弱い文明

「弱い文明」HPと連動するブログです。 by レイランダー

捕鯨問題から再び考えたこと~日本の“トラウマ”

2008年01月22日 | 環境と文明
 前回、僕として捕鯨問題を考える際に「議論の余地のない事実」としていくつかあげたことに、次の項目を付け加えなければいけない。といって、本当は当たり前すぎて、書くのが気が引けるのだけど。

〇グリーンピースは「テロ団体」ではない。

 テロ行為を働いたと言うなら、なぜ彼らは刑事告訴されないのだろう。彼らは逃げも隠れもしていない。いつも公然と顔を見せながら活動している(うわあ、当たり前だ・・・)。
 さらにはなぜ彼らは、IWCをはじめとする国際会議に、オブザーバーとして招請されたりするのか?なぜNGOとしては最も高い評価を受けていること証である、国連の「総合協議資格」を与えられているのか?そしてなぜ、日本政府までもが、そのテロリストから(捕鯨問題以外の)環境問題について講義やアドバイスを受けているのか?

 農林水産省を相手方とする人権侵害救済申立書(pdfファイル) 

 書いていて自分が赤面してくる。もう勘弁してください。詳しくは上記ファイルでご確認を。
 こうした歴然とした事実の提示に対しては丸ごとスルーするか、もしく意図的な曲解に基づく枝葉の問題にイチャモンをつけるだけ。それが、日々湧いて出る反「反捕鯨」のヒステリック達の相も変らぬふるまい方だ。
 ちなみにグリーンピースは、厳密には「反捕鯨」ではない。そして反「反捕鯨」のヒステリアにのめりこむ連中というのは、その「厳密」を理解する腹がない。というのも彼らは、捕鯨のことなど実はどうでもいいのだ。「環境」をわめき立てる怪しい勢力が、美しいわが日本を侵そうとしている!だから背後に欧米、あるいはもっと悪い中国・韓国など、とにかく反日勢力がいる!という「脳内幻魔大戦」(byApeman氏)を戦うことで、人生を何か意味あるものにしようとしている、ただそれだけの話なのだから。
 上記「申立書」は、グリーンピース=テロリストという言説を政府関係者が無思慮に使用することに対して、いくらなんでもひどいじゃないかと反論・抗議するためのものである。だが、一般にネット上などで騒いでいるヴァーチャル・ウォリアーたちに対しては、必要ない。彼らの場合、説得する価値もない。

 問題はそんな連中よりむしろ、グリーンピースのやるような非暴力の直接行動を、いわゆる「テロ」ではないにしても、心情として受け入れ難い行動、平和的でない、“やりすぎ”の行為だと感じる人間が、さらに多いことだ。
 普段はごくごく物の道理をわきまえた、「ネトウヨ」などとは程遠い人ですら、いわゆる抗議行動・抵抗運動のやや乱暴に「見える」側面だけをつかまえて、「過激だ」「暴力的だ」と眉をひそめる傾向が、日本人の場合過剰ではないかと思う。格闘技やお笑い番組の罰ゲームなんかの方が、やってることははるかに過激だったり暴力的だったりするのだから、要はその物理的な力にどれだけ威力があるかではなく、それが“お上”に楯突く方向を向いている時に、抵抗感を覚えるように躾けられている人間の割合が多い、ということかも知れない。こうした人達は、「市民」より「臣民」に近い。
 たとえば路上に座り込んで道路を封鎖するような、市民の抗議のデモ・ストライキ等を苦々しく眺めるタイプの人とっては、時に捕鯨船とクジラの間にゴムボートで割り込む(そうそうある場面でもないが)なんていう「直接行動」は、かなり悪質な行為に見えてしまって不思議はない。ましてやその行動の矛先が、公正であるはずの自国の経済活動に向けられているのだから・・・・。

 しかし、だからといって、間違っているのがグリーンピースで、日本の捕鯨活動に多くの理があるということには、もちろんならない。
 以前、いろんなブログで捕鯨に関する意見を読んでいて、星川淳氏の『日本はなぜ世界で一番クジラを殺すのか』を取り上げた、僕と同じくこの本を絶賛していた記事を見つけたことがある。
 ただその人は絶賛しながらも、「グリーンピースの主張は正しい。が、抗議のやり方に関しては一考の余地がある」としていた。つまりあのゴムボート作戦のような直接的なパフォーマンスは、日本人を「悪者」として世界に印象付け、それが日本人の心に「環境団体は理不尽なことをやってくる連中だ」という“トラウマ”を残してしまった。それを「日本は大好き、でも南極での捕鯨にはがっかり」のような、ソフトなメッセージ・キャンペーンに転換する最近の試みは、大変素晴らしいので断然支持する、と。

