遅生の故玩館ブログ

中山道56番美江寺宿の古民家ミュージアム・故玩館(無料)です。徒然なる日々を、骨董、能楽、有機農業で語ります。

驚きの職人技!鍋形煮物椀

2021年10月06日 | 漆器・木製品

今回は、一見奇妙な品です。

 

鍋形煮物椀と書かれた箱に入っています。

  

これは何でしょうか。

鍋?

小料理屋ではあるまいし・・・

  

でも、やっぱり鍋ですね(^^;

  

  

  

最大径 12.3㎝、高 5.4㎝(把手含まず)。明治―戦前。

  

春慶塗の蓋が付いた鍋形容器です。

黒い本体は漆塗りです。表面はピカピカではなく、ボヤッとした艶があります。

拡大してみると・・・

研ぎだしがなされていません。いわゆる真塗りです。

むやみなテカリを嫌う茶道具や懐石器にしばしば使われます。表面仕上げをせず、塗ったままですから、塗師の腕がそのまま表れます。

重さは、わずか80g。

鍋だとしたら素材は?

鍋の横側は非常に薄いです。把手の部分で測ると、1mmほどの厚さしかありません。一方、底は1cmほどの厚みがあります。

手で持った感じでは、とても金属とは考えられません。

じゃあ、プラスチック? 

だとすれば、昔の事ですから、ベークライト?

ちょうどうまい具合に(^^; 一個の碗に一カ所だけ、漆の剥げた所がありました。

顕微拡大して見ると・・・

椀の縦方向に、木の繊維が見えます。

この椀は、木で出来ているのです。

じゃあ、曲げわっぱのようにつくってあるのでしょうか。

塗物は、木材を組み合わせた部分が非常にもろく、剥げや割れがおこります。この器には、5個とも、それらしい損傷はありません。

漆面を詳しく観察すると・・・

縦方向に筋が見えます。これは木目です。漆器は、時間がたつと、必ずといって良いほど、表面に木目の凸凹が観察されるようになります。これは、木部の収縮率が場所によって異なり、木目が現れるようになるためです。

木目は、底にもありました。

しかも、側面の木目と底面の木目は繋がっています。

つまり、この器は、同じ木を削って作られたことがわかります。

大きな木の塊を刳り貫いて、この椀は作られているのです。しかも、厚さは、わずか1mm。

どうやったらそんなに薄く成型できるのでしょうか。

驚くばかりの轆轤技術です。

ひょっとしたら、底の3個の足も繰り抜きなのかもしれません。

箱の蓋裏に紙が貼ってあります。

生産・販売者名は消えてわかりませんが、販売される漆器には、別製と並製があるらしいです。別製の場合、品物に不都合があったらすぐに交換するとのことです。この品は、別製だったのです。品物に対する自信の表れですね。

文面からすると、明治ー大正ぐらいのものでしょうか。

保証書の先駆けですね(^.^)

 

コメント (4)
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