徒然なるままに修羅の旅路

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The Evil Castle 17

2014年11月09日 23時14分46秒 | Nosferatu Blood LDK
 四種類の武器をすべて兼備したキメラ一体でも厄介だが、最初に遭遇したキメラと先ほどのキメラが別々の個体であるならば、さらに厄介なことになる――仮に『彼ら』が四種類の能力すべてを持っていなかったとしても、こちらの『動きを止める』能力が分散しているという事実は手数という意味で深刻な脅威になる。どちらかを受けた時点で、もう一方の攻撃も受けることになるからだ。
 最大の問題は、敵の数と能力がわからないことだった――現時点では少なくとも二種類。
 冷気攻撃と生体分子モーターのドリル、シアノアクリレートと繊毛状の鞭。遠距離攻撃と近距離攻撃を一セットとして考えて、それらを兼ね備えた個体は今のところ見ていない――先ほど室内で襲ってきたキメラは、ロビーで交戦した個体とは外観が異なる。とっさのことでぱっと見ただけだが、ロビーで交戦した個体の脚は人間で言えばふくらはぎに相当する部位が異様に太かった。
 ふくらはぎが大きく膨れ上がっており、そこからホースの先端の様な管状の器官が延びていたのだ。エルウッドに足を向けてシアノアクリレートを浴びせかける瞬間大きく膨らんだふくらはぎが収縮し、続いてくるぶしのあたりにある管状器官の開口部からシアノアクリレートが噴出した。
 つまりその膨らみの部分にあらかじめ貯めておいたシアノアクリレートを膨らみの収縮によって水鉄砲の様に押し出し、噴射しているのだ――冷気攻撃を仕掛けてきた個体には、その膨らみが無かった。
 数が現時点で判明していないのも問題だが、それ以上に能力が未知なのが厄介だった。戦闘用のキメラとして造ったのなら、本来ならあの鞭だけでも十分な脅威になるはずだ。
 極低温冷凍器や生体分子モーターのドリル、体内でシアノアクリレートを合成して噴射することによる接着能力といった高度な附加機能を組み込んでいる――ということは、ほかにもなんらかの強力な武器を備えた個体がいてもおかしくない。
 さらに最初の遭遇戦がそうだった様に、あのアルカードにさえ一切気づかせないまま至近距離まで接近することも出来るのだ――こちらが気づかないうちに至近距離から攻撃を仕掛けられたら、極めて危険な状況に陥ることになる。
 奴の思考は単純だ――エルウッドは胸中でつぶやいた。
 奇襲に失敗したから撤退した。
 二度目も同じ、ただしロビーで皆殺しにした者たちと違って反撃の能力を持っていることがわかったから、威力偵察も兼ねていた。
 つまり、自分にとって最適な攻撃が奇襲であることを理解している。
 ならば、次は?
 ここに何体のキメラがいるのかはわからないが、一体だけで仕掛けた奇襲が二度とも失敗した以上、三回目は数を増やすだろう――キメラ同士の共喰いが起こらず、不利と見て即座に撤退を選択するだけの知能があるということは、彼らに作戦を立てて行動する能力がある可能性を示唆している。
 群れで狩りをする動物はたいていそうだが、作戦を立てて獲物を追い込み仕留めるために役割分担を行って行動する。彼らに仲間意識があるのなら――あるいはたがいにコミュニケーションをとる能力があるのなら、たとえ敵対していても新たな脅威に対応するために共闘を選択するだろう。
 ならばどうくる?
