しかしながら、よくもまあこんな分類群を選んだものだとつくづく感心してしまう。今回はそんな話。
サンゴは基本的に分裂した個体が離れずに集まった集団(群体)で生活し、石灰質の堅い骨格を持つ。骨格は保存性がたいへん良いため、この構造が分類形質として用いられてきた。そして、骨格構造が変異の少ない安定した分類形質であったなら、何ら問題はなかったのであるが、現実はそうではなく、200年近い研究の歴史を経ても未だに分類はカオスが続いている。
特にカオス極まるのがコモンサンゴ類(ミドリイシ科コモンサンゴ属に含まれる種の総称)で、本分類群の場合、2つとして同じ標本(形質)はないと言っても過言では無く、標本を調べる度に種が異なって見える。そして、どこまでが種内変異で、どこからが種外であるか見境が付かないのである。さらに、コモンサンゴ類にはカオスの元となる大きな3つの問題が横たわっている。
1つは世界一のサンゴ分類学者として認められ長年活躍されて来たVeron博士の著作、特に集大成として発表された大図鑑Corals of the World (2000)は分類学的作業において大欠陥があった上に、彼の認識した多くの種がタイプ標本と齟齬があった。すなわち、信じていたものは真実では無く、逆に誤った認識を刷り込まれていたのである。
他の1つは種多様性の過小評価である。海の中にはこれまで知られていたよりもはるかに多くの種(未記載種)が生息しているため、種同定を困難にしている。コモンサンゴ類の場合、日本産既知種は40種ほどであったが(西平・Veron, 1995)、少なく見積もっても実際にはその3倍は存在し、その内の半分以上は未記載種である。
残りの1つは遺伝子解析の困難さである。形態だけでは種の見極めがはなはだ困難であるため、最後の頼みの綱とばかり遺伝子解析にすがった。が、遺伝子系統図は複雑さを極めたり、一方で、解析したい近縁種は同じクレードに並び差は認められなかったり、形態的共有形質でくくった「種」が複数の系統に分かれて出現したり、系統性を全く示さない形態群があったりと、遺伝子系統が描いた世界もまたカオスであった。
残された人生の時間を考えれば、成果が見えないコモンサンゴ類分類をあっさりとあきらめテッポウエビ類分類に戻るか、それともしぶとく研究を継続するか、の選択をせねばならない。判断は早いほうが良い。さあ、どうする。どうせやるなら、世界で自分一人しかできない難敵へのチャレンジだろう。敗北はいやだし、ロンドン自然史博物館でK. J. 博士から「コモンサンゴをやるなんておまえはクレージーだ。コモンサンゴはみんな1種だよ」とからかわれたことが常に頭の中にあり、彼へのリベンジもある。
と言う理由で、コモンサンゴ類が再び選ばれた。

コモンサンゴ(串本産):これまでMontipora venosa (Ehrenberg, 1834)の学名が充てられてきたが、この学名を担う種とは形態が異なり、さらに日本温帯域の固有種である。コモンサンゴ類の鑑、ザ・コモンサンゴであるが、困ったことに遺伝子解析ではM. venosaとは区別が付かない。

モリスコモンサンゴ Montipora mollis Bernard, 1897:グレートバリアリーフがタイプ産地であるが、国内では種子島以北に限産し、国内の個体群は固有種の可能性が持たれる。写真は三重県二木島に生息する長径2mを越える国内最大級群体。

クボミコモンサンゴ(小笠原産):Montipora porites Veron, 2000の学名が充てられるが、この学名は分類学的手続きのヘマにより、タイプ標本が存在しない状態になっており、厳密には本学名で公表できない。また、小笠原をタイプ産地として記載されたMontipora rigida Verrill, 1866の原記載と齟齬は無く、この学名の方を用いたいのであるが、タイプ標本が消失状態にあるため再検討ができない。さらに、古くに記載されたMontipora angulata (Lamarck, 1816)との関係も微妙である。

