――生体熱線砲《バイオブラスター》か!
キメラなどが備えたレーザーなどの熱線砲の照射器官を生体熱線砲《バイオブラスター》といい、その熱線照射器官を備えた個体を生体熱線砲装備型《バイオブラスタータイプ》と呼ぶ。ほかに同型種がいようがいまいが、ほかの種類のキメラと区別がつきやすい様にするためにバイオブラスターと呼ぶことに決めたのだが――はそれ《・・》の同型種らしい。
廊下で遭遇戦になった個体がこ . . . 本文を読む
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アルカードが足を踏み出すたびに、不気味なほどに静かな踊り場に装甲板がこすれあう音が響く。
先ほどの遭遇戦のあと五階層ぶんの索敵を終えたが、いまだにキメラに一体も遭遇していない――ブラック、ブルー、レッド、グリーン、イエローの合計五つの狙撃チームからはなんの報告も無い。
時折前線指揮所《ゼロ・ブラヴォー》からの定時点呼があり、それに対して各狙撃チームが応答を返すくらいだ。
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「――第三眼瞼《がんけん》?」
第三眼瞼は瞼とは別に存在する、もうひとつの瞼の器官である。
瞼は通常上眼瞼と下眼瞼、要するに上瞼と下瞼のことだが、つまり上下に二枚ある。第三眼瞼とは通常の瞼の内側にあるスクリーン状の瞼で、垂直に開閉する通常の瞼と異なり水平に開閉する様に出来ている。
第一眼瞼と第二眼瞼の内側にあるために、キメラ学者たちはこれを第三眼瞼と呼ぶ――身近なところでは犬や猫、キツネザル . . . 本文を読む
アルカードはそう言ってから手首を振って指先の水気を飛ばしながら、
「ただ、これは『クトゥルク』が作ったものじゃない――あのあばずれはキメラ学は専門外のはずだが、端末の製作だけに関して言えばベアトリーチェ・システティアーノ・ロザルタはもっと技量が上だ。『式』の構築も甘いし、宝石の純度も低い。いったん『解体』して、『式』を編み込むときの技量が低いとこうなる――これじゃあ思念を使って使い魔に干渉出来る . . . 本文を読む
四種類の武器をすべて兼備したキメラ一体でも厄介だが、最初に遭遇したキメラと先ほどのキメラが別々の個体であるならば、さらに厄介なことになる――仮に『彼ら』が四種類の能力すべてを持っていなかったとしても、こちらの『動きを止める』能力が分散しているという事実は手数という意味で深刻な脅威になる。どちらかを受けた時点で、もう一方の攻撃も受けることになるからだ。
最大の問題は、敵の数と能力がわからないこと . . . 本文を読む
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「行くぞ。索敵を再開する」
アルカードの言葉にうなずいて、エルウッドは千人長《ロンギヌス》の槍を拾い上げた。
いつまでもスプリンクラーの作動している室内にいても仕方が無い――し、窓硝子が破壊されたせいで外から風雨が吹き込んできている。アルカードたちが帰国した段階でもかなり風が強かったが、そのときよりもかなり風が強くなっている様だった。
風のせいでひどく寒かったので、ふたりは . . . 本文を読む
ふっ――鋭く呼気を吐き出しながら、その場で時計回りに転身する。
「Iyyyyyyyyyraaaaaaaaaaa《イィィィィィィィラァァァァァァァァァァッ》!」 アルカードはそのまま回転の勢いを乗せて塵灰滅の剣《Asher Dust》を振るい、鎧の中身の鼻から上を削り取る様な軌道で一撃を叩き込んだ。
まともに入れば重装甲冑ごと頭蓋を削り取っていただろうが、鎧は斬撃の軌道に右手の長剣を差し込む様に . . . 本文を読む
酷い耳鳴りに耐えながら、アルカードは手にした塵灰滅の剣《Asher Dust》の鋒を下ろした――急激な気圧変化のせいで配管に栓をしている硝子バルブが砕けたのだろう、室内のスプリンクラーが作動して大量の水が降り注いでいる。
