2009年、日本映画。
監督・脚本:瀬々敬久、出演:妻夫木聡、檀れい他
新型インフルエンザが何時登場するか話題になる昨今、タイムリーな内容です。
謎のウイルス感染が日本を襲い、たくさんの感染者・死者を出して社会機能を麻痺させるストーリー。
エンディングにも触れますので、まだ観ていない方は読まないように(笑)。
最重症ウイルス感染の末期は多臓器不全とDIC(出血が止まらなくなる状態)です。
患者さんが次々と亡くなっていく映像は、約10年前の私自身のインフルエンザ脳症の診療経験を思い出さずにはいられませんでした。
けいれんが止まらない、意識が戻らない子どもに対して集中治療を試みるも病状は悪化の一途を辿り、半日後には体の穴という穴から血が止まらなくなりやがて死に至る・・・現代医療の無力さを痛感した苦い経験です。
この映画では新型インフルエンザが疑われたものの、実はアジア起源の新興ウイルスが原因だったというひねりの利いたストーリーとなっています。鳥インフルエンザが発生した養鶏業者は風評被害で自殺に追い込まれ、国を挙げてのパニックの異常さも描かれています。
この映画を観た後、マスクと備蓄食糧を買いに走るヒトが増えそうです。
映画の中で描かれているテーマは・・・「病気が家族や大切な人を奪っていく現実」と私は受け取りました(一般的には「リンゴの木を植える」ことになると思いますが)。
私も医師の端くれなので患者さんのつらさを日々受け止めながら診療しているつもりですが、所詮接するのはほんの一時です。毎日一緒にいる家族のつらさ、ましてや失うことの大きさを知る由もありません。
映画で患者さんが亡くなるシーンがある度に涙が止まりませんでした。
ハッピーエンドでは終わらず、ヒロインの女性医師が不幸な転帰をとることもある意味良かったと思います。
未知のウイルスに対して現代医学は対症療法しかできない現実を、みな直視する勇気が必要です。
どうも日本人は治療の甲斐無く結果が悪かったときに病気ではなく医師を責める傾向がありますから。
以上、単なるパニック映画ではなくいろんなメッセージが込められていると感じました。
脇役陣にも味がある俳優さんが揃っています。
男前の藤竜也さんが微生物学者(獣医師?)として登場します。私にとっては「スローなブギにしてくれ」のイメージが強い俳優さんです。年を取りました。仙人のような枯れた演技、いいですねえ。
「帝都大戦」の嶋田久作さんもアウトサイダー医師として登場。懐かしい顔です。
つっこみ所もなきにしもあらず。
・設定がダスティン・ホフマン主演のエボラ出血熱を想定して描いた「アウトブレイク」に似ています。最後に切り札として出てくる「回復患者から採取した抗血清療法」もその中で描かれています。
※ 少し解説を。
他人の血液中の抗体を使用する治療法は現在も無いわけではありません。ヒト免疫グロブリン(あるいはガンマ・グロブリン)療法は免疫疾患や重症感染症に従来から使われている方法です。
・WHOメディカルオフィサーであるヒロインの経歴が実在の人物である進藤奈邦子さん(NHKのプロジェクトXで取り上げられました)と似ています。モデルにしたのかな。
まあ、許せる範囲ですけど。
私の採点は5点満点で4.5点。
良い映画でした。
最後にひと言。
日本はワクチンを軽視し過ぎています。
インフルエンザに関しては、効果の低い現行の不活化インフルエンザワクチンを放置して知らんぷりするのではなく、アメリカで認可され90%以上の効果が確認されている経鼻生ワクチンを導入する努力をすべきだと思います。
新型インフルエンザ対策と騒がしいですが、現行のインフルエンザでさえも全く制圧できていない現状を考えると、実際に発生したときパニックになるのが目に見えています。
もうひと言。
今流行しているインフルエンザ(A香港型、Aソ連型など)も、初めて登場したときは「新型インフルエンザ」と呼ばれました。
重症化率、死亡率も高かった。
でも変異を繰り返し、数年でおとなしいウイルスに成り下がりました。
これが歴史上繰り返されているわけです。
何故か?