サボテンコモンサンゴ Montipora cactus Bernard, 1897(ケラマ群島産):水中で識別できる数少ない種。名前の分かるコモンサンゴ類に出会うと嬉しさのあまり頬ずりしたくなるが、本種には外敵よけの細かな棘が密生する。
サンゴは基本的に分裂した個体が離れずに集まった集団(群体)で生活し、石灰質の堅い骨格を持つ。骨格は保存性がたいへん良いため、この構造が分類形質として用いられてきた。そして、骨格構造が変異の少ない安定した分類形質であったなら、何ら問題はなかったのであるが、現実はそうではなく、200年近い研究の歴史を経ても未だに分類はカオスが続いている。
特にカオス極まるのがコモンサンゴ類(ミドリイシ科コモンサンゴ属に含まれる種の総称)で、本分類群の場合、2つとして同じ標本(形質)はないと言っても過言では無く、標本を調べる度に種が異なって見える。そして、どこまでが種内変異で、どこからが種外であるか見境が付かないのである。さらに、コモンサンゴ類にはカオスの元となる大きな3つの問題が横たわっている。
1つは世界一のサンゴ分類学者として認められ長年活躍されて来たVeron博士の著作、特に集大成として発表された大図鑑Corals of the World (2000)は分類学的作業において大欠陥があった上に、彼の認識した多くの種がタイプ標本と齟齬があった。すなわち、信じていたものは真実では無く、逆に誤った認識を刷り込まれていたのである。
他の1つは種多様性の過小評価である。海の中にはこれまで知られていたよりもはるかに多くの種(未記載種)が生息しているため、種同定を困難にしている。コモンサンゴ類の場合、日本産既知種は40種ほどであったが(西平・Veron, 1995)、少なく見積もっても実際にはその3倍は存在し、その内の半分以上は未記載種である。
残りの1つは遺伝子解析の困難さである。形態だけでは種の見極めがはなはだ困難であるため、最後の頼みの綱とばかり遺伝子解析にすがった。が、遺伝子系統図は複雑さを極めたり、一方で、解析したい近縁種は同じクレードに並び差は認められなかったり、形態的共有形質でくくった「種」が複数の系統に分かれて出現したり、系統性を全く示さない形態群があったりと、遺伝子系統が描いた世界もまたカオスであった。
残された人生の時間を考えれば、成果が見えないコモンサンゴ類分類をあっさりとあきらめテッポウエビ類分類に戻るか、それともしぶとく研究を継続するか、の選択をせねばならない。判断は早いほうが良い。さあ、どうする。どうせやるなら、世界で自分一人しかできない難敵へのチャレンジだろう。敗北はいやだし、ロンドン自然史博物館でK. J. 博士から「コモンサンゴをやるなんておまえはクレージーだ。コモンサンゴはみんな1種だよ」とからかわれたことが常に頭の中にあり、彼へのリベンジもある。
と言う理由で、コモンサンゴ類が再び選ばれた。

コモンサンゴ(串本産):これまでMontipora venosa (Ehrenberg, 1834)の学名が充てられてきたが、この学名を担う種とは形態が異なり、さらに日本温帯域の固有種である。コモンサンゴ類の鑑、ザ・コモンサンゴであるが、困ったことに遺伝子解析ではM. venosaとは区別が付かない。

モリスコモンサンゴ Montipora mollis Bernard, 1897:グレートバリアリーフがタイプ産地であるが、国内では種子島以北に限産し、国内の個体群は固有種の可能性が持たれる。写真は三重県二木島に生息する長径2mを越える国内最大級群体。

クボミコモンサンゴ(小笠原産):Montipora porites Veron, 2000の学名が充てられるが、この学名は分類学的手続きのヘマにより、タイプ標本が存在しない状態になっており、厳密には本学名で公表できない。また、小笠原をタイプ産地として記載されたMontipora rigida Verrill, 1866の原記載と齟齬は無く、この学名の方を用いたいのであるが、タイプ標本が消失状態にあるため再検討ができない。さらに、古くに記載されたMontipora angulata (Lamarck, 1816)との関係も微妙である。

サボテンコモンサンゴ Montipora cactus Bernard, 1897(ケラマ群島産):水中で識別できる数少ない種。名前の分かるコモンサンゴ類に出会うと嬉しさのあまり頬ずりしたくなるが、本種には外敵よけの細かな棘が密生する。