今回は、一見奇妙な品です。
鍋形煮物椀と書かれた箱に入っています。
これは何でしょうか。
鍋?
小料理屋ではあるまいし・・・
でも、やっぱり鍋ですね(^^;
最大径 12.3㎝、高 5.4㎝(把手含まず)。明治―戦前。
春慶塗の蓋が付いた鍋形容器です。
黒い本体は漆塗りです。表面はピカピカではなく、ボヤッとした艶があります。
拡大してみると・・・
研ぎだしがなされていません。いわゆる真塗りです。
むやみなテカリを嫌う茶道具や懐石器にしばしば使われます。表面仕上げをせず、塗ったままですから、塗師の腕がそのまま表れます。
重さは、わずか80g。
鍋だとしたら素材は?
鍋の横側は非常に薄いです。把手の部分で測ると、1mmほどの厚さしかありません。一方、底は1cmほどの厚みがあります。
手で持った感じでは、とても金属とは考えられません。
じゃあ、プラスチック?
だとすれば、昔の事ですから、ベークライト?
ちょうどうまい具合に(^^; 一個の碗に一カ所だけ、漆の剥げた所がありました。
顕微拡大して見ると・・・
椀の縦方向に、木の繊維が見えます。
この椀は、木で出来ているのです。
じゃあ、曲げわっぱのようにつくってあるのでしょうか。
塗物は、木材を組み合わせた部分が非常にもろく、剥げや割れがおこります。この器には、5個とも、それらしい損傷はありません。
漆面を詳しく観察すると・・・
縦方向に筋が見えます。これは木目です。漆器は、時間がたつと、必ずといって良いほど、表面に木目の凸凹が観察されるようになります。これは、木部の収縮率が場所によって異なり、木目が現れるようになるためです。
木目は、底にもありました。
しかも、側面の木目と底面の木目は繋がっています。
つまり、この器は、同じ木を削って作られたことがわかります。
大きな木の塊を刳り貫いて、この椀は作られているのです。しかも、厚さは、わずか1mm。
どうやったらそんなに薄く成型できるのでしょうか。
驚くばかりの轆轤技術です。
ひょっとしたら、底の3個の足も繰り抜きなのかもしれません。
箱の蓋裏に紙が貼ってあります。
生産・販売者名は消えてわかりませんが、販売される漆器には、別製と並製があるらしいです。別製の場合、品物に不都合があったらすぐに交換するとのことです。この品は、別製だったのです。品物に対する自信の表れですね。
文面からすると、明治ー大正ぐらいのものでしょうか。
保証書の先駆けですね(^.^)