The Girl with the Wineglass 「ワイングラスを持つ女」
1659-60, oll on canvas, 77.5 x 66.7 cm,
Inscribed lower right window panc : IVMIteer (VM in ligature)
Herzog Anton Ulrich-Museum, Braunschweig, Germany
エレガントな赤いサテンのドレスを着た婦人が、絵を見る人に微笑みかけている。傍らには、ワイングラスを持った彼女の手に触れようとしている紳士がいる。彼女の表情から、彼の好色な意図を彼女が受け入れるであろうことが想像に難くない。 後方のテーブルの紳士は恐らく、既に酔っ払ってしまっているのだろう。
この絵は明らかにデ・ホーホ (Pieter de Hooch)の初期の室内画にヒントを得ている。 フェルメールの微妙なタッチが、サテンの柔らかい艶や銀皿の輝きを、完全なまでに描き出している。
こざっぱりとした室内で、誘惑のシーンが繰り広げられている。 エレガントな赤いサテンのドレスを着た若い女が、傍らに立つ男から渡された白ワインの入ったグラスをそっと手に持っている。 若い女は絵を見る人に向かって笑いかけており、ワイングラスだけでなく、熱心な求愛者のサービスをも受け入れるでだろうことが想像に難くない。 大きく口を開けた女の笑いから、女が男の誘惑に喜んで従って、既に幾分酔っていることが分かる。
この絵と、少し前に描いた「#10/グラスのワイン」 (c.1658-60)は、ピーター・デ・ホーホPieterr de Hooch (1629-84)の1658 年の作品「Woman Drinking with Soldiers 」にインスピレーションを得て、広い部屋の隅のシーンに構図上のテーマを借りたものである。 しかしフェルメールは(部屋の建築学的な構造よりも)画面近くに置いた人物を構図の支配的な要素にする一方、デ・ホーホが人物の相互関係の背景を創り出す為に用いたアクセサリー類を無くし、単純化することで、構図上の要素をむしろ難解にして織り込んでいる。
フェルメールが省かなかった倫理的なコメントが窓ガラスに入れられている。 手網を持った禁欲の神のステンドグラスである。 これは描かれているシーンでの抑制の欠如を示唆しており、ワインを飲むことで高められた抑制されていない官能の魅力を、画面前景のカップルで示したものであろう。 更に、女の直立した姿勢は自己抑制を思わせ、見る人に顔を向けた姿勢は男との心理的な分離独立を思わせる。 つまり、女よりむしろ男が誘惑されているのである。
フェルメールは「#09/午乳を注ぐ女」 (1658-60)で低層階級の女の強さとバイタリテイーを太い筆さばきで描く一方、洗練された上流階級を描いたこの絵では、サテンのソフトな輝きや銀皿のスムースなキラメキを描く為に、その筆さばきを使い分けており、このフェルメールの画家としての能力は最も特筆すべきことの一つである。