 遠距離からでも使いやすい能力を持っているのは、一階ロビーで最初に仕掛けてきた個体のほうだ――シアノアクリレートはそれなりの遠距離からでも役に立つが、反面あの鞭状の武器は振るうために開けた空間が必要になる。
 対して、冷凍能力は近接距離のほうが効果が高い――さらに標的に向かって真っすぐに撃ち込むことの出来る伸縮自在の掘削器官ドリルも、軌道が直線的で読みやすいという欠点はあるものの狭い空間ではもう一体の鞭に比べて扱い易い。
 読め――敵を読め。呪文の様に、胸中でそう繰り返す。
 先ほどまでは、一匹ずつ仕掛けてきて失敗した。ならば次は複数同時――そしておそらく次は強行偵察ではない。
 ゴツン。今度は背後――アルカードの前方で音がした。アルカードが攻撃を仕掛けないということは、まだ正確な位置がわかっていないのだろう。
 だが、二匹以上が連携を取って行動しているのならば――
「――接敵コンタクト!」 アルカードが声をあげ、同時にサブマシンガンの銃声が廊下に響き渡る。
 同時にぎええええ、という叫び声が聞こえてきた。
 エルウッドの警戒している側には動きは無い――否、もし彼らが連携を取って行動する能力があり、かつ、今回はおそらく単独行動ではない。だとしたら一体が姿を見せ、ふたりともが姿を見せた一体に注意を集中していると考えて――
「――頭上を崩す!」
 声をあげて、エルウッドは手にした千人長ロンギヌスの槍を廊下の天井に突き立てた。天井をぶち抜くのとはまた異なる鈍い手応えとともに、天井裏からぎええええええ、という甲高い絶叫が聞こえてくる。そのまま長大な大身槍を振るうと、その一撃で引き裂かれた天井板をぶち破って片腕を切断されたキメラが床の上に落ちてきた。
 同時にその一撃でスプリンクラーの配管が破壊されたらしく、天井のパネルの裏から配管の錆つきのために若干赤味がかった大量の水がしたたり落ちてくる。
 床の上で跳ねる様にして体勢を立て直したキメラが、ごええええええっと耳障りな叫び声をあげた――小さく舌打ちを漏らして、手にした千人長ロンギヌスの槍を踏み込みざまに突き込む。
 立て続けに突き込んだ刺突を横跳びに躱したキメラが、続いて左手に構築した撃剣聖典の長剣の投擲を躱して真上に跳躍した――投げつけた長剣が目標を失って轟音とともに床に突き刺さり、それを躱したキメラがまるで蛙の様に天井の無事な箇所にへばりついてげえええええ、と声をあげる。
 しぃっ――歯の間から息を吐き出しながら、エルウッドは千人長ロンギヌスの槍を両手で肩に担ぐ様にして振りかぶった。そのまま鋒で天井を引っ掻く様にして、真直に振り下ろす。
 高い天井を鋒でかすめながら襲いかかってくる穂先を躱して、キメラが再び天井から床へと飛び降り――空中で体をひねり込んでうつ伏せに着地する。
 ガアンと音を立てて千人長ロンギヌスの槍の穂先が床の上で跳ね――衝突の反動で鋒を浮かせた大身槍を、エルウッドは踏み込みざまにまっすぐ突き込んだ。
 空中で一回転しながら後方へ跳ねる様にしてその刺突を躱したキメラが、残った片手を振り回して飛来した短剣を払いのける――数本投擲したうちの一本が弾き損ねて脚に突き刺さり、キメラが悲鳴をあげながら着地にしくじってその場でうずくまった。
 刺突を回避したときの追撃として、事前に構築して法衣の袖に忍ばせていた短剣を投げつけたのだ――横方向に跳躍するならはずす可能性も高いが、前後方向に動いて回避するなら命中させるのはさほど難しくない。跳躍して体が空中にある間は、キメラの速度も方向も変化しないからだ。
 床に這いつくばって叫び声をあげるキメラに続く一撃でとどめを呉れんとして床を蹴ったそのとき、キメラが残った左手の鈎爪を突き出してきた。その爪の先が陽炎に包まれているのを見て取って、戦慄とともに後方に向かって跳躍し――だが突き出された鈎爪が高速で伸張し、その尖端がこちらの胸元に肉薄してくる。
「くっ――!」 躱しきれないと判断して、エルウッドは鈎爪を千人長ロンギヌスの槍の鋒で払いのけた――軌道をそらされた鈎爪の尖端が壁に引っ掛かり、傷跡を発生源にして壁紙が燃え上がる。
 恒常性ホメオスタシス――あの鈎爪、放熱器官か!?
