1992年、日本映画。
監督:新藤兼人、出演:津川雅彦、黒田ユキ、音羽信子、杉村春子、宮崎淑子、佐藤慶、八神康子、他。
原作:永井荷風著「墨東奇譚(ぼくとうきだん)」、1937年(昭和12年)発表。
~Amazonの紹介文より~
「 新藤兼人監督が、永井荷風の同名小説に同じ荷風の「断腸亭日乗」を盛り込む形で映画化した作品。洋行帰りの小説家・荷風(津川雅彦)が玉ノ井の遊女・お雪(墨田ユキ)に恋をし、結婚の約束をするが…。
終始静かなタッチで語られる、年齢も境遇も違う男女の恋。墨田ユキ扮するチャーミングな遊女もさることながら、一代の放蕩児という役柄をギラギラせず、すべてを受け流すような自然体で演じた津川雅彦の荷風が爽快な後味を残す。単に男女のロマンスを描いた作品ではなく、戦争へと突入して行く当時の日本の世相や風俗を、ニュース・フィルムを交えて表現しており、そうした描写まで淡々としているのが本作の個性。」
しばらく前に「ブラ・タモリ」という番組がありました。ひそかな「坂オタク」であるタモリが、東京の在りし日の面影を求めて散策する内容です。その頃から「東京散歩」ブームが始まった印象があります。他にも散歩番組が雨後の竹の子の様に発生し、書店へ行くとその類のコーナーまで設置されている有様。
さて、この「東京散歩」を突き詰めるとある人物に辿り着きます。
その人こそ、この映画の原作者であり主人公でもある「小説家永井荷風」氏なのです。
小説「墨東奇譚」は永井荷風の半自伝小説ですが、この映画は小説の主人公を荷風自身に置き換えて再構成しています。
その内容は、悪く云えば「エロ文士の女性遍歴」、よく云えば「初老小説家の創作力と愛欲」という代物。
主人公の荷風は二度の結婚に失敗し、晩年は独身で通しました。でもストイックさとは無縁の女性遍歴の持ち主で、芸者との関係など、つねに「肉欲」という言葉がまとわりつく好色家。
映画の中で「創作意欲と肉欲は比例する」「私に快楽を与えない女性は存在価値がない」などと、現在発言すると非難ごうごうであろうセリフもありました。
しかし津川雅彦演ずる荷風は脂ぎった中年男ではなく、白いスリーピース・スーツを着こなす紳士であり、節度を守って「女遊び」に興じる、よき時代の風流人として描かれています。娼婦達を仕切る「お母さん」(新藤監督の奥さんの)と親しくなり話が弾む場面など、見所の一つです。
ヒロインの娼婦「お雪」を演じる黒田ユキという女優を私は知りませんでしたが、スレンダーな美しい肢体の持ち主ですね。お雪は不思議な女性です。娼婦にありがちな影を感じさせず、素直で明るい性格。そこに荷風はぞっこんになりました。
やはり男女は自然に惹かれあうもの・・・。
映画のクライマックスでお雪が荷風に結婚を迫り、しかし自分の高齢(58歳との設定)を考えると喜ばしいけど踏み切れない荷風の微妙な胸の内の描き方が見事でした。そのうち世は戦争に突入し、戦渦に巻き込まれ、終戦後気がつくと荷風はヨボヨボ歩きの老人、お雪は米国兵相手に媚びを売る女性(パン助)に変身していました。
最後のシーンは、一人寂しく血を吐いて死んでゆく荷風。
遺言には「墓は娼婦の駆け込み寺の無縁仏の隙間に小さく建ててくれ」という文言がありました。
本当に女性が好きだったのですねえ・・・放蕩を尽くした文士らしい最期です。
★ 5点満点で4.5点。
肉体のピークを過ぎ人生の秋を感じ始めた年代でなければ、良さのわからない映画だと思います。
監督:新藤兼人、出演:津川雅彦、黒田ユキ、音羽信子、杉村春子、宮崎淑子、佐藤慶、八神康子、他。
原作:永井荷風著「墨東奇譚(ぼくとうきだん)」、1937年(昭和12年)発表。
~Amazonの紹介文より~
「 新藤兼人監督が、永井荷風の同名小説に同じ荷風の「断腸亭日乗」を盛り込む形で映画化した作品。洋行帰りの小説家・荷風(津川雅彦)が玉ノ井の遊女・お雪(墨田ユキ)に恋をし、結婚の約束をするが…。
終始静かなタッチで語られる、年齢も境遇も違う男女の恋。墨田ユキ扮するチャーミングな遊女もさることながら、一代の放蕩児という役柄をギラギラせず、すべてを受け流すような自然体で演じた津川雅彦の荷風が爽快な後味を残す。単に男女のロマンスを描いた作品ではなく、戦争へと突入して行く当時の日本の世相や風俗を、ニュース・フィルムを交えて表現しており、そうした描写まで淡々としているのが本作の個性。」
しばらく前に「ブラ・タモリ」という番組がありました。ひそかな「坂オタク」であるタモリが、東京の在りし日の面影を求めて散策する内容です。その頃から「東京散歩」ブームが始まった印象があります。他にも散歩番組が雨後の竹の子の様に発生し、書店へ行くとその類のコーナーまで設置されている有様。
さて、この「東京散歩」を突き詰めるとある人物に辿り着きます。
その人こそ、この映画の原作者であり主人公でもある「小説家永井荷風」氏なのです。
小説「墨東奇譚」は永井荷風の半自伝小説ですが、この映画は小説の主人公を荷風自身に置き換えて再構成しています。
その内容は、悪く云えば「エロ文士の女性遍歴」、よく云えば「初老小説家の創作力と愛欲」という代物。
主人公の荷風は二度の結婚に失敗し、晩年は独身で通しました。でもストイックさとは無縁の女性遍歴の持ち主で、芸者との関係など、つねに「肉欲」という言葉がまとわりつく好色家。
映画の中で「創作意欲と肉欲は比例する」「私に快楽を与えない女性は存在価値がない」などと、現在発言すると非難ごうごうであろうセリフもありました。
しかし津川雅彦演ずる荷風は脂ぎった中年男ではなく、白いスリーピース・スーツを着こなす紳士であり、節度を守って「女遊び」に興じる、よき時代の風流人として描かれています。娼婦達を仕切る「お母さん」(新藤監督の奥さんの)と親しくなり話が弾む場面など、見所の一つです。
ヒロインの娼婦「お雪」を演じる黒田ユキという女優を私は知りませんでしたが、スレンダーな美しい肢体の持ち主ですね。お雪は不思議な女性です。娼婦にありがちな影を感じさせず、素直で明るい性格。そこに荷風はぞっこんになりました。
やはり男女は自然に惹かれあうもの・・・。
映画のクライマックスでお雪が荷風に結婚を迫り、しかし自分の高齢(58歳との設定)を考えると喜ばしいけど踏み切れない荷風の微妙な胸の内の描き方が見事でした。そのうち世は戦争に突入し、戦渦に巻き込まれ、終戦後気がつくと荷風はヨボヨボ歩きの老人、お雪は米国兵相手に媚びを売る女性(パン助)に変身していました。
最後のシーンは、一人寂しく血を吐いて死んでゆく荷風。
遺言には「墓は娼婦の駆け込み寺の無縁仏の隙間に小さく建ててくれ」という文言がありました。
本当に女性が好きだったのですねえ・・・放蕩を尽くした文士らしい最期です。
★ 5点満点で4.5点。
肉体のピークを過ぎ人生の秋を感じ始めた年代でなければ、良さのわからない映画だと思います。