ウイルスは自分では繁殖できません。
生物の細胞に入り込んでコピーを造ってもらい生き延びるのです。
ですから、その「生物」がいなくなったら自分も消えてしまいます。
そのような強毒ウイルスは淘汰され、生物と「共存」可能な、つまり生かさず殺さというある意味「大人」のウイルスが生き残るわけです。
いみじくも映画の中で学者役の藤竜也さんが言った通りです。
淘汰されてウイルスと「共存」できた遺伝子が生き残り、それが私でありあなたであります。
ヒトの遺伝子の95%はウイルスの残骸である、と本で読んだことがあります。
おしまい。
監督・脚本:瀬々敬久、出演:妻夫木聡、檀れい他
新型インフルエンザが何時登場するか話題になる昨今、タイムリーな内容です。
謎のウイルス感染が日本を襲い、たくさんの感染者・死者を出して社会機能を麻痺させるストーリー。
エンディングにも触れますので、まだ観ていない方は読まないように(笑)。
最重症ウイルス感染の末期は多臓器不全とDIC(出血が止まらなくなる状態)です。
患者さんが次々と亡くなっていく映像は、約10年前の私自身のインフルエンザ脳症の診療経験を思い出さずにはいられませんでした。
けいれんが止まらない、意識が戻らない子どもに対して集中治療を試みるも病状は悪化の一途を辿り、半日後には体の穴という穴から血が止まらなくなりやがて死に至る・・・現代医療の無力さを痛感した苦い経験です。
この映画では新型インフルエンザが疑われたものの、実はアジア起源の新興ウイルスが原因だったというひねりの利いたストーリーとなっています。鳥インフルエンザが発生した養鶏業者は風評被害で自殺に追い込まれ、国を挙げてのパニックの異常さも描かれています。
この映画を観た後、マスクと備蓄食糧を買いに走るヒトが増えそうです。
映画の中で描かれているテーマは・・・「病気が家族や大切な人を奪っていく現実」と私は受け取りました(一般的には「リンゴの木を植える」ことになると思いますが)。
私も医師の端くれなので患者さんのつらさを日々受け止めながら診療しているつもりですが、所詮接するのはほんの一時です。毎日一緒にいる家族のつらさ、ましてや失うことの大きさを知る由もありません。
映画で患者さんが亡くなるシーンがある度に涙が止まりませんでした。
ハッピーエンドでは終わらず、ヒロインの女性医師が不幸な転帰をとることもある意味良かったと思います。
未知のウイルスに対して現代医学は対症療法しかできない現実を、みな直視する勇気が必要です。
どうも日本人は治療の甲斐無く結果が悪かったときに病気ではなく医師を責める傾向がありますから。
以上、単なるパニック映画ではなくいろんなメッセージが込められていると感じました。
脇役陣にも味がある俳優さんが揃っています。
男前の藤竜也さんが微生物学者(獣医師?)として登場します。私にとっては「スローなブギにしてくれ」のイメージが強い俳優さんです。年を取りました。仙人のような枯れた演技、いいですねえ。
「帝都大戦」の嶋田久作さんもアウトサイダー医師として登場。懐かしい顔です。
つっこみ所もなきにしもあらず。
・設定がダスティン・ホフマン主演のエボラ出血熱を想定して描いた「アウトブレイク」に似ています。最後に切り札として出てくる「回復患者から採取した抗血清療法」もその中で描かれています。
※ 少し解説を。
他人の血液中の抗体を使用する治療法は現在も無いわけではありません。ヒト免疫グロブリン(あるいはガンマ・グロブリン)療法は免疫疾患や重症感染症に従来から使われている方法です。
・WHOメディカルオフィサーであるヒロインの経歴が実在の人物である進藤奈邦子さん(NHKのプロジェクトXで取り上げられました)と似ています。モデルにしたのかな。
まあ、許せる範囲ですけど。
私の採点は5点満点で4.5点。
良い映画でした。
最後にひと言。
日本はワクチンを軽視し過ぎています。
インフルエンザに関しては、効果の低い現行の不活化インフルエンザワクチンを放置して知らんぷりするのではなく、アメリカで認可され90%以上の効果が確認されている経鼻生ワクチンを導入する努力をすべきだと思います。
新型インフルエンザ対策と騒がしいですが、現行のインフルエンザでさえも全く制圧できていない現状を考えると、実際に発生したときパニックになるのが目に見えています。
もうひと言。
今流行しているインフルエンザ(A香港型、Aソ連型など)も、初めて登場したときは「新型インフルエンザ」と呼ばれました。
重症化率、死亡率も高かった。
でも変異を繰り返し、数年でおとなしいウイルスに成り下がりました。
これが歴史上繰り返されているわけです。
何故か?
ウイルスは自分では繁殖できません。
生物の細胞に入り込んでコピーを造ってもらい生き延びるのです。
ですから、その「生物」がいなくなったら自分も消えてしまいます。
そのような強毒ウイルスは淘汰され、生物と「共存」可能な、つまり生かさず殺さというある意味「大人」のウイルスが生き残るわけです。
いみじくも映画の中で学者役の藤竜也さんが言った通りです。
淘汰されてウイルスと「共存」できた遺伝子が生き残り、それが私でありあなたであります。
ヒトの遺伝子の95%はウイルスの残骸である、と本で読んだことがあります。
おしまい。