 恒温性生物であればどんな生物でも持っている、カロリーを消費して自身の体温を一定に保とうとする働きのことを恒常性ホメオスタシスという――おそらくあれは自身の恒常性を過剰に稼働させて体内に高熱を溜め込み、それを遠赤外線かなにかに変換して爪から放出しているのだろう。
 今こうしている間にも鈎爪から放出された熱がこちらに届いて、服の上から肌を焼いている――触れたものを瞬時に燃焼させるほどの高熱だが、多少距離が空いているためにそこまでの被害は無い。遠赤外線による輻射効果は、距離が離れれば離れるほど弱くなる――それにあれの能力は性質こそ異なるものの、先日のガーゴイルと同様長続きするものではないはずだ。
 恒常性ホメオスタシスは体内に蓄積されたカロリーを、そのまま熱に変換している――過剰に稼働させればカロリーの消費量も跳ね上がる。要するに燃費が悪いのだ。体内に蓄積されたカロリーの量は一定だから、当然補給しない限りいずれは底をつく。あの放熱器官の稼働にも、じきに限界が訪れるはずだ。
 ならば長期戦に持ち込めば勝てる、が――これでキメラは三種類。アルカードと戦っているのが冷凍ガスとシアノアクリレート、どちらの遠距離攻撃手段を持っているのかはわからないが――
 胸中でつぶやいたとき、キメラが左手の甲をこちらに向け――次の瞬間肩に焼けつく様な激痛が走り、エルウッドは苦痛に身をよじった。
「っがぁっ……!」 身に纏った法衣が、ぼうっと音を立てて燃え上がる――髪の毛や肌に燃え広がらなかったのは、法衣が先の散水で水分をたっぷり含んでいたお蔭だった。
 追撃を警戒して前方を薙ぎ払いながら敵に向き直り――キメラがこちらに向けた手の甲に、大粒のルビーの様なものが喰い込んでいるのが見えた。
 さっきはあんなものは――否、周囲の肉が瞼の様にルビーを覆っていたらしい。ブリリアントカットに似た形状のそのルビーは、おそらく――
 赤外線レーザー――生体熱線砲装備型バイオブラスタータイプか!
 おそらくあれは、体内に蓄積した熱を遠赤外線に変換して、それをあのルビー状の照射器官から収束して照射しているのだろう――放熱爪に比べて攻撃範囲は狭いが、おそらく焦点温度は千度を超えるに違い無い。
 こちらが体勢を立て直すより早く、キメラが床を蹴る――撃剣聖典を保持した左肩はレーザーに焼かれて思う様に動かず、右手の千人長ロンギヌスの槍は片手ではここまで俊敏な相手には対応出来ない。持ち替えている暇も無い。残る選択肢は獣化することくらいだが――
「――ライル、頭を下げろッ!」 アルカードがあげた声が、耳朶を打つ――とっさにその指示に従ったとき、頭上で銃声が轟いた。胸部にフルオートで九ミリ口径の銃弾を撃ち込まれ、飛びかかろうとしていたキメラが体を仰け反らせる――キメラの胸部がフランビジリティーの着弾の一瞬膨張した様に見え、口蓋から大量の血を吐き散らして、キメラはその場でもんどりうって倒れ込んだ。
 だが、今のフォローでアルカードは自分が戦っていたキメラに対して致命的な隙を作ってしまったはずだ――エルウッドがアルカードの敵に対して攻撃を行おうと振り返ったときには、すでにアルカードの背後から肉薄していたもう一体のキメラが彼の背中めがけて鈎爪を突き込んでいた。
「アル――」
 ドン、と音を立ててアルカードの体が揺れる――だが、鈎爪で背後から彼の胸郭を貫いたはずのキメラの目の前で、アルカードの体がふっと消滅した。
 突然の目標の消失に驚いたのかギギギと声をあげながら周囲を見回すキメラの背後で、真白い霧が集結する。
「――残念」
 凝り固まった霧の中から姿を現したアルカードが唇をゆがめて笑い、人間態に戻る際に肩に担ぐ様にして構えていた塵灰滅の剣Asher Dustを振るう。その一撃で肩から股間までを割られ、キメラはこぼれ出した自分の臓物の上に倒れ込んだ。
 ほっと胸を撫で下ろしたエルウッドに、アルカードが視線を向けてくる。
「大丈夫か?」
「ああ、ちょっと派手にやられたが――まあすぐに治るよ」
 そう答えてから、エルウッドは肩に手をやって状態を確認した。衣服は燃え上がったために黒く焦げてぼろぼろになっているが、その下の火傷はさほどのダメージではない。法衣が濡れ鼠になっていたためにそれを乾燥させるために威力が削がれたのが大きかった。
 レーザー・ビームは霊体にダメージを受けるたぐいの攻撃ではない――彼の治癒能力ならそれほどかからず治るだろう。腕も数分以内に思い通りに動く様になるはずだ。
「そういえば、あんたは霧に化けられるんだったな」
真祖だけの特権だがな」
 アルカードがそう返事をして、天井を振り仰ぐ。
 靄霧態ミストウィズイン――
