Fireside Chats

ファイアーサイド・チャット=焚き火を囲んだとりとめない会話のかたちで、広報やPRの問題を考えて見たいと思います。

ブッシュが出演したアラビア語テレビって・・・

2004年06月01日 17時28分01秒 | プロパガンダ
アルグレイブ刑務所での収監者にたいする拷問・虐待事件の発覚を受け、ブッシュ大統領は04年5月5日、2つのアラビア語テレビに出演し、『憎むべき行為であり、米軍人の本来の姿を反映していないと釈明、実行者の処罰を約束した』(毎日新聞)。
この時出演したのが、「アル・アラビヤAl Arabiya」と「アルフッラAl Hurra」です。
放送衛星技術の発展で、イスラム圏には成長著しい「アルジャジーラ」をはじめ、「アル・アラビア」、「アブダビ」、「MBC」、「LBC」、「アル・ムスタクバル」など多くの衛星局が誕生しました。
ブッシュの出演した「アル・アラビヤ」は「アルジャジーラ」につぐ評価を得ている衛星放送ですが、「アルフッラ」って何でしょう。
アルフッラ Al Hurraの本拠地はバージニア州スプリングフィールド。04年のバレンタインデーに生まれたばかりの放送局です。

米,中東向け新アラビア語衛星テレビを開始
米政府が出資するアラビア語チャンネル,「アルフッラ(Al Hurra,自由なるもの)」が2月14日から中東22か国向けに放送を開始した。アルフッラは,アメリカの放送理事会(BBG)を通じて議会が資金を提供する非営利組織「中東テレビネットワーク」社が運営する。バージニア州の放送局と中東各地の支局から,アラブサットなど2つの衛星を使って放送される。アルフッラの放送は,ニュースや情報番組を中心とするが,議会から資金援助がなされているため,公正な放送が可能かどうか,疑問視する声も出ている。
  
『放送研究と調査』より

放送を通じたプロパガンダは昔からアメリカのお家芸でした。
二次大戦中の日本に対する謀略放送は、山本武利早稲田大学教授のブラックプロパガンダに詳しく述べられています。戦後もFENはぼくら以上の世代にはなつかしい存在です。
ベルリンの壁を崩し、ソ連邦の瓦解を促した「自由ヨーロッパ放送/ラジオリバティ」はいまでも28ヶ国語で放送され、その中にはチェチェン語も含まれています。02年1月には「ラジオ・フリー・アフガニスタン」も放送を開始しました。

との文脈をたどれば、「アルフッラ」の設立は、アメリカとしては当然の行動です。しかしながら、当初期待した効果はあげられていないようです。

CPAは、テレビが死んだイラク人の亡骸を映し出すのを見たくもないのだ。アル・ジャジーラとアル・アラビアが、アル・フッラをお手本にして、海外に住む占領支持派のイラク人のぎこちないアラビア語インタビュー番組を延々放送したら、連中は大喜びするだろう。もちろん、こういったインタビューの合間には、アラビア語吹替えのドキュメンタリーが散りばめられる。
Baghdad Burning 2004年4月14日(水)

なぜ共産圏で成功した作戦が、今日の中東で成功しないのでしょうか。
一言でいえば共産圏にはアルジャジーラがなかったため成功したといえるのではないでしょうか。アルジャジーラの前では、アルフッラは魅力ないアメリカの大義を一方的に押しつける、退屈な存在でしかありません。
ブッシュ政権が今なすべきことは、2つ。
まず、アルジャジーラとのリレーションを作り上げ、アルジャジーラを通じてイスラム世界からの好意を獲得すべく努力すること。そのためには大胆な、国連への権限委譲はもとより、指揮権の放棄、撤退をも含めた政策変更が必要なことはいうまでもありません。
2番目は、「自由北朝鮮放送」を作ること。アルジャジーラのないここなら、アメリカの戦略もまだ有効でしょう。