この記事、2021年の1月に書きかけて、そのまま下書きフォルダに放置されていました。そろそろ次のフェーズ−−というよりは元のフェーズ?−−に進むべきだという思いを強くし、いったんコロナ禍でのリモート活動の総括とともに書き終えて公開することにします。
コロナ禍にあってライブ演奏に色々と制限がかかる中、我々は「音源制作・MV制作」中心の活動にいったん大きくシフトしました。
コーチと一緒にリモート制作をしたり、部員同士でリモート制作をしたり、オンラインコンテストにガンガン作品を出したり――そういった活動は、ライブ演奏中心の活動に戻った今も断続的に続いています。
顧問の立場としては、GarageBandに代表されるようなDAWを使うよう盛んに部員に呼びかけ、コロナ以前であれば一部の部員しか扱わなかったDAW利用のすそ野が少しは広がったという実感があります。今の2年生以上は、基本的にリモート環境で「音」を伴ったアイディアのやりとりが可能で、(効率はともかくとしても)完全リモート環境でも1曲仕上げるくらいのスキルを持っているはずです。
スマホやタブレットでDAWを操作したり、曲作りやDAWの知識をYouTubeで得たりと、作詞作曲や音源制作のハードルは確実に、いや、圧倒的に下がっており、誰もが楽しめるものとなってきています。私(顧問)は作詞作曲もしなければ、DAWを操作することもありません。しかし、若者がお手軽に曲作りをしたり、レコーディングしたりするにあたり、どこら辺に障壁があるのかは、かなり見えてきたような気がします。(なんならiOS版GarageBandのプロジェクト共有のやり方について、マニュアルが出来つつあります。)
◆今の若者がPCを使えなくなっている問題
教育現場にいると、「高校生がPCを使えなくなった」ということを肌で実感します。「PCが使えない」の中身は、「QWERTYキーボードを使えない」であり、「ファイルやフォルダ、プロジェクトなどの『データがどこかに保管されている』という意識が希薄になった」というあたりでしょうか。
そうなった理由として挙げられる「スマホで何でも出来るから」は、答えの半分。実態としては、スマホでもごく特定のことしかしていません。InstagramとLINEとYouTubeと動画作成と画像加工アプリあたりです。
それゆえに、「GIGAスクール構想によって一人一台端末が実現したから若者が(再び?)PCを使えるようになる」ということにあまり期待しない方が良いと思います。結局のところ、スマホだろうがPC端末だろうが、「自分のやりたいことは未知のアプリケーションを使うことで実現できるはず」という着想と、それを着手してら試行錯誤していく実行力と探究心を育てていかなくてはならないのです。
さて、話が横道にそれましたが、本校の場合、順次導入してきた一人一台Chromebook環境が、2024年春には「完備」となります。とはいえ、現状でChromebook端末で行うDAWは、おそらくまだ実践の積み重ねが不足しており、初心者軽音楽部員に挑戦させることには抵抗があります。
そうなってくると、まだしばらくはBYOD頼みーーつまりはiPhone頼みです。コロナ禍以前には部員がPCを用いてオーディオインターフェースを介してレコーディングをし、GarageBandやCUBASE、スタジオワン等のDAWソフトを用いてミックスダウンをしてきました。大半の生徒がiPhoneユーザーとなった今、iOS版GarageBandを活用しない手はありません。
◆音源作成メインの活動の中で考えたこと
これまで「ライブ」や「コンテスト」に向けて活動してきた部員が、音源制作をメインとした活動にシフトすれば、それ以前よりはやりがいに欠けるであろうことは目に見えていました。とはいえ、「ライブがやれるその日まで個人で練習してスキルをアップしておこう」ということは一度も口にしたことがありませんでした。当時、目の前にいる部員が卒業までにコロナ禍の終息を迎えているかどうかは検討もつかなかったからです。
音源制作中心の活動をするなら、とにかく簡単に音源を作ることができ、そこに動画をつけて発表するまでのサイクルを上げることが必要だと思いました。そして、そのためには「手軽さ>音質」という発想が不可欠でした。
前置きが長くなりましたが、以下、よく他校の顧問の先生から質問される「中杉生はどうやってレコーディングをしているのか」を紹介していきます。
◆簡単レコーディング〜ギターベースキーボード編〜
ギターベースの音をデータとして取り込むにはオーディオインターフェースが必要です。これまで部活で所有していたオーディオインターフェースはPC用でしたので、
という形で音声データを取り込んでいました。
ステイホームが多くなり、手軽に宅録するためには、
という流れで音声データを取り込む環境が求められます。したがってオーディオインターフェースは、「Lightning端子か、ステレオミニプラグを介してスマホに入力できるものを条件に部活で使うものを選定・購入しました。
(この動画とは別に、顧問がスライドにてGarageBandのプロジェクト共有マニュアルを作り始めたのが1年ほど前。何せ自分が普段使っているものではないために、一部動作が見えないところがあり、頓挫しております。)
また、同生徒はPC+オーディオインターフェース+DAWのレコーディングマニュアルも作成しています。
こんな風に、後輩のためには労を惜しまない上級生がいることで、この部活は成り立っているのだと改めて実感した次第です。
◆今後に向けて
そんなこんなで、現役の部員はすっかり「レコーディングとはスマホで行うもの」という認識が定着してしまいました。まだまだ工夫の余地はあるのかもしれませんが、お手軽レコーディングの音質はやはり「それなり」です。普段から良い音を扱っている人であれば、簡易レコーディング環境の中で、よりよい音に「近づける」発想を持つことができるでしょう。一方でスマホレコーディングから始めた人たちにしてみれば音質がいまいちであっても「まあこんなもの」ということになります。
実際、コロナ禍以前にPCのDAWで作られた卒業生の音源を聞くと、音が良いものが多いのは間違いありません。もちろん当時はほんの数名のエンジニア魂をもった部員が音を作り込む一方、ほとんどの部員は何もできませんでした。翻っていまの部員は「なんとなくならみんな出来る」状態です(現1年生はこれから)。「痛し痒し」の状況ではありますが、音を扱う以上、良い音を追求してもらいたいものです。
今年の文化祭のテーマソング音源作成にあたり、久々に3年生部員が「ドラムRecにはEAD10を使うのではなく、セットに複数のマイクを立ててRecしたい」と言い出しました。それを止める理由はありませんが、「初めて行う操作、思い通りにならない可能性が高い。保険としてEAD10でのRecも想定しておこう」と伝えたところ、見事?成功したようです。「もっと良い音で録れるのあればそれを追求したい」という気運が出てきたのは良いことです。これを機に、そろそろ「お手軽スマホレコーディング」を卒業しようじゃないか、と思うに至ったわけです。
何せ、「お手軽スマホレコーディング」とはすなわちiPhoneユーザー限定の話だったわけですから、PCでのRecに立ち返ることができれば、それを乗り越えることも可能です。顧問は頑なに「DAWは覚えない」と宣言していますので、上記のマニュアル動画のように「うまく後輩に継承されるための環境づくり」に引き続き力を注いでいきたいと思います。