気まぐれ徒然かすみ草ex

京都に生きて短歌と遊ぶ  近藤かすみの短歌日記
あけぼのの鮭缶ひとつある家に帰らむ鮭の顔ひだり向く 

ちいさな襟 岡本幸緒 青磁社

2020-09-13 01:01:30 | 歌集
明日送る予定の書類をつくりたり日付はすでに明日にかえて

秋の陽が床にひろがる古書店の西原理恵子は「な」の棚にいる

船待ちに君の忘れし夏帽子 旅の写真に残りていたり

疼痛の中に冬あり冬くれば冬の痛みがくるかもしれぬ

この部屋を一歩出たならあらわれるような気がする失くしたものは

曖昧にうなずきながら印鑑の溝に埋まる朱をとりのぞく

永遠はどこにもないということを教えるために輪ゴムは切れる

住みたるは五指に満たざりどの街も梅雨のさなかに夏至のある街

モノクロの洋画の中のタイピストちいさな襟のブラウスを着る

目覚ましの機能は壊れ明日からはただの時計をして生きてゆく

(岡本幸緒 ちいさな襟 青磁社)

********************************

塔短歌会所属。第二歌集。事務職らしいが、仕事の丁寧さ、念の入れようが素晴らしく頼もしい。これが微笑ましくもある。目のつけどころが面白い。神経質なのに、いくらやってもまだ足りない気がして、見直してしまうところに大いに共感する。先取り不安があるのだろう。繊細なのにどこか抜けたところにユーモアが感じられる。失礼ながら他人とは思えないほど「脳」が近い気がした。

最新の画像もっと見る