映画鑑賞

昔の名画から最近上映の映画まで、国内外を問わず幅広く楽しんでいます。別世界へ連れて行ってくれる作品が好み(本棚6)。

「ダンサー・イン・ザ・ダーク」

2010-04-24 20:27:51 | 手持ちの映画ビデオ・DVD
2000年、デンマーク映画。
監督:ラース・フォン・トリアー
主演:ビョーク

~Amazonの解説文~
「ビョーク扮するセルマは、チェコからの移民。プレス工場で働き、唯一の楽しみはミュージカルという空想の世界を創りあげること。遺伝性疾患のため衰えていく視力と闘いながら、同じ病に侵された息子の手術費用を稼ぐため身を粉にして働く毎日。そのセルマにあまりに残酷な運命が待ち受けていた… 」(解説文はここまで)

 ビョークはアイスランド出身の世界的に有名な歌手。その風貌はなんとなく日本人に似ていて親近感が持てます。
 先日、ビョークの歌手としてのライブをBS放送で見ました。内省的で地味な歌声・・・私には今ひとつピンと来ませんでした。
 紹介ルビに映画に主演しカンヌ映画祭でパルムドール&主演女優賞を獲得したと出ていたので、昔中古で買ったビデオを探し出して観てみました。

「!」

 ビョークに対する認識が180°変わりました。
 彼女は「天使」です。
 「地味な歌声」が「魂の声」に聞こえてきました。
 映画の中でミュージカルという夢想に耽る彼女の表情は、何とも云えぬ幸福感に満ちあふれています。
 演技であんな表情が造れるものなのだろうか・・・歌と共に彼女自身の中から沸いてくる表現をカメラが捉えたとしか云いようがありません。

(これ以降はストーリーに触れるのでまだ観ていない人は読まないでくださいね)

 この映画は、見終えて「感動した~」という類の生やさしいものではありません。
 答えのない難問を視聴者に投げかけたまま終わるのです。

 それは「命の重さの比較」。

 セルマは遺伝性の目の病気を抱え、自分が失明する前に同じ病気を抱えた息子の手術代を捻出すべく懸命に働きます。
 チェコからアメリカに移住したのも息子の手術のため。
 理解ある仲間に囲まれて慎ましいながらも幸せな日々が続きましたが、ふとしたきっかけで貯金を隣人に盗まれ、取り戻すために殺人を犯さざるを得ない状況に追い込まれます。

 すべて息子のため。

 裁判では当然のように死刑判決が下されます(アメリカ民主主義と東欧共産主義を対比させるちょっと偏った描き方でした)。
 しかし「息子のため」という真の理由は伏せたまま。

 仲間が真実を知り、新しい弁護士を雇って裁判のやり直しを画策します。
 セルマは一旦は喜びますが、その費用が息子の目の手術代の流用と知り拒否。

 「盲目の母親の命なんか無駄、息子の手術の方が大切」と訴えるセルマ。
 「息子に必要なのは母親よ」と言い争いをする友人(なんと大女優カトリーヌ・ド・ヌーブ!)。

 あなたなら、どちらの考えを支持しますか?
 私はセルマ。
 ヒトは「次世代のために何ができるだろう」と自問自答しながら生きる存在だと思うから。

 ある友人が「目の病気が遺伝するとわかっていながらなぜ生んだんだ?」と問うたとき、
 「赤ちゃんをこの腕に抱きたかったの」とのセルマの答えが強く印象に残りました。

 そして高まる感情の交雑の中、映画はセルマの処刑シーンで終わります。


 5点満点で・・・点数がつけられません。
 すごい映画だけど、つらくてもう一度見る気になれないのです。


☆ プレス工場の主任のちょっと影の薄いハンサムな男・・・はて、どこかで見たことがあるなあ、と思ったらジャン・マルク・バールでした。リュック・ベッソンの傑作「グランブルー」の主役ですね。