映画鑑賞

昔の名画から最近上映の映画まで、国内外を問わず幅広く楽しんでいます。別世界へ連れて行ってくれる作品が好み(本棚6)。

「蝉しぐれ」

2012-06-28 23:52:14 | 手持ちの映画ビデオ・DVD
2005年、日本映画

監督: 黒土三男
原作:藤沢周平
出演: 市川染五郎(七代目), 木村佳乃, 緒形拳, 原田美枝子, 今田耕司


~Amazonの紹介文~
 江戸時代末期、東北の小藩・海坂(うなさか)藩。下級武士の父・助左衛門と母・登世と暮らす15歳の牧文四郎は、仲の良い友人と共に日々、剣術と学問に励んでいた。隣家の娘・ふくに文四郎は淡い恋心を抱いていたが、ふくもまた文四郎を慕っていた。そんなある日、藩内の争いに巻き込まれた父は謀反の罪に問われ、切腹を言い渡される・・・。市井の人々の強さと優しさを描き続けた作家・藤沢周平の最高傑作を、鬼才・黒土三男が15年の歳月をかけて映画化。青春、友情、父から子へ継承される人としての生き方、そしてひとりの人を思い続ける愛の物語が、美しい日本の風景の中で描かれる。


 時代の流れに翻弄される一組の男女を中心に描かれる庶民目線の人間模様。
 原作は藤沢周平の小説であり、ストーリーがしっかりしているので安心して見ることができました。

 仲の良い幼なじみの縁を引き離したのは藩のお家騒動でした。
 時が流れ、人生の荒波にもまれ、以前とは異なる社会的立場で二人は再開を果たします。
 今はお互いに家族を持つ身。
 想いが募ったヒロインの口から「あなたの子が私の子、私の子があなたの子、という道はなかったのでしょうか」と言葉が漏れます。
 
 胸の奥が疼きました。
 同じようなセリフを私も言った記憶があります。
 青春時代を共に過ごした二人が高校卒業後、進学と就職で縁が切れ、その15年後に再開したときはお互いに家族がいました。
 時代は異なっても、封建制度の不自由さはなくなっても、人間の生き様はあまり変わらないものなのですね。
 
 日本の田舎の風景を慈しむように映像化しているところも魅力的です。
 田んぼ・神社・お寺・・・原風景を凝縮しているようで心が和みました。

★ 5点満点で4.5点。

「私を離さないで」

2012-06-17 18:47:36 | TV放映
2010年、イギリス・アメリカ
監督 マーク・ロマネク
脚本 アレックス・ガーランド
原作 カズオ・イシグロ
出演:キャリー・マリガン(Kathy)、アンドリュー・ガーフィールド(Tommy)、キーラ・ナイトレイ(Ruth)、シャーロット・ランプリング(Miss Emily)

~Goo映画の解説文~
イギリス最高の文学賞・ブッカー賞受賞作家、カズオ・イシグロの同名小説を基に、同じ寄宿学校で育った幼なじみの3人の、瑞々しくもやるせない恋と友情の物語。数々の傑作ミュージックビデオを手掛けてきたマーク・ロマネク監督が、詩情豊かで、かつドラマチックな作品に仕上げた。『17歳の肖像』、『つぐない』でそれぞれオスカーにノミネートされたキャリー・マリガンとキーラ・ナイトレイ、『ソーシャル・ネットワーク』でゴールデン・グローブ賞ノミネートのアンドリュー・ガーフィールドといった若手演技派の共演が話題。痛ましくも美しいこのラブストーリーは、倫理に関する問題やSFの枠を超え、生と死、そして愛をめぐる普遍的な広がりさえ感じる。

寄宿学校「ヘールシャム」で学ぶキャシー、ルース、トミーの3人は、小さい頃からずっと一緒に暮らしている。外界と隔絶したこの学校では、保護官と呼ばれる先生の元で子供たちは絵や詩の創作をしていた。18歳になり寄宿学校を出て農場のコテージで共同生活を始めた彼ら。やがてルースとトミーが恋を育むようになり、キャシーは孤立していく。その後、コテージを出て離れ離れになった3人は、逃れられようのない運命に直面する事に…。


WOWWOW放映の映画を録画して視聴しました。
カズオ・イシグロ氏は「日の名残り」という映画の原作で知っていました。
イギリスを舞台に、日本人の細かな感性と観察眼が生かされた渋い傑作です。

この映画は全編、暗い曇り空の下、現実なのか夢なのかわからないような空気感の中で進行します。
ソラリス」や「華氏451度」で感じたような少し息苦しささえ感じる不思議な雰囲気。

一見、寄宿学校に通っていた3人の男女の三角関係のストーリー。
しかしそこは閉ざされた世界であり、その底辺には生体実験とも云うべき事実が隠されています。そのために単純な恋愛映画にとどまらず、深い悲しみが通奏低音のようにつきまといます。
ネタバレしてしまうので書けないのがもどかしい・・・キーワードは「クローン」「臓器移植」など。