 一見もっともな意見に思えるが、どうだろう。ソフトなキャンペーンの試みは、僕もいくらでも支持するけれど、ここでの「直接行動はまずいけれど、こっちなら」という対置のさせ方はおかしくないか?というより、日本人って、何様のつもり?“トラウマ”だって?ただの“心得違い”じゃないか?
 日本人が「理不尽だ」と感じるその状況は、国際世論やグリーンピースの抗議によって初めて生まれたのではない。日本が加盟している捕鯨の国際機関において成された合意を、はなはだしく軽視するという、「ならず者国家」まがいの理不尽な行動を日本が取り続けることによって、生まれた(生まれ続けている)のである。そしてそれは、グリーンピースや多くの関係者・識者が明らかにしているとおり、日本の一般国民にとってさえ理不尽な行動なのである(前回のエントリーも参照──それにしても「靖国」と重なりまくるよなあ、この辺)。
 国民はそれを知らされていなかった。それはグリーンピースの責任か?グリーンピースの活動がなければ、その「知らされていない」こと自体も含め、現代日本の捕鯨というものが日本人にとってさえいかに理不尽なものかということを、多くの日本人が知らないままでいただろう。
 「感情論」で考えていたのは、実に日本人の方だった。それを無視できない形で知らしめたのがグリーンピースだったとして、それがちょっと見た目には荒っぽいやり方だったとして、グリーンピースはどう謝罪するべきだと言うのだろう?貴方達は被害者というよりほとんど加害者ですよということを知らせるのに、もっとソフトなどんなやり方があったというのか?それを発案し・実践できなかったことの責を、グリーンピースだけが背負わねばならないのか?僕にはさっぱりわからない。また、そんな荒っぽい外界との接触がいちいち“トラウマ”になるような幼稚な民族は、外に出て行って活動してはいけないと思うのだが。

 以前にもくりかえし書いたことだが、僕はクジラという動物に特別な思い入れはないし、食べてはいけないと思ってもいない。自分の経済力で買えるのは、あのゴワゴワした消化の悪い「大和煮」の缶詰くらいだから、食べる気がしないんだけど。
 グリーンピース・ジャパンが立ち上げたプロジェクトの「くじラブ」というネーミングにも、結構違和感がある。ただ、世間には僕などと違って心優しい人が多いから(たぶん)、こういう心優しいネーミングの方が入り口としては適切なのかな、と納得することにしているけれど。
 いずれにしろ、ちょっと敷居の高い出版物による情報がメインだった時代に比べれば、今はインターネットを通じて、彼らの公然たる活動ぶりと、スタッフの考えなど、誰でも気軽に読んでその妥当性を吟味できる。それをした後でも、日本の捕鯨船を追跡して抗議のアピールをくり返す姿を見て、「ああいうのは過激だから嫌いだ」と感じるのであれば、問題はそう感じる人の心にこそある、と僕は思う。その“トラウマ”を克服する義務は、他人の誰にもないはずだ(それでもグリーンピースの良心的なスタッフ達は、それを自分達のテーマとして考え続けるだろう)。

 上にあげたpdfファイルを含め、グリーンピース・ジャパンの捕鯨問題特集「くじラブ」、特にエスペランサ号乗組員の方のブログは、単なる航海日誌というに終わらず、日本で生活している人間にいろいろな気づきをもたらしてくれる。
 また人権侵害救済申立書の背景について、星川事務局長みずからがブログで説明している記事(2007年12月18日付)は、本エントリーと重なる部分が多いので、ぜひご参照を。