 ロイヤルクラシックの『剣』だということになっている・・・・・アルカードが、その情報通りなら当然使えないはずの形態変化能力のひとつだ。周囲の空気中の水分を触媒にして霧に姿を変え、高速移動や緊急回避、広範囲の捜索などを可能にする。
 エルウッドをフォローするために自分が相手にしていたキメラに背を向けたアルカードは、攻撃を加えたあとそのまま靄霧態へと変化したのだ――それで敵の位置や体勢が正確に把握出来、またその状態ではキメラの攻撃は彼には通用しない。
 だが――
体調コンディションはどうだ? ここの気温じゃ――」
 アルカードが霧に姿を変えるためには、十分な水蒸気が必要になる――液体のままでもかまわないのだが、それを使って一定量の水蒸気を作り、そこに溶け込む形で変身するのだ。
 そのため靄霧態をとるためには空気中の飽和水蒸気量、そしてそれを決定するその場の気温が重要になってくる。
 空調が落ちて久しい廊下はすでに息が凍るほど冷え切っており、アルカードが靄霧態をとるのには到底足りない。その状態で靄霧態に変化するためには、水蒸気量の不足を補うために自分の体内の水分を使わなければならないのだ。
 使った水は消費されて元に戻らないため、変身解除後のアルカードは水不足の状態に陥る。
 エルウッドの質問にアルカードは軽く首を振って、
「問題無い――心配してもらうほどのことじゃない。一瞬だったからな」
 そう答えて、アルカードは腰の雑嚢から合鍵を取り出すと手近な部屋の施錠を解除して中に入り、じきにミネラルウォーターのペットボトルを持って戻ってきた。
 備えつけの冷蔵庫から取り出したものだろうペットボトルの封を切り、中身を飲み下してから、エルウッドに視線を向ける――不要だという様にかぶりを振ると、アルカードは残りの水を全部飲み乾してからペットボトルを脇に置いてキメラの屍のそばまで歩いていった。
 アルカードが足元に倒れ込んだキメラの体の下に脚甲の爪先を入れて、脚の力でその体を引っくり返す。ここまでやってもまだ死んでいるかどうかわからないからだろう、アルカードはキメラの顔面に踵を叩きつけて頭蓋骨を踏み潰した。
 ことここにいたって、キメラの体がしゅうしゅうと煙をあげながら溶け崩れてゆく――今の頭蓋砕きがとどめになったのか、死んでから一定の時間が経過したがゆえの現象かはわからない。
 客室で死んでいたキメラの赤子と同じだ――キメラの血が、肉が、骨が、ドロドロに溶け崩れ、なんの意味も持たない粘液となってスプリンクラーの水に洗い流されてゆく。
 アルカードが煙――というかそれほど長く漂わずに消えてゆくところを見ると、煙ではなく湯気なのだろうが――をあげながら消滅してゆくキメラの屍に視線を落としていたアルカードが、
「ん?」 と声をあげて、キメラのそばにかがみこむ。
 彼はなにを見つけたのか脛の装甲の外側に括りつけた鞘から引き抜いた真っ黒な短剣の鋒でみるみる溶け崩れつつあるキメラの脳髄を掻き回し、そこからなにかを拾い上げた――こびりついた脳髄や血をスプリンクラーの散水で洗い流し、照明に翳して子細に観察する。
「これは――」 そんなつぶやきを漏らしながら、アルカードはその場で立ち上がるともう一体のキメラに視線を向けた。
 こちらもすでに湯気を立てながら崩れ始めているキメラのそばに歩み寄ってそのキメラの頭も同様に踏み潰し、頭蓋骨の中身を確認し始める。
「どうしたんだ?」
 エルウッドの問いかけに、アルカードが足元から拾い上げたものを胸の前に翳す。彼はその物体にこびりついた血や脳髄を先ほどエルウッドが破壊したスプリンクラーの配管から流れ出す水で洗い流してから、エルウッドに向かってふたつまとめて放って寄越した。
 空中で受け取ったそれは、指先ほどの大きさのルビーに似た宝石の様な鉱物だ。一体につきひとつずつ埋め込まれていたそれを光に翳してよくよく見ると、内部に六芒星が浮かんでいるのがわかった。
「これは?」
 エルウッドの質問に、アルカードはスプリンクラーの水で指先に残った脳髄を洗い流しながら、
「魔術の『式』を編み込まれた端末だ――魔術師が思念を介して使い魔の感覚を読み取ったりするための触媒だよ。リモコンの端末みたいなもんだ。すべての個体がそうなのかはわからないが、少なくともこいつは魔術師の指示で動いていたんだろう――飼い主から大雑把な指示を受け取って、それに基づいて自律行動していたんだと思う。キメラを使い魔にして操っていたんだ。これは『放牧』じゃない――魔術師が直接、なんらかの命令を下してる」

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