以前から興味津々だったベンド自在の「夢のハーモニカ」XB-40がようやくやってきました。
ある日「
Pat Missin」さんのページを見ていたところ「
XB-40 is to be discontinued」との記述を見つけてしまいました。
全ての穴でブロー、ドローベンドができる夢のようなダイアトニック・ハーモニカの
XB-40。
その大きさ、値段、そして保守的なユーザも多い10Holesの世界ではあまり数がでなかったようです。
Kinya Pollard さんの
インタビューによれば。。
1980年初頭に Will Scarletさんによりプロトタイプが作成され
Rick Epping さんにより製品化されたそうです。
Will Scarletさんについて調べてみましたがハーププレイヤーとして
こちらのページが見つかりましたが"XB"の文字もありませんでした。。
なお、
Videoコーナーにある「Redfoot Boogie」はカメさんとバンプするクリップはなかなか良かったのであります。
XB-40については今は閉店してしまった「harponline」で詳しくリポートされていて多くを知る事ができたのですが、今紹介できるのは次くらいでしょうか。
「
PLANET HARMONICA」-「
Playing Chromatically The XB-40」
すぐには無くならないでしょうが、欲しいと思った時に手に入らず悔やむという事は良くある事です。
ハーモニカが好きで好きで好きでしょうがない人間が一生懸命知恵を絞って製品化した「夢のハーモニカ」を見逃せるほど大人ではありませんでしたので「近藤楽器のおっちゃん」にお願いして取り寄せてもらうことにしました。
なぜ
ツイードの印刷物なのか?このケースについては様々な意味で驚かされます(笑)
開く度にその革新性とプロパガンダが目に飛び込みます。
外圧に対しては効果をもちませんが埃や汚れを防ぐには仰々しくなくミニマムで実用的であります。
黒い樹脂製のマウスピースがついたクロマチック大の10Holesです。
Marine Bandよろしくサイドホールがあります。
低音域でのチャギング、バンプは「あぁ Hohnerの10Holesだぁ」と思わせる音色です。
大きさの比較として上からコッホ、XB-40、通常の10Holesとなります。
写真だと大して差がないかと思いますが、通常の10Holesに慣れている方には巨大に感じるかもしれません。
通常の10Holesに比べ格段に音量がでるためフルオープンにする必要はないので昔ながらの折り返しタイプです。
中央にはカバーを支える差し込み式の支柱があるのもクロマチックと共通していますね。
購入前はその大きさから手によるワウは難しいかなぁと思っていたのですが、6ホールくらいはマフリングできますし、出せる最大音量も大きい事かダイナミックスが付け易くかなり効果的にワウをかけられるのは驚きでありました。見た目や経験だけでは分からないところであります。
値段が高めの機種に付属するクロスが付きます。あとインストラクションですね。
XB-40の凄さはこの音数であります。何処を吹いても、吸っても全音ベンド(2 Step)ができるのであります!もちろん3番「吸い」は全音半です!
その秘密は。。。
吹きリードを見てみます。リードの数が倍あります。
通常吹きリードは内側に入っているためリベットは見えません。XB-40も普通に吹くと内側のリードが発音します。
では、リベットの見えているリードは何かというと、内側のリードよりも全音以上低くチューニングされたリードでベンド専用のAuxiliary(補助)リードと呼ばれるものです。
今一度ベンドについておさらいしてみます。例えばCハープで3番吸いを「吸いベンド」すると以下のように3ステップのベンドができますよね。カッコの音は出ません。
B -> Bb -> A -> Ab -> ( G )
これは、3番の穴に「吸いのB」と「吹きのG」があり、高い音から低い音の方へベンドできる事によります。一緒に同居するリードの音程差(インターバル)によってベンドで出せる音が決まります。
XB-40の場合、1番の「吹きC」に対して、より「吹きの低いA(ぐらい)」に調律されたAuxiliaryリードがあることにより通常の10Holesでは不可能な「吹きベンド」ができてしまいます。
C -> B -> Bb -> ( A )
左が「吹き」右が「吸い」のリードプレートです。
ここで注目するのは各リードの「Gap:あげみ」です。
右の「吸い」リードはリベットが出ているのが通常発音するリードです。
左の「吹き」リードはリベットが出ているのがベンドの時に使用する補助リードです。
通常発音するリードはスリットから先端が僅かに出ていますが、補助リードは「Zero-Gap」と呼ばれスリットとリードの間に隙間がありません。
えーと。。かなりマニアックな話になってきました(笑)。
このあたりの話までお読み頂けている方は相当マニアな方かと思いますので気にせず続けますね。退屈な方は次の写真まで読み飛ばして頂いても問題ないかと思います(笑)。
あまり聞き慣れないかと思いますが、ベンドという現象に関連した説明をする時にある用語を知っておくと便利であります。
■「Close Reed」発音する時に最初にリード先端がスリットに沈むリード
平たくいうとストレート音を発する時のリードの振る舞いです。
「吸いリード」は外側にGapがついていて、吸う事によってスリットに沈められて発音します。
「吹きリード」は内側についていて、吹く事によって内側から押されて、やはりリードに沈められて発音します。
■「Open Reed」発音する時に最初にリード先端がスリットから離れるリード
普通に考えると「そんな事あんの?」と思われるかもしれませんが、ベンドの時に鳴りだす低い音程のリードはこのような振る舞いをします。
3番を吸うとClose Reedの"B"が鳴り、ベンドがかかり出すと"G"の「吹リード」の先端がスリットから離れ始め発音を始めます。
