気まぐれ徒然かすみ草ex

京都に生きて短歌と遊ぶ  近藤かすみの短歌日記
あけぼのの鮭缶ひとつある家に帰らむ鮭の顔ひだり向く 

森羅 田中律子 ながらみ書房

2021-08-30 02:00:29 | 歌集
こきこきと桃の缶詰あけてをり週でもつとも病むのは火曜

体調のよい日は爪もよく伸びる秋なかぞらに蜘蛛の巣ひかる

ゆめの母がそつとわたしに渡したる赤きバイエル黄(きい)のバイエル

「なるほど」を二度言はれたら商談は成立しない ニューヨーク9時

口かたく閉ぢたる貝が熱き湯に怺へつづけてゐる二、三分

湿りたる遅延証明ねむりたい花も花びら乗せた電車も

眠りたりないわが指さきが朝はやくメロン銀行に送金をする

去勢され寿命を延ばすさくら猫ふりむきざまにかるく会釈す

出かけませう、自粛しませう、水槽の中をただよふ渋谷ヒカリエ

夢の中ではだれもマスクをしてゐない落葉を焚いて五人家族は

(田中律子 森羅 ながらみ書房)

***********************************

塔の田中律子の第三歌集。どんな方かお会いしたことはないが「稟議書」「インサイダーで諭旨退職」などの言葉に、相当活躍されているキャリアウーマンを想像する。「婚姻届」「介護病棟」の歌もあり人生の出来事と作品がリンクしているタイプかと思う。しかし「バイエル」「メロン銀行」「渋谷ヒカリエ」「さくら猫」・・・こちらの言葉の選択にわたしは惹かれるのだがどうだろう。また旧かなへの愛情も感じた。

最新の画像もっと見る