ホスピス、緩和ケア看護覚書*カナダ編

ホスピス看護をカナダから。2013年大学院を卒業しました。カナダ人の夫とは14年たっても熱愛中。

どっちがすごい?

2011年09月15日 | 訪問看護
先日、ペインコントロールが難しい患者の訪問を頼まれた。大腸がん。ペインコントロール目的でTPCUにしばらくいた。腸閉塞が疑われたが、ネガティブだった。退院後もコントロールできていないとのこと。分厚いチャートの情報を入念に読んでみる。退院と同時にがんセンターからも退院させられた。理由は治療の対象ではなくなったからだ(薬が効かなくなった)。スペイン語を母国語として英語力は乏しいと書いてある。前回の訪問は通訳と一緒に行われた。私だってスペイン語話さないのに、、、と訪問前から文句を言いそうになる。できる範囲でやってみようと、出かける。

アパートの入り口のインターコムは壊れていた。電話をかけると本人がドアを開けに来てくれた。笑顔とスタスタ歩く姿に兄弟?と思ったほどだ。でも皮下注射のポートが腕からブラブラしている。
問診を始めると、今のペインは7/10だと言う。え?あんなに元気そうに歩き笑顔いっぱいで、会話もできるのに???彼の英語は悪くなかった。根気良く聞いていると、詳しく話してくれる。
一時間に渡る訪問中に私が感じたのは、彼のトータルペインだ。移民前は歯科医だった。カナダへ来て英語を学んでいる時にガンと診断された。妻も彼の治療や介護に追われて学校を辞めなければならなかった。小さなアパートに姉と3人で暮らしている。子供達は母国に残して来たままだ。最近は治療のことを考えて眠れないと言う。いつになったら手術でガンを取り除いてくれるのだろうかと。病院やがんセンターからの記録によると手術の対象ではないと言われている。熱心なカトリック教でもある。スピリチュアルペインについてはすべて否定をする。
もちろん基本的なペインコントロールの目的や注意点をおさらいした。使っているレスキューの頻度は多い。しかしメインの麻薬が急上昇しているし、非言語的な症状からは必要性が見出せなかったので、タイトレーションはしなかった。

帰る頃には本人も妻も私の訪問を喜び感謝していた。SWへの紹介も承諾してくれた。
わたしは経済的な不安や文化の違いによるギャップについてSWに関わってもらいトータルペインが軽快しないだろうかと思ったからだ。
オフィスに戻って他の看護師と彼の話をした。
彼女はSWより緩和医師への紹介の方が大切なのではないかと言う。しかしTPCUですべのワークアップをしたばかりだ。リポートを読んでみると社会面や経済的なところが抜けていると感じたし、観察からもその必要性が疑われた。彼女は看護歴も緩和ケア歴も長い。緩和ケアが大好きな彼女との論議はいつも楽しい。しかし今回は少し違った。英語が話せない患者と通訳無しで訪問してどうしてこんなに情報が集まったのかと。彼女は言った、気にしないでね、みかはアクセントがあるでしょう、だからみかが話したことに好い加減に答えていたんじゃないのか、と。移民者のことをそう言うふうに考えている、英語スピーカーとしての高飛車な態度だと思った。私は大声で言い返したかった。あのね、私は彼の立場にいたのよ、英語が話せない、聞こえない、理解できない、苦しみを。だから英語が話せるあなたより、ずっと忍耐強く聞くことができるし、話しやすい環境作りもできるの!って。
流暢に話せることよりその人の苦しみが聴けるハートの方がずっと大事なんだから!て。きっとこの気持ちは文化も言語も違う異国に住んだことがない人にはわからないだろうな、と思い会話を終わらせてしまった。

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