クドクなるので書きませんが「吹きベンド」も同様です。
と、このようにベンドの音はOpen/Close Reedのせめぎ合いで行われるようなのです。
さて、長くなりましたが「Zero-Gap」になっている補助リードはいずれも「Open Reed」になります。
通常の10Holesでは「1本のリードでClose,Open」の役割を担わせるため「Close Reed」の時に音が詰まらないようにある程度のGapが必要になります。このためGapがある事により、ある程度のロスが発生します。
しかし、XB-40のように専用の補助リードがある場合「Open Reed」にGapは不要になるようです。このためXB-40は「通常の10Holesに比べてベンドし易い」わけであります。
Open/Close Reed という考え方はまだまだ興味深い事が沢山ありまして、とても森のなかまが語れるものではありません。興味のある方は是非「
Turbo Harp」社の「
Harmonica Research Laboratory」をご覧下さい。本日見てみましたが更にパワーアップしていました。PDFをダウンロードしてゆっくりと楽しんでみたいと思います。
ちょっと話が長くなってしまいましたが、気にせず次に進みます(笑)
リードプレートを押さえているネジですが、実は2種類あります。長いのと短いのがあります。前縁用が短く後縁用が長いのであります。
知らないで組み立てると途中から「あれれ?」となりますのでご注意くださいませ。
特殊なネジの宝庫であるドイツ製ハーモニカですが、今回も「やりたい放題」でした(笑)。
PB精密ドライバーセットに1本で#1,#0に対応する
Poziブレードがあれば怖いものはありません。
ちなみに森のなかまの個体は。。
カバー、マウスピースを止めているマイナスネジは#0が適合でした。
プレートを止めているポジネジは#0番が適合でした。
こう書くと「プラスの#0でも回せたよ」という方がいらっしゃいます。
森のなかまは2度と手に入らなくなるかもしれない楽器の分解、組み立てにはそういった事はしません。それだけです。
リードプレートとマウスピースを外してみます。マウスピースとコームの間にはガスケットとしてクリーム状のものが塗られていましたので拭取らずにそのままにしました。
マウスピースを止めているネジはてっきり木ネジかと思ったのですが違いました(後述)。
ボディはこんなカンジに上下に分割します。面白いのはリードプレート側にではなくボディそれぞれにバルブが入っています。
このバルブのおかげで「吹く」時は「吸いリード」への空気は遮断されます。「Zero-Gap」の補助リードとも相まって通常の10Holesに比べ気密性が高くなり演奏性、音量がアップするようです。スゴイ。。
マウスピースのネジが入るところにはナットが入っていました。
ナットが締められる事により上下に分割されたボディが前方に締め上げられボディを固定するようです。面白いです。。
ちなみに、バルブは最近流行のエンボスタイプのものがセットされていました。
今回注文するにあたっては「おっちゃん」のところで直接モリダイラさんから取り寄せてもらったので最新版だったのかと思います。
流通在庫品はエンボスタイプのバルブで無いかもしれませんが、それは大した事ではないかと思います。気に入らなければエンボスタイプのバルブは購入できるようですので、取替えてしまえば良いだけです。
高音域のリードの根元を少し沈ませています。
XB-40で一番高いキーでもある"C"は高音域でベンドすると「キーン」とSquealingを起こす事があります。G, AやLow-D等を選択すればそうでもないのですが、何かと体に馴染んでいる"C"です。
明確な根拠や説明は出来ませんが個人的な経験則でこうすることで、やっかいなSquealingを押さえる事ができます。保証はしませんが。。。
根元から中央付近が少しスリットに沈むくらいにしています。先端まで沈ませてしまうと音がでなくなります。かなり微妙な調整になりますのでゆっくり時間をかけて焦らずチェックを繰り返しながら行います。保証はしませんが。。。
さて、いろいろと分解してしまいました。
かなりの数のネジがあります。一つのネジを一回で本締めしなながら組み立ててしまうと色々と歪んでしまいます。
プレートは一旦全てのネジを緩やかに締めてから、中心から端に向かって徐々に締めていきましょう。可能な限り均一な締め具合で。。そして渾身の力で強く締め過ぎないように。。
吹き、吸いどちらでも全音のベンドができる「夢のハーモニカ」ですが、ピッチは自分で作らなければなりません。それなりにピッチをコントロールする技術が要求されます。これを面倒と思うか自由とおもうかは人それぞれだと思います。そもそもダイアトニック・ハーモニカに何を求めるかも人それぞれです。
Suzukiからは
SUB30というハープがそろそろ出ますが、こちらはベンドによるクロマチックスケールを主眼に置いているようです。ベンドによって追加される音は半音に留まっています。ミッシングトーンの代替えとして利用するだけであればその方が楽だと思います。
ただボーカルのように自由にピッチを作り出せ、全音のインターバルをゆっくり滑らかにポルタメントできるのは細かいフレーズを重ねるよりもグッとくる魅力があります。
そのまま吹けば既存の10Holesでありながら「ここでベンドできたら」と思うところでベンドできてしまうXB-40。
決してこの1本だけで全てを済ませる程世の中は単純ではありませんが「夢のハーモニカ」だから表現できる事だってあるのだと思います。
まだ付合い始めて日数は少ないですが、吹く度にニヤニヤさせらたり、広い自由度に戸惑ったりとエキサイティングなハープです。
クロマチックなプレイには特に興味はなくても「ベンド」にハープの魅力を感じるプレイヤーは是非、市場から無くなってしまうまえに手に入れておきたい楽器であります。
それでは!