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映画鑑賞

昔の名画から最近上映の映画まで、国内外を問わず幅広く楽しんでいます。別世界へ連れて行ってくれる作品が好み(本棚6)。

「K-20 怪人二十面相」

2008-12-28 21:52:54 | 映画館にて
2008年、日本映画。
監督:佐藤嗣麻子、原作:北村想(原案:江戸川乱歩)、
出演:金城武、松たか子、中村トオル、鹿賀丈史他.

「怪人二十面相」は大正~昭和に活躍した推理作家、江戸川乱歩(1894~1965)が創作したキャラクターです.
原作の北村さんはファンの一人で、乱歩作品へのオマージュとして書いた小説が原作となっています.
私も子どもの頃、江戸川乱歩の小説を読んだ記憶がありますが、リアルタイムで経験したのは私より大分前の世代ですね.
江戸川乱歩がアメリカの文豪「エドガー・アラン・ポー」のもじりだと知っているヒトは現在は少ないでしょう.

二十面相はふだんは何をしてどんな生活をしているのか、という切り口のストーリーはさわやかで面白かった.
「スパイダーマン」張りのアクション・特撮は見応えありました.
最後に大どんでん返しがあります.映画を観ていないヒトにはちょっと教えづらい(笑).

欲を言えば、先代二十面相のバックグラウンドも掘り下げれば、より深い映画になったのではないかと感じました.
彼が泥棒をするに至った狂おしい過去を描いて「悪人は社会が造る」というメッセージになれば、さわやかさだけではなく評価の高い作品になったのではないかと.
どうも日本の映画は水戸黄門を代表とする勧善懲悪のストーリーから離れられない様ですね.

★ 5点満点では3.5点かな.


「蟻の兵隊」

2008-12-08 23:34:54 | 手持ちの映画ビデオ・DVD
2005年、日本映画。
監督:池谷薫
世界で初めて「日本軍山西省残留問題」に正面から取り組んだ長編ドキュメンタリー(ケースのキャッチコピーより)

捨て駒のように扱われた兵隊たちが己の存在意義を検証し「戦争とはいかに不条理なものか」を表現した映画です。
主人公である奥村和一さんは第二次世界大戦終了後も軍の命令で中国に残留し、結果として中国の内戦の片棒を担ぐ羽目になりました.しかし、終戦後の軍隊派遣はポツダム宣言によりあってはならないことであり、日本政府はこれを認めるわけにはいかず、「兵隊が勝手に残ってやったこと」として戦争補償を受けられない羽目になりました。
つまり残留した兵士たちは日本軍に騙されたことになります.
この事実を80歳を超える奥村さんが執念を持って追求する内容です.

「自分たちの存在意義は何だったのか」という疑問の答えを求めて突き進む奥村さんの言動にはブレがありません.
話が進むに従ってその口調が明快になっていくのが見て取れます.
彼自信、初等兵の訓練として罪なき中国人を銃剣で刺し殺したことも告白し、その現場を中国に訪ねています.
日本兵を責める中国の老人たちが多い中で、「したくてやったことではないのはわかっている.みな戦争という異常事態が人間性を失わせてやらせたこと」という中国人もいたことが印象的であり、このドキュメンタリーの本質なのだと感じました.

結局「日本軍山西省残留問題」を訴える裁判は最高裁への上告を棄却され、闇の中へ葬り去られました.
証拠文書を提出しても完全に無視.
これが日本という国家の正体です.
戦争犯罪を十分懺悔することなく戦後復興に突き進んだ日本をアジア諸国が信頼しない現況も頷けます.

現在の日本を動かしている官僚達.
政権が変わっても官僚は変わらない、そして裏では彼らは責任を取らずに済むシステムをしっかり作っている・・・アメリカと根本的に異なる日本政治の特徴です.
「日本の官僚は自浄作用を有さず一度動き出したら修正が利かない」とアレックス・カーもその著書「犬と鬼」の中で指摘しています.
日本の危険な構造は現存しているのです.
恐ろしい.

「地下鉄(メトロ)に乗って」

2008-12-07 19:36:37 | 手持ちの映画ビデオ・DVD
2007年、日本映画。
原作:浅田次郎、監督:篠原哲雄、
出演:堤真一、岡本綾、常磐貴子、大沢たかお他

地下鉄に乗って過去と現在を行き来し、反発していた親の生き様を目の当たりにして自分を見つめ直す・・・気がつくと親と同じような生き方をしている自分に気づき、ふと立ち止まる・・・そんなストーリーです.
戦中戦後の混乱時代や闇市の賑わいなど、現代の若者が知らない「昭和」も描かれています.
意外な結末はちょっと作り過ぎという感が拭えず、違和感を覚えましたが.

タイムスリップものですが、SF的要素がメインではなく、登場人物の懐古シーンをタイムスリップという手法を用いて表現した作品と言えます.
元SF少年であった私から見ると、SFモノとしてのストーリー作りは今ひとつ.
でも、世代間ギャップが大きい戦中・戦後世代を繋ぐ仕掛けとしてのタイムスリップ使用は成功していると思います.

それより私が唸ったのは「戦争」がもたらした社会の歪み、家族の歪みが描かれていることです.
青春も将来も戦争に奪われた世代は、自分の子ども達、つまり次の世代に夢を託しました.
しかし、児童精神医学が指摘するように、親の人生を子に背負わせることは子どもにとって迷惑以外の何者でもありません.
そうやって押しつぶされた子ども達がたくさん造り出されたのが戦後第二世代だと思います.
子どもは自立することを妨げられ、引きこもりやニート(これは第三世代かな?)などが氾濫しています.

戦争はこのように数世代に渡って日本人を蝕んでいるのだと感じます.
私自身も親の期待に応えるべく窮屈な青春時代を過ごしました.
親の描く幸せと、子どもの幸せは別なのです.
今でもヒトに期待されることが嫌いです.
「ヒトに期待するなら自分で努力すればいい」とずっと考えてきました.

しかし、最近少し考えが変わってきました.
戦後を生き抜いた彼らは、現代の我々の生活からは想像できない貧困さを味わったことでしょう.
親を責めても仕方がない、彼らも被害者なのですから.
親の夢を子どもに託す・・・これも時代背景を考えると仕方ないことなのかもしれません.
40代半ばを迎えてようやくそう思えるようになってきました.

戦争の傷跡は数世代に渡って希釈・解決すべきものなのでしょう.