「刷り込み」という言葉を皆さんも一度は耳にした事があると思う。生き物の世界=特に水鳥の世界ではこの刷り込みが激しいと聞いている。刷り込みの意味は「生まれた動物の仔が自分と接した最初の動物を親と見なし、それに甘え、依存した行動をとること」とある。つまり孵化した時に人が側にいた場合人の事を親と思い、行動や習性を真似してしまう事になる。
公園に毎日いると本当にいろいろな人とお話しをする事になる。中には「こんな人来てもらっては迷惑だよ」と思う人もいる。何年も来ている人達は私からカラスの話をいいだけ聞かされているので、ちゃんと理解してくれている。実に有り難い事である。
いつもお孫さんを連れて来る女性がいる。この女性自身は幼少期、自然の中で育ち今でも山へ散策に行っているという人だ。それ故にカラスやクマ、昆虫との適正な付き合い方や習性を熟知している。数少ない理想的な人かも知れない。数日前この女性から大変興味深いお話を聞く事が出来た。
3世代全員で山菜採りに出掛けた時の話だった。この女性自体は山菜を採る事はしないそうである。山菜にもよるが、フキやタケノコといえばダニとの戦いでもある。当然ながら採ってきた山菜にもダニが付着している事だろう。帰りの車の中で、このダニがお孫さんの顔に付いていたらしい。この光景を見て母親がスプラッタ映画さながらの悲鳴を上げて騒いでしまったそうである。
女性は「そんなに騒ぐ事でもないでしょう、ダニなんて取ってしまえばそれで済む事。大げさ過ぎるよ」と言ってダニを取ったそうである。ここまでの話なら特に特記する事でもなく、当たり前の事のように思えてしまう。
問題はその後のお孫さんの反応だった。母親が自分の顔に付いていたダニを見て絶叫した記憶が鮮明に刷り込まさってしまったのだろう。それ以来お孫さんは昆虫を見ると悲鳴を上げるようになってしまったという。今まで、お孫さんはどんな昆虫を見ても平気だったらしい。実際私と話しをしている時も、アリを見て悲鳴を上げていた。
女性は母親に「あんたが悲鳴を上げてしまったから、この子におかしな事を刷り込んでしまったのだよ。これは一生直らないかも知れない。どうする気?」と聞いたそうである。しかし母親はそんな事は全く気にしていない様子だったらしい。
親から子への刷る込みは確かに存在する事だと思う。幼少期に親のやっている事を真似てそのまま今でも同じ事をやっている事てないだろうか?子供ならだれでも親にいう事や行動が間違っているなんて思いもしないだろう。大人になり、親の行動が間違っていたと感じる事が出来るなら良いのだろうが、間違いに気が付く事なく自分も親になり、また子供に刷り込みをしてしまう事になる。もちろん親子で考えや行動が全く違う事もあるので決め付けは出来ない。
カラスへの反応はまさにこの親からの刷り込みが大部分を占めるのではなかろうか?現実に親子の行動を見ていると実感してしま事がある。親がカラスを見て「あっ、カラスさん、何しているのかな?」と子供に問い掛けていると、その子供は「カラスさん、何しているの?」と問い掛けてている。カラスへの恐怖心は微塵にも感じられない。
逆に親がカラスを見た瞬間に子供を抱きかかえたり、その場で凍ってしまった場合はやはり子供も同じ行動をしているのである。子供はカラスに向かって「あっち行け!!」などと罵声を浴びせている。親も子供の行動に対して何の拒否反応も示す事はない。
幼少期に刷り込まれた事というのはなかなか変える事が出来ないらしい。そうなるとカラスや生き物を好きになるか、嫌いになるかはこの幼少期における親からの刷り込みが大きく影響していると思うのである。これは大変な事だ!!
画像:ハシボソガラス親子