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「――で、結局なにもわからずじまい、か」
優雅な仕草でお茶をすすりながら、エルウッドがそんなことを言ってくる。アルカードは伝票を彼の前に置きながら、
「残念ながらな」
「おいおい、せっかく顔を出したのに金を取るのか?」 アルカードのおごりだと思っていたのか軽く抗議してくるエルウッドに、アルカードは微笑んでこう答えた。
「おまえは注文しただろう? おごりだなんて俺はひとことも言っ . . . 本文を読む
*
ガタンという音を聞きつけて、アルカードは目を開けた――正面にあった焚火を飛び越える様にして前方に身を投げ出し、凍結した地面の上で一回転してから体勢を立て直す。
同時に刺殺用の短剣の柄を握り直し、周囲に視線を走らせ――
ふたつを除いて、周りの状況はなにも変わっていない――薪がいくらか燃え尽きて火が小さくなっているのと、もうひとつ、つっかい棒がはずれて窓板が閉まっている。
動き . . . 本文を読む
少し体温が下がりすぎている――半端に溶けてシャーベット状になった雪が鎧下に沁み込んで、それがまた体温を奪っていく。
体温が元に戻るにはしばらくかかるし、食事も必要だ。ここの連中の食糧が無いかと思って周囲を見回したが、どうも備蓄糧食のたぐいは無いらしい。
まあ、末端兵士の食糧に期待してもろくなものはもらっていないだろう――洋の東西を問わず、世の中なんてそんなものだ。ハンガリー王国から供給されて . . . 本文を読む
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外気温が低いうえ風速冷却と表面に附着した雪のせいで冷え切った馬鎧が冷たいのだろう、跨った立派な栗毛の馬が苦しげに嘶きを漏らす――全身を鎧う甲冑の装甲板は完全に冷え切っており、指先は凍え力が入らない。それなりに防寒を整えたアルカードでもそうなのだ、体表にじかに馬鎧を着けた馬の負担は彼の比ではあるまい。
展開した『帷子』は外気温の影響こそ遮断するものの、雨粒や雪といったものの附着 . . . 本文を読む
「知ってるか? 普通の人間が想像するほど、人間の耳は曲がりくねった構造はしてない――このまま力ずくで押し込んだだけで、このドライバーの尖端は貴様の鼓膜を突き破って耳の内部に入り込む。実際に鼓膜が破れた経験はあるか? あれは痛いぞ――麻酔無しで歯をへし折られるのと、どっちがましだろうな?」
アルカードはそんなことを言いながら、がたがたと震えている鶏山の耳の穴に差し込んだドライバーの柄を軽くひねった . . . 本文を読む
1
ひゅう、と音を立てて、硝子の割れた窓から吹き込んできた冷たい風が頬を撫でてゆく。手近にあった埃まみれのベンチに近づいて、アルカードは溜め息をついた。
何度見回しても、変電所の中の空間はだだっ広い――おそらくは資材搬入用のものだろう、UFOキャッチャーに似た電動式クレーンが設置され、天井から伸びたチェーンの先の頑丈なフックが床から一・八メートルほどの高さで揺れている。
電動式 . . . 本文を読む
今日はねー、単車の水を交換しようと思ってたんですが、この雨の中では作業したくないですね。
仕方が無いから、朝から移転作業にいそしんでおります。万物砕く破壊の拳《Ragnarok Hands》を使うくだりは、久々の大型の修正でした。
あとはコールオブデューティ アドバンスウォーフェアの発売まであと二日ですね。
. . . 本文を読む
†
ドズンという轟音とともに地響きが建物を震わせ、理紗は驚いて壁の穴から地上を見下ろした。
あのコンクリートで出来た巨大なカニが、いったいなにをどうされたのか、地面にべったりとへばりついている。
否、あのカニの脚はすべて先端が尖っていたから、尖端が地面に喰い込んで移動には難儀するだろう。それは容易に想像がつくが、今はカニの無事な脚すべてが深々と地面に喰い込んでいる――まるで上か . . . 本文を読む
闇夜に慣れてきた目は、薄暗がりの中で仰向けに倒れた女性の姿をはっきりと捉えている。近づこうとして、ヴィルトールは噎せ返る様な悪臭に顔を顰めた。
血の臭いに混じって漂ってきているこの臭いは、間違い無く――
果たして近づいてみれば、倒れているのはやはり知った顔だった。
その惨状が見える距離まで近づき、実際の状態を目にして口元に手を当てる――ひどい有様だった。
衣服は剥ぎ取られているが、その下 . . . 本文を読む
*
「Shaaayaaaaaaaa《シャァァァァイャァァァァァァッ》!」
咆哮とともに――血の滴る槍を振り翳し、法衣の男が床を蹴った。重い風斬り音とともに水平に薙ぎ払われた槍の穂が、接近してきていた子ガニ数体を一撃で両断する。
穂先を濡らす血雫が振り抜く動作に合わせて空中に舞い散り、軌道を追うかの様に血煙を漂わせた。
およそ槍という武器に対する日本人の想像からはかけ離れた長大な . . . 本文を読む
「……!」
観音開きになったカバーの下にシャワーヘッドの噴出口、あるいは水鉄砲の銃口の様な、ごく小さな小孔《オリフィス》がいくつか覗いている――それを目にして、アルカードはとっさに跳躍した。
小孔《オリフィス》――否、噴射装置《インジェクター》か。から噴射された細く細く束ねられた白濁した液体が、舐める様にして床を撫で斬りにする――液体が触れるや否や、床が白くまばゆい激光と轟音を発した。
円陣 . . . 本文を読む
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「ライル、細かいのは任せた。俺はあのデカブツをやる」
ライル・エルウッドにそう言い置いて、彼のぞんざいな返事を聞き流しながらアルカードは前に出た。
先ほどガーゴイルの打擲から救い出した少女が、こちらの背中を視線で追っている。なにか服でも貸してやりたいところだが、三十七キロもあるコートではなんの役にも立つまい。
救い出したときにプラスティック製のタイラップは切断しておいたから . . . 本文を読む
「あ? ……」
なにが起こっているのか理解出来なかったのか、坂崎が間の抜けた声をあげ――次の瞬間、口蓋からあふれ出した大量の赤黒い血が床を濡らす。
それは全長七メートルはあろうかという、コンクリートで出来た鈎爪状の物体だった――だがそんな物でも高速で振るえば、人体くらいは簡単に貫くらしい。
「ぎゃぁぁぁぁッ!」 それでもまだ悲鳴をあげる余力はあったのか――坂崎の喉から悲鳴が漏れる。だが次の瞬間 . . . 本文を読む
「すみません、でした」
「あん? なにが?」
「●●●にお口でご奉仕するのを拒否して、すみませんでした。わ、わたしの――」 屈辱に肩を震わせながら、少女が蚊の鳴く様な弱々しい声を出す。
「わたしの、汚い舌で、貴方の●●●を舐めさせて、ください――わたしの汚い口を、貴方の●●●で綺麗にしてくだ、さい――」 耳をふさぐことも出来ないまま、理紗は泣き濡れる少女の姿から視線をそらした。どれだけ彼女を辱め . . . 本文を読む