く時、もっとも恐れているのは第三者の目です。だって、詩はそもそも他人には理解できないことを、なんとかして言い表そうとしたものですから。一文一文が「意味不明」と詰られていることを思うと、怖くて夜も眠れません。
今回は、小説というより詩です。
小学生の頃は、小説と詩の区別が付かず(今も、だったり)こんな中途半端なものばかり書いてました。
初心忘るべからず、ということで。
しかし、このクールの変わり目は切ないですね。
番組表に「終」の文字を見つけるたびに、うわぁこのアニメも終わるのかぁ、って呟いてます。
始まりがあるものには、終わりがあるということで。
秋は、どんなロリっ娘が出てくるのかな~
それにしても先生の獣率は10割近いですね^^