先日心ない人によって巣を撤去されてしまったブトの巣造りから撤去までの経過をお話ししたいと思う。このブトは以前にもお話ししたのだが、数年前に「雛を叩き殺される」「雛を捕獲される」などと人による被害をたくさん受けている。きっと心に奥深く傷が残っているに違いない。数年間の巣撤去の廃止に伴い、攻撃性は穏やかになりつつあった。昨年は巣を途中まで造り、理由は分らないのだがそのまま放棄してしまい雛の誕生はなかった。今年は巣造りから順調に進み雛の元気な声が巣から聞こえるのが楽しみな毎日だった。そんな彼らに突然訪れた悲劇・・・・・彼らも私も想像すらしていなかった。
彼らは不思議と私を見つけると飛んで来て近くの枝に止まる。特に何をする訳でもなくただ止まっているのである。私はいつも「おはよう!今日も仲良くて良いね!!」などと話しかけていた。
4月のある日彼らは巣造りを開始した。最初は隣のボソの造巣中の巣を乗っ取ったのだが、ブトの巣にしては位置が低すぎたのだろう。結局止めて定番の木へ作り始めた。枝を集めては番で話し合いでもしているかのように子声で囁きあっていた。次から次へとハンガーや枝を集め、最後に一番大切な部分である「産座」造りを始めた。産座の為に集めた巣材は「犬の毛」「コケ」「シュロ縄」などだった。番の性格の違いが一番分るのはこの産座集めの時である。このブトの場合♀の方が意外と大雑把で、♂の方が神経がとても細やかだった。シュロ縄などを細かくする際も♂は糸のように細かくしていた。その光景を見て♀は「ねぇ~まだ?もう行こうよ~」と言わんばかりに巣材をくわえて♂の方を見ていた。私はこの光景を見るのが毎年楽しみだった。
そして巣が完成!!りっぱな巣である。
巣が完成して♀は抱卵に入り♂は近くのMSの屋上から見張りを開始した。時々♂と♀の鳴き交わしが聞こえていた。「お~い、何かおかしな事はないか?」「うん、大丈夫だよ!!」とでも話していたのだろうか?
♀が抱卵に入っている間、♂は食事を運ばなければいけない。ご馳走が手に入った時には急ぎ足で♀の元へ飛んで行く。そして給餌の声が聞こえる。間もなく♂は巣から飛び出して再び見張りという任務を遂行する。
雛が誕生し、親はネコの手も借りたい程忙しくなって来た。雛が小さいうちは♂が中心になり食べ物を運ぶのだが、大きくなって来ると♀も巣から出て食べ物を探しに行く。雛の旺盛な食欲を満たす為には貯食も欠かせない。
そして親の愛情がたっぷりと注がれた育雛により元気な雛が巣立った。しかしこれからが最も親にとっては神経を尖らせないといけない時期になる。雛は危険や恐さも全く解からない状態なので、親が必死になり守らなくてはいけない。親にとって一番危険な者は「人間」なのである。
雛の側に人が近寄ると威嚇を始める。この威嚇が人とのトラブルに繋がってしまうのである。カラスの親のみならず、自分の子供を守るという行為は親ならば当前であり、それを行わない方がどうにかしているのではないだろうか?当たり前の行為をしているだけなのに、人の理解不足と傲慢によりこのブトの巣は撤去される事になってしまった。
撤去の朝、最初に巣立った雛が捕食されてしまっていた。このブトは今年厄年なのかも知れない。撤去の時、親は巣立って誰もいなくなった巣だというのにかなり興奮していた。撤去業者の人に向かって猛ダッシュを始める。見ていた私は彼らの普通ではない興奮度合いに驚かされてしまった。しかし巣立った後という事もあり、想像していた程の激しい攻撃は見られなかった。
何日も掛けて汗水流しながら造った巣はほんの数分で粉々になり、産座だけが地面にそのままの形で落ちてきた。巣はすっかりなくなってしまった。
次の日、様子が気になっていたのだが雛への給餌に忙しそうで、悲しみは何処かへ飛んでいったのだろう。元気な姿を見られてなによりであった。来年はこんな悲劇が起こらないようにと願うばかりである。詳細は『情けない・・・・・』と『撤去』を読んで欲しい。