弱い文明

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フランスの改憲~バダンテール演説

2007年01月16日 | 死刑制度廃止

 昨年末に、「壊れる前に・・・」のうにさんや「秘書課」の村野瀬玲奈さんらの記事を通じて、フランスの改憲への動きとその内容のことを知り、衝撃を受けた。トラックバックもいただいているから、僕のブログに来る人は知っているだろうが、フランスは死刑廃止を憲法に明記するための改正に向かっている。
 フランスは1981年の時点で、すでに死刑廃止を法律で定めている。今回はそれを、より国家の方針として徹底させる狙いらしい。いわばフランスという国の身体に刺青して、そうそうは消せないようにする、ということだ。

 衝撃を受けた、と書いたが、ここで僕が感じた衝撃の意味は二つある。
 一つは、このフランスの行き方に対し、日本の何と遅れていることか、というギャップから来る衝撃である。もちろん、フランスの政治文化が必ずしも優れた先進的なものかどうかは、疑問なところもある。ただ明らかに、昨今の日本よりはマシだろう。
 もう一つは、このフランスの動きをテコにして、日本の「改憲」を切り崩す、あるいは正しい「改憲」に向けて人々の覚醒を促すことができる、という戦術の発見から来るものである。
 この二つ目については、次回以降書くことにする。今回は一つ目の衝撃から、「バダンテール演説」の紹介を中心に書きたい。

 村野瀬玲奈さんがリードをとって、8人のブロガーの方が「死刑廃止」をテーマに筆を取ったリレー・エントリーの企画、その基調文献として、1981年フランス国民議会におけるロベール・バダンテール法務大臣(写真上)の歴史的演説が玲奈さんによって全訳されている。

 http://kihachin.net/tips/badinter.html

 始めの導入部分は「フランス万歳!」的ノリで、日本人の僕には少々暑苦しい感じもしたが、これが後で「こんなに偉大な精神を生み出してきた我が国であるのに、なぜ死刑制度を?・・・」という訴えがギューンと効果を上げるための伏線になっている。
 日本で言う国会に当る場所で、こういう演出を自民党議員あたりが真似ても、シュールなコントの域を出ないが、バダンテール氏ならそんなことはない。同じ政治家でこんなにも品位や知性に差があっていいのか。むしろこの演説中で、野次を飛ばしている右派の議員の方が日本の議員に似ている。いやもっとダサいか。

 名演説とは言っても、彼がここで話していることは、それまでに主に欧州の各国が積み上げてきた死刑廃止の議論及び実践と、その後の経過を総合したものをベースとしているのであって、彼のオリジナルな思想を展開しているわけではない(もともと議会はそういうことをやる場所ではない)。
 にも関わらず、その内容は彼の弁護士としての果敢なキャリアに裏打ちされた言葉によって、力強くオリジナリティあふれる調子になっている。相手を説得しようとするなら、まずプラグマティックな考えが優先される議会のような場で、これほど深く人間についての洞察がなされるということ自体が、奇跡のようである。ぜひ、一人でも多くの人に紹介したい。ちょっと長いけど、がんばって読んでみる価値は保障します。文句がある人はレイランダーまで。

 ついでに、こちらはあまり読む価値を保障できないものだけど、2004年に「死刑廃止を求める議員連盟」(会長・亀井静香)が宗教者ネットワークのメンバーと連れ立って、当時の野沢法務大臣(任期中の死刑執行は2人)を訪問したときのごく短い会見記録があった。このページの中ほど、2004年5月28日のところ。
 野沢元法務大臣は「凶悪事件が発生するなどのこともあり、残念ながら(死刑制度に)意義があると認めざるを得ない」と、23年前にバダンテール氏が明快に論破した理屈をまだ持ち出して、議連の人からつっこまれるなど、同じ法務大臣でもここまで違うか、という姿をさらしている。挙句には「法務省は治安回復のハードルを越えなくてはならない」という、治安に関する事実誤認と、三権分立を危うくするアイデンティティの誤認までやらかしている。それでもこの人の場合、署名受け取りの会見に応じただけマシな方だという話も・・・・いや、たぶん読まないほうがいいと思われます。


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