教育・洗脳された子ども達は、多少の抵抗を感じながらも「他人のために命を捧げる」という運命を受け入れていくのです。
それが正しいことなのか、間違いなのかは、この映画を見た私たちに判断を委ねると云わんばかりのエンディングは果てしなく深い余韻を残しました。

★ 5点満点で4.5点

カズオ・イシグロ氏のインタビュー記事
インタビューの中でイシグロ氏は「予定された死を乗り越えるための愛を描きたかった」とコメントされています。

「ウィスキー」

2012-06-12 05:55:47 | 手持ちの映画ビデオ・DVD
2004年、ウルグアイ、アルゼンチン、ドイツ、スペイン
出演: (ハコボ)アンドレス・パソス, (マルタ)ミレージャ・パスクアル, (エルマン)ホルヘ・ボラーニ
監督: ファン・パブロ・レベージャ, パブロ・ストール


Amazonの解説文
ウルグアイの町、父親から譲り受けた小さな靴下工場を細々と経営するハコボ 。毎朝決まった時間に工場へ行き、シャッターを開ける。その工場で働く控えめでまじめな中年女性マルタ。長年仕事をしていても、必要以上の会話を交わすことのなかった二人。そこに1年前に亡くなったハコボの母親の墓石建立式のため、ブラジルで同じく靴下工場を営む彼の弟・エルマンが来ることになる。ハコボは弟が滞在する間、マルタに夫婦のふりをしてほしいと頼む。意外にもその申し出をすんなり受け入れるマルタ。そして偽装夫婦の準備をはじめる二人。結婚指輪をはめ、一緒に写真を撮りに行く。カメラの前に立ち、二人はぎこちなく笑う。「ウィスキー」。そしてエルマンがウルグアイにやって来た。ハコボ、マルタ、エルマン、嘘でつながった彼らはどんな物語を繰り広げていくのか・・・。
“ウィスキー”は幸せの合言葉。ひとつの嘘にふたつの作り笑い―みっつの平凡な人生がほんの少し変わり始める・・・。


 まず、ウルグアイ映画というのが珍しい。
 盛り上がりがあるような無いような、大人しい映画です。

 淡々と日常生活を送る主人公たち。風貌からしてアラフィフでしょうか。
 飽きることはないのかなあと思うほど毎日同じことの繰り返しが映し出されますが、実は主人公のハコボはそれなりに満足している様子。
 弟のエルマンが訪ねてくることになり、その平凡な日常にわずかな変化がもたらされます。
 それを迷惑がる一方で、歓迎もしているハコボの微妙な心を描き出しています。
 これからどう展開するんだろう、という余韻を残すエンディングは秀逸です。

 気になったシーン。
 その日の仕事が終わって靴下工場から帰る際に、従業員はバッグの中を管理者(マルタ)に見せる場面が複数回登場します・・・商品を持ち帰らないかチェックしているのですね。

★ 5点満点で3点。

「落語物語」

2012-06-03 10:58:54 | TV放映
2011年、日本映画。
監督: 林家しん平
出演: ピエール瀧, 田畑智子, 柳家わさび, 柳家権太楼, 春風亭小朝

Amazonの紹介文より
 近年、落語家を描いた数多くの作品が作られる中、いよいよ落語家自らメガホンを取った正真正銘の落語映画が完成した。監督は昭和の爆笑王・初代林家三平門下の林家しん平。史上初となる(社)落語協会の全面バックアップが実現し、更には東京に残る4軒の寄席(上野鈴本演芸場、新宿末廣亭、浅草演芸ホール、池袋演芸場)の協力により、楽屋も含め全寄席での撮影が行われた。 着物、小道具、お囃子に至るまですべてが本物であり、寄席の高座や楽屋風景、芸人同士のやりとりや独特な師弟関係なども忠実に再現、高座着への着替えシーンなど所作の美しさも必見だ。 また、寄席の大看板・柳家権太楼をはじめ、プラチナチケット必須の柳家喬太郎、春風亭小朝、若手の筆頭・隅田川馬石など、総勢40名を超える現役人気落語家が総出演。 落語と落語家への敬愛と、『男はつらいよ』“寅さん”シリーズを始めとする人情喜劇映画へのリスペクトをこめた監督の眼差しが、落語をより身近なものにしてくれるだろう。


 WOWWOWで放映したものを録画して視聴しました。
 何というか、リラックスできるいい映画です。
 穏やかな日々の暮らしの中に発生するトラブルに振り回されつつ、助けあい迷惑を掛け合いながら生活している人々・・・その中に日本人の泣き笑いの原点を垣間見たような気がします。

 落語界のしきたりや上下関係を紹介しているところも興味深い。
 建設途中の東京スカイツリーが登場するところも、時代を感じさせる心憎い演出ですね。
 ただ、途中途中に出てくる川柳が今ひとつだったのがオチでしょうか(笑)。

 観た後、ちょうど湯豆腐を食べた後のように、ほんのり心が温まりました。

★ 5点満点で4点。