派手に頭を打ったのか首を振っているエルウッドを見遣って、
「大丈夫か?」
「なんとか、な。だがなんの真似だ?」 アルカードがこんな場所で世界斬《World End》を使ったこ . . . 本文を読む
「完成したキメラの卵を保存しておけば、いくらでも量産出来る――適当なところに女を何人か攫ってきて、そいつらの子宮にキメラの卵を植えつければいい。着床して胎盤を形成した卵が女の体からカロリーと栄養を根こそぎ奪い取りながら急速な細胞分裂を繰り返して、あっという間にキメラの群れの出来上がりだ」
「あっという間って――」
「文字どおりの意味だ――といっても、さすがに瞬きひとつというわけでもないが」
そう . . . 本文を読む
「――躱せ!」
アルカードの警告よりも早く――細かい霧状に飛び散ってきたそれを、単なる勘で横に跳んで躱す。しかしその隙に、敵の姿は柱の陰に隠れて見えなくなった。
柱の向こうに廻り込んでも、すでにその姿はどこにも無い。
「くそっ――」
エルウッドに投げ返された撃剣聖典を弾き飛ばすために銃撃を行い、その結果化け物に対して銃撃を加える機を逸したからだろう、アルカードが小さく毒づく。
「ゼロ・ブラヴ . . . 本文を読む
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十五人目の死体を調べ終えたところで、アルカードは苛立った気分を吐き出す様に肺の奥から深く息を吐いた。
このロビーだけでも死体の数は五十人を超える――ばらばらになっているものを集めてみたら、少なくとも五十人ぶんの部品が集まったのだ。
このホテルは別館も含めると千室を超えるのだ――別に千室すべてが埋まっているわけではないだろうが、複数連れの客もいることを考慮すると、それに近い人 . . . 本文を読む
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「おら、並べ、並べー!」 兵士のひとりが手にした松明を振り回し、横柄な口調で声をあげる。
別な兵士に突き飛ばされて、隣人の男性が自宅の壁に背中からぶつかった。
「貴様ぁ、並べといったのが聞こえなかったのか!」
突き飛ばした兵士が、後頭部を打ちつけたのかかぶりを振っている隣人を手にした松明で殴りつける。
横殴りに倒れ込んだ男性の鳩尾に何度か蹴りを入れたところで、兵士は怒鳴り声 . . . 本文を読む
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ぱちんという薪の爆ぜる音に、ナタリーは目を醒ました。
ひどく肌寒い――眠っている間に蹴ってしまったのだろうか、ベッドのシーツも無い。
目を開けてみると、視界に入ってきたのは見慣れた村の自宅の梁ではなく、木の枝を固縛して作った三角形の小さな枠に布をかぶせた簡素な天幕の布地だった。
動こうと思ったが、妙に狭苦しい――視線を転じると、隣にメアリが横になっているのが視界に入ってき . . . 本文を読む
3
「……どう思う?」
噎せ返る様な血の臭いが渦巻くホテルのロビーで、アルカードはかたわらにたたずむエルウッドに声をかけた。
「いくらなんでも、これはあからさますぎる気がするんだが」 柱に壁にへばりついた腸の切れ端を見ながら、エルウッドがそんなことを答えてくる。彼はカウンターの上にうつ伏せに倒れ込んだ受付の従業員の亡骸を見遣り、
「これは吸血鬼の仕業じゃないな」
その言葉に、アル . . . 本文を読む
「つまり、仕込みをするのは単なる目晦ましだってことか」
「そういうことだ。今の弱体化した『クトゥルク』がそれをする意味はあまり無いと思うが、日本の歓楽街という絶好の狩り場を放棄するつもりになれば、別に日本国内にとどまる意味も無い――今は奴の魔力がさほど回復していないから、そっちを優先して日本国内にいる可能性のほうが高そうだが」
手の中に残った齧りかけのカステラを口の中に放り込み、コーヒーの残りを . . . 本文を読む