Fireside Chats

ファイアーサイド・チャット=焚き火を囲んだとりとめない会話のかたちで、広報やPRの問題を考えて見たいと思います。

ケイタイで取りつけ騒ぎ

2004年06月05日 18時05分20秒 | クライシス
昨03年12月に起こった佐賀銀行騒動を考えます。
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緊急ニュースです!
某友人からの情報によると26日に佐賀銀行がつぶれる そうです!!
預けている人は明日中に全額おろすことをお薦めします(;・_・+ 
一千万円以下の預金は一応保護されますが、
今度いつ佐銀が復帰するかは不明なので、 不安です(・_・|
信じるか信じないかは自由ですが、中山は不安なので、明日全額おろすつもりです!
松尾建設は、もう佐銀から撤退したそうですよ! 
以上、緊急ニュースでした!! 
素敵なクリスマスを☆彡
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絵文字のあしらわれたこのメールが発端になり、師走の佐賀に、時ならぬ取付け騒ぎが発生しました。
メールの送り主は22歳の女性。クリスマスイブから日付が変わった25日午前1時半ごろ、自宅から26人の知り合いにこのメールを送信。やがてメール転送、メーリングリスト、BBS、そして口コミを通じ噂は広がり、25日午前中には佐賀銀行にも問い合わせが入り始めます。

昼ごろからは、店舗やATMでの払い戻しが増え、一部の店舗では現金が不足し始めます。
3時に店舗のシャッターが閉まった後も、店内には多くの客が残り、5時ごろにはATMが長蛇の列となりました。
ATM操作に慣れないお年寄りが手間取ると行列の苛立ちは募り、現金を追加するためATMを一時使用停止にすると、行列に緊張感と不安感が高まります。
噂を信じていなかった人にもその不安感は伝染し、噂を知らなかった人にはゆがんだカタチで情報が伝わりデマが拡散していきました。
NTTドコモ九州によると、午後5時ごろから佐賀県全域で携帯電話がつながりにくい状態となり、一時発信規制を行ったそうです。
「佐賀銀行のが記者会見するとのテロップがテレビに流れた」との根も葉もない噂が広がりました。
列は列を呼び、7時ごろには本店営業部にある8台のATMには300人の列ができました。
銀行は、倒産情報はデマであるとのチラシを配布しましたが、不安感はおさまりません。
ATMの稼働時間は通常9時までですが、延長していた最後のATMを終了できたのは10時半を回ったころと報道されています。

佐賀銀行の対応を見ていきましょう。
・午前中の問い合わせで、佐賀銀行は既に異常に気づいていました。
・午後1時からの定例常務会の冒頭でこの件が報告され
・2時過ぎには、メールの現物を入手します。
・15時 被疑者不祥で刑事告訴するとの方針を決めて常務会終了
・17時45分 佐賀署にデマメール送信者を氏名不祥で告訴し受理される。
・17時50分 頭取記者会見
新聞報道で、銀行トップの動きを見る限り、告訴に固執し、顧客対応・マスコミ対応には関心が向いてないように見うけられます。
記者会見が遅れたことで、テレビの夕方6時のニュースには入りませんでした。騒ぎを鎮静させるための有効な手段をみすみす見逃したことになります。
記者会見では、記者の質問に「ピークは過ぎた。本店で最大30人程度が並んでいる。」と答えたようですが、実際には、その時点でも200人は並んでいたようです。現場を自分の目で確認することを怠っていたといわれても仕方ありません。
金融機関の取付け騒ぎが起こったときの伝統的対処方法は、店頭に現金の山を作り、顧客に安心感を与えること、店頭に並んだ客は全て店舗ロビー内に誘導し、周囲への波及を防ぐことです。
しかし、街中のATMでの払い戻しが増えた今、伝統的対処の有効性については疑問のあるところです。
佐賀銀行は店頭で、破綻の懸念はないと説明するチラシを配ったり、ハンドマイクで説得しましが、効果はなかったようです。

佐賀銀行は、連結自己資本比率8%を越え、BIS(国際決済銀行)の基準をクリアした地域の優良銀行です。専門家の目から見れば、堅実で安全な地方銀行です。
その佐賀銀行で、何故このようなパニックがおきたのでしょう。
そこにはいくつかの伏線があります。
まず、03年8月26日の佐賀商工共済協同組合の破綻の記憶です。
陣内孝雄参院議員が暫く理事長を務めていたこの組合は、資金運用で失敗した穴を埋めるため、投機的なアルゼンチン債に手を出し、アルゼンチン経済の崩壊による利払い停止のあおりを食い、債権総額約56億円で破産申請を行ったものです。
15700人の組合員には、掛け金の2割程度しか戻らないといわれていました。
九州北部をエリアとする情報サービス、コンサルサービスの企業、データマックスのサイトには、佐賀銀行の中でも、三田川支店(上峰町)は現金がなくなるほど、多くの人が押し寄せてきたとのこと。これは、昨年破綻した佐賀商工共済協同組合(佐賀市)に対し、上峰町住民だけで約4億円引っかかっているといわれている。との噂が紹介されています。
次に、12月に入ると、10日に豊栄建設が、県内過去最大の135億の負債を抱え、民事再生法の適用申請を行います。メインバンクである佐賀銀行は79億円が回収不能になる恐れがあると翌日の新聞で報道されました。
さらに、佐賀県のトップゼネコンで、デマメールでも言及されていた松尾建設にも倒産の噂が根強くあり、これはそのまま佐賀銀行の不安材料と受け止められていました。
そして、12月3日のZAKZAKには、 足利銀行の次は「九州北部のアノ有名地銀」という記事が掲載されています。この記事は佐賀銀行を指した記事ではありませんが、対象を特定していないだけに、漠然とした不安感を醸成しました。

このように、佐賀銀行の財務状況とは無関係に、佐賀銀行および金融業全般に対する不安感が一般化していたようです。しかし、佐賀銀行はこうした一般の空気を理解せず、適切な情報公開を怠っていました。広報担当の専門セクションも存在していないようです。これらの背景として、地銀特有の地元での殿様意識の存在を指摘する向きもあります。
こう考えてくると、佐賀銀行に起こったことは決してひとごとではありません。97年の拓銀以来、大銀行だから安心だとの昔からの「常識」はひっくり返され続けてきました。いままたUFJが漂流し始めています。
地域や顧客は信頼してくれているだろうとの根拠無き思い込みを捨て、堅実かつ誠実に情報公開を行い、理解を求め続けていくことが、今重要だと心すべきでしょう。メールを媒介とした取付け騒ぎは、今後も必ず再発するはずです。

元となったデマメールを発信した“中山”さんは、04年2月17日、信用棄損の疑いで書類送検されました。
佐賀県警は、佐賀銀行からの告発を受け、発信元を辿り、中山さんに行き着いたようです。
彼女はメールの送信前、友人から電話で「佐賀銀行がつぶれるって知っている」と聞かれ、経営危機と信じ込んだということですが、悪意は無かったようです。事実、彼女自身も預金を下ろしていました。
また、警察サイドも犯意や、メール送信と取り付け騒ぎの因果関係の認定は困難でしょうから、捜査はこれをもって終結するでしょう。
なお、佐賀銀行は後日、この一連の騒ぎにより、450~500億円の預金が流出したと発表しています。

デマによるパニックの古典的事例としては73年12月に起こった豊川信用金庫の取付け騒ぎが有名ですが、このプロセスは、日本テレビのサイトディープ・ダンジョンver2.1に詳しく書かれています。