最新の画像もっと見る

7 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
はじめまして (うろこ)
2008-01-24 10:37:21
こんにちは、はじめてこちらのブログ拝見させて頂きました。私はまさしく今回の事件で日本の捕鯨漁の実体を知った者です。かなりショックです。
10年程前でしたか、和歌山の伝統捕鯨漁を特集している番組を観た事があって、その時「捕鯨するクジラは絶滅する恐れのない種で、漁をする期間は3週間で捕鯨船1隻につき頭数は1~2頭」となっていたのでず~とそれを信じていました。ちらっと「調査の為捕鯨もある」と言ってましたが、今思えばその内容はほとんどスルーでした。「調査の為なんだから年に10頭ぐらいかな~」と勝手に思っていました。
それに「反捕鯨」が「南京大虐殺」並に叩かれる対象になっているのも初めて知りました。
本当にショックです…恥ずかしいです。
私のように実態を知らない人はまだまだ多いのでしょうね。私ももっと勉強しなきゃ!と思いました。
これからもグログを拝見させて頂きます。よろしくお願い致します。
返信する
はじめまして (レイランダー)
2008-01-25 03:09:05
うろこさん、ありがとうございます。

僕にしても、去年の「事件」(日進丸が洋上で火災事故を起こし、乗員が死んだ──こちらでは2007年2月24日の記事です)によって、その実態に気づいた新参者に過ぎません。しかもこの頃は、たとえば和歌山(太地町)の伝統的な「突き取り」式捕鯨の話を含めて、日本人と捕鯨との関わりの歴史について、知識が全く足りてませんでした。
ただ、大枠での判断は間違ってませんでしたけど。たとえば、IWCで認可されているイヌイットの原住民生存捕鯨に対して、日本の伝統捕鯨を同列で扱えと要求するのかなり無理があるだろうこととか。
ともあれ、僕よりこの問題を的確に語れる人は他にいくらでもいます。くり返し取り上げていますが、星川淳氏の『日本はなぜ世界で一番クジラを殺すのか』は、未読でしたら是非とも目を通してみてください。また最近、シートン俗物記(ブックマーク参照)で数回に渡って書かれたものも勉強になります。

あと僕は、これは広い意味での環境問題であると同時に、資源へのアクセスをめぐる問題という気がするんですね。どう考えてもクジラにマグロや鮭ほどの価値があるはずもなし、石油とか鉱物資源ほどの価値があるわけでもない。なのになぜ、わざわざ南極くんだりまで出向いて、世界を敵に回してまでこんなことを続けるのか──“アクセス”そのものにこだわってる面が必ずあるような気がする。その裏返しの事情として、“アクセス”に頼らなければやりくりできない脆弱な国内の食糧体制というのがあって。「内」の現実を隠すために「外」に向かってる、という感じでもあり。
そんな視点からも、注目していきたいと思ってます。
返信する
グリーンピースは立派なテロ団体 (Unknown)
2008-02-12 15:37:33
グリーンピースは「テロ団体」ではないだと? おいおい御全に洗脳されきってるな。FBIがテロリストとして監視対象としている事実を隠して日本人だけがテロリスト呼ばわりをしているように装うなよ。もしそんな常識も知らないんならwikioediaでも読めよ。非暴力だなんて大嘘もつくなよ。アメリカ人にだってグリーンピースの方が日新丸にぶつかってきたことをビデオを見せて指摘してる人がいるのに。あんたにこれ見て言ってることがわかるくらいの英語力はないかもしれないが。とりあえず右翼的指向のある「日本人」だけがGP非難をしてるという印象操作になんかひっかかるなよ。
鯨に右も左も関係ねーだろが、バーカ。
http://uk.youtube.com/watch?v=6r4tkrA-rRI
返信する
GP・GJ (レイランダー)
2008-02-13 00:44:59
FBIが、っていうのはだいぶ前(80年代くらい?)の話だと思ってたけど、まだそうなのかな?まあ、だとしても別に不思議はないけど。予算分捕るためにいろんな「テロリスト」を想定しておかなきゃならないのは、どこの国の公安組織も同じだし。ジョン・レノンも最後まで監視されてたしねえ。
さあ、それでグリーンピースがいつどんな「テロ事件」を起こして、何人くらい逮捕されて起訴されたのか、教えてくれないか?「立派なテロ団体」と言うからには、誰もが震え上がるような、さぞ立派な戦績を上げているんだろう。

それと、俺は「日本人だけがテロリスト呼ばわりしている」なんてどこにも書いちゃいないよ。右翼的指向のある「日本人」だけが、なんてことも書いてない。エントリーの中にある「人権侵害救済申立書」読んでないだろ?そこで申し立てられてる相手は水産庁・遠洋捕鯨班の人間だよ。
あとはその天下り先の鯨研の連中も時々使ってたっけ。俺が知ってる限り、日本の政府関係でグリーンピースをテロリスト呼ばわりしてるのはそのあたりだけ。あとはネットで見かける、ハサミムシの仲間だろ。

>鯨に右も左も関係ねーだろが、バーカ
まさにそのことを、ここの2つのエントリーで俺が力ふりしぼって書いたつもりなんだけどさ。ま、分かる人には分かってもらえたはずだから、君も安心してよ。
ただ、その前に「テロ」っていう言葉の大安売りを何とかしてほしいんだけどね。
http://blog.goo.ne.jp/civil_faible/e/effc7fd42efb6f0921c5fc6c1a766113
返信する
Unknown (ブログヤンキー)
2008-03-05 12:06:31
環境テロリストの攻撃には屈辱を覚えます。根本には白豪主義に基づく日本人卑下があるのではないでしょうか。日本には憲法九条という時代錯誤の法があるので反撃が出来ません。日本はもっと主張出来る国にならなければならない。鯨と人間とではどちらが大事なのだ。鯨の保護という些末な事に走らないで、根本的な議論をする必要に迫られているのではないでしょうか?
返信する
>ブログヤンキーさん (レイランダー)
2008-03-05 23:41:01
決して馬鹿にするつもりじゃないから、ちゃんと読んでね。

環境テロリストの攻撃にあなたが「屈辱」なんか感じる必要はありません。辱められてるとしたら、水産庁内のごく限られたセクションの人間だけ。日本政府ですら、本音ではどうでもいいと思ってること。
それとも、そこのセクションの人に親戚でもいるの?

オーストラリアの現政府は、白豪主義との決別を国として決定的に果たした、歴史的な政府ですよ。
http://eunheui.cocolog-nifty.com/blog/2008/02/post_c9bc.html

憲法9条は時代錯誤なのではなくて、他の国がどの時代にも到達したことのない、最先端の条項です。古いんじゃなくて、前例のない、新しすぎる条項なの。
オーストラリアに「反撃」したって、あなたを含めた一般の日本人にはの何の得にもなりません。世界で孤立して、圧倒的な損をこうむるだけ。

鯨と人間では、どちらも大事だし、どちらも充分余裕をもって大事にできます。人間さえその気になれば。どっちかを二者択一で取らなきゃいけないような危機的な状況には、少なくとも日本人は陥っていませんよ。
まさに、鯨のことばっかりにいつまでもとらわれてないで、他の環境問題にもっとエネルギーを注ぎたいのにと、グリーンピース・ジャパンの局長さんは嘆いているし、このブログでも捕鯨について書き始めた当初から、もっと「根本的な」問題をしつこいくらいに論じてます。

今回は大目に見るけど、今後はこんな初歩的な間違いだらけのコメントは、容赦なく不承認にするからそのつもりで。俺はあんたのマンツーマンの添削教師じゃないからね。

一つだけ。あんたは自分の怒りを向ける矛先を間違えてる。あなたを取り巻く“情報”によって、間違えるように仕向けられてる。よく考えてみなよ。日々暮らしていて、あんたを辛い気持ちにさせ、落ち込ませているのは本当は誰なの?
返信する
追加 (レイランダー)
2008-03-08 09:52:54
しかし上のコメント、“環境テロリスト”のくだりはこれでもまだ正確じゃない、という気がしてくる。
シー・シェパードの行動に「屈辱」なんか感じてるのは、実際には政府のプロパガンダに乗せられた一般の市民だけだ。日本政府にしろ水産庁の捕鯨推進派にしろ鯨研にしろ、むしろ日本の捕鯨の本当の問題点をぼかして自分達の立場を強めてくれるものとして歓迎してるんじゃないか。
利害関係で言ったら、それこそシー・シェパードは捕鯨推進派と結託していると言ってすらいいかも知れない。将来彼らが鯨研の子飼いの部隊だったということが暴露されたとしても、なんら驚くに当たらない。
そうに違いない、と思うわけではない。そうだとしても別に矛盾はない構図があることを、相変わらず多くの人は気づいていない、それだけの話だ。